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私には前世の記憶がある  作者: ハシドイ リラ


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7/7

他にもたくさんの道があったのに

修道院の朝は早い。まだ陽が昇り切る前に起床し、簡単に身支度を整えたら朝の清掃が始まる。

全体を掃き清めたら次は拭き掃除だ。

固く絞った雑巾で窓も机もドアも壁も。一つの拭き逃しもゆるされない。当然お湯なんかない。手が凍りつきそうな冷たい水に潜らせ、絞り、拭き、洗い、また絞り。


※※※※※


あかぎれにも慣れてきた、今になって思う。

公爵令嬢として傅かれて生きてきたのに、血の繋がりもない娘のために必死で働いて育ててくれた母。


そんな母を裏でサポートし、碌でもない男の娘の成人まで見守ることを許してくださった公爵様。


成人後に男爵位を継がせてやりたいという母の気持ちを汲んで学園に通わせてくださった侯爵様。


…私が僻んだりなどしなければ。弁えた態度で接していれば。身分の差はあれど、良き学友として接してくださったであろうクリスティーネ様。


愛情に溢れた環境で人に感謝しながら懸命に生きる道だってあったはずだ。なのに周囲の思いを踏み躙り、裏切り続けた私にはこの生活でさえ勿体無い。


人の思いを鼻で笑い、足蹴にしてきた。それでもたくさんの人が手を差し伸べようとしてくれたのに。

せめてあの時。欲をかかずにソルビタン様と男爵位を継いで生きていく決心がついたなら。

贅沢はできなくても、ささやかでも、幸せな家庭を持てたかもしれない。

何度も自問するが今さらな話だ。

結局私は前世から何も変わることはできなかった。


来世が


もし来世があるなら、今度こそ。感謝の心を忘れず、ささやかな事に幸せを感じる人生を歩みたい。





そんな風に思えるようになった頃、天涯孤独のはずの私に贈り物が届いた。

ハンドクリーム。

手紙も何もない。けど。

こんな私をまだ心配してくれる人がいる。

大したことはできないけれど、せめて。贈り主に心配をかけないように生きていこう。


※※※※※


その後の彼女について、わかっていることはあまりない。


家庭を持つことは叶わなかったという。だが、修道院での真摯な態度が認められ、30半ばを迎えた頃に孤児院のシスターとして迎えられたそうだ。

「前世の私が見たら驚くわね。」

が口癖の、子ども好きな面倒見の良いシスターとなった彼女は、多くの子どもたちから慕われる賑やかな晩年を送ったと言われている。







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