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私には前世の記憶がある  作者: ハシドイ リラ


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5/7

もう都合の良い夢を見ることさえできない

ん?


「ぶふっ」


存在を忘れていたが、真横にいたファーデン司祭が大笑いしている。



「侯爵、悪い癖がまた出ていますよ。もう、貴方には小さな頃からご注意しておりますのにねぇ。気持ちばかりが先走っていて、主語が抜けているんですよ。貴方をよくご存知の方ならどうにか理解してくれるでしょうけど。初対面のエステルさんにはさっぱり伝わってませんよ。」


「ん?ああ、そうか。エステル殿、すまない先走ってしまった!

ちゃんと最初から説明させてくれ。私は貴方のお母上、いや血の繋がりはなかったんだな。セリン嬢に婚姻を申し込んだのだ。」


は?

はあああー⁈お母様?そんなオバさんにプロポーズしたの?なんでまた…


「私は子供の頃からずっとセリン嬢に憧れていたんだ。だが彼女の方が5つも歳上でな。侯爵家を継ぐものとしては認められなかったんだ。そうこうする内に彼女は結婚してしまったし半ば諦めていたんだ。それが君のお父上があんな事になったからもしや⁈と思ったりしたんだよ。でも彼女は君を守る事に必死だったろう?そんな必死な彼女に婚姻の申込などとてもできなかった。

一昨年侯爵を継いだことだし、いい加減諦めて他の誰かと結婚せねばなるまいと思っていたんだが。そんな時にこのチャンスだ!逃すわけにはいくまい。1年かけて囲い込みんだんだよ。周囲のうるさい連中には、認めないなら爵位返上して平民になってからプロポーズする!と言って黙らせた。」



今私は何を聞かされているんだろう。え?お母様?いや今更お母様の婚姻を私に伝えられても判断に困るというか。一体何を求められているのだろう。



「あ、あの。それと私になんの関係が?お母様…セリン様とは血の繋がりもなく、赤の他人なんですが。…あの日以来お会いすることも叶いませんでしたし。」



「ああ、そこからか。セリン嬢がな、婚姻を了承する前に君の様子を知りたいと言ったのだ。もし深く反省しているようなら、婚姻を進める条件として君の還俗に口添え願えないかと。」


なに、あの人どこまでお人好しなの⁈まあそんな機会があるなら当然乗っかるけど!


「お母様が…。お母様は私のことを見捨てていらっしゃらなかったのですね。もちろんー」


「期待させて申し訳ないが、その話は無くなった。彼女も了承している。」


は、なんで?


「君が仕事を押し付けていた彼女。ここではセルローズと名乗っていたのかな?彼女はね、私が潜り込ませた調査官だ。」



「随分な目に遭ったみたいでね、ぷりぷり怒っていて宥めるのが大変だったよ。そして君が排除しようとしていたマクロゴールはね」


ああなんだかその続きは聞かない方が良い気がする。けど、もちろん止めてくれるはずもなく続きを聞かされる。


「彼女は公爵家の1番下のお嬢さんだ。昔からセリンが大好きでね、君のためにハウスメイドになったことをずっと苦々しく思っていたんだ。」


「だからあんなに辛く当たってらしたんですね。」

いつもの癖で伏目がちにキツく当たられていたことをアピールしてしまった。


「いやあ君は聞きしに勝るってやつだね。咄嗟にそこまで都合よく話をすり替えられるのはちょっとした才能だよね。感心したよ。」

「そうそう、マクロゴール嬢の話だった。彼女はセリンの願いを叶えるためにここに潜り込んだんだよ。君の良いところを見出して還俗の手助けをするためにね。公爵は末っ子の彼女に弱いんだよ。それが」


「何にも変わってないんだものね。」

マクロゴールが現れた。


※※※※※


「わたくしだってセリン姉様の願いを叶えて差し上げたかったわ。でも、仕事は押し付けるわ助祭にコナかけるわ、挙げ句の果てに悪者にされるわ。」


なんであかぎれまみれで仕事をしたのに責められないといけないんだか!とプンプン怒りながらも最後は悔しげな顔で


「とてもじゃないけど還俗に力を貸せるような人柄とは思えなかった。」


しばしの沈黙の後、冷たい笑顔に戻って


「まあ還俗と言いつつ貴方はただの修道院の居候だから、出たければすぐにでも出られるわよ。」

「平民として身ひとつで出ていくことになるだけで。」


と言い放った。取りつく島もなかった。





結局私はチャンスを逃したのだ。

色々な人が助けようとしてくれたのに。もうこんな大きなチャンスは一生訪れない。


なんだか今までの執着が嘘のように消えていく。

ああ、早くこの心境に辿り着いていれば。

全てはもう遅いのだけど。


マクロゴール様に今までの非礼を詫び、挨拶をしてから遅れてしまった部屋の掃除に向かった。


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