見ているのは神だけではなかった
「ねぇ、木田先生って去年1人登校拒否に追い込んだんでしょ?」
「有名だったもんね。あのクラスの子、見てるのも怖い、休みたいって泣いた子もいたんでしょ?」
「その前の年も大概だったらしいよ。あいつだけは許せねえ!って言ってる子見たもん。」
「でも私なら、登校拒否なんて逃げないで弁護士連れて抗議に行くかなー。」
「えー弁護士ぃー??そうだねー今年も変わらないならそれもありかもねぇ。」
…あの親子のせいで私の評判はガタ落ちだ。少しキツく指導したくらいであんなに大騒ぎしやがって。
しかも今年のクラスにはアイツと仲よかったママ友の子がいる。指導が理解できない子の友達だ。どうせ理解力の乏しい厄介な児童なんだろうな。ああ問題児ばかり押し付けられるなんて私はなんて不幸なんだろう。
そう思いながらも笑顔で教室に入っていく。今年最初の懇談会だ。最初が肝心だから、にこやかで優しい噂とは全く違う先生だと印象付けなくてはいけない。初っ端から保護者に好き放題言わせるわけにはいかないのだ。
しーん。
ふーん。いきなり噛み付く気概もないんだ。
偉そうなことを言ってる奴がいたみたいだけど、これなら問題なさそうね。
さらに笑顔を深めて話し始めたのだった。
※※※※※※※※
最近助祭たちがよそよそしい。
しかも決まって
"エステルさんの手は白くてお綺麗ですね。爪もとても綺麗に整っている。"
と、手を取り褒めてからなのだ。
「まあ本当ですか。ありがとうございます。」
控えめに微笑みながらお礼を言っただけなのに何か気に触る事があったのだろうか。
その頃からセルローズに仕事の交換を断られるようになった。
何度も
「お互い得意な仕事を交換する方が効率がいいでしょう?」
と詰め寄ったのだが、今までとは違う毅然とした態度で断ってきたのだ。
「別に私、洗濯物を配るのも掃除の報告も苦手じゃないですよ?どちらかというと水仕事よりは好きなくらいです。」
「だ、だって今までは苦手だからって」
「一度も言ったことないですよ。あなたが苦手でしょ?と言って私がはいって言うまで諦めなかっただけでしょう。」
いまさら逆らうなんて!私は水仕事なんか絶対したくないのに!
「何度も言いましたよね?自分の仕事は自分でなさい、と。」
マクロゴール!いつの間に!
「マクロゴールさん、ひどいです!私たちはお互いの得意なことで協力しているだけなのに!そうか!あなたもマクロゴールさんに言わされてるのね、かわいそうに!」
「いえ、ですからもともと私は…」
「まあまあそのくらいになさい。神のお側にいるものがそんなに感情露わに人を責め立てるのはよくありませんよ。」
ファーデン司祭だ。
「ファーデン司祭、わ、私は良かれと思って…」
「そうですね、あなたは良かれと思ったのでしょう。」
性善説というのは便利なものよね。これで私を吊し上げるのは難しくなったはず。
「ただ、その良かれはあなたにとっての良かれだったようですね。私から見ても仕事の等価交換には見えないですから。」
「なっ…」
もう、味方はいないの?周りを見回すが、誰も目を合わそうとしない。何故?今まであんなに味方してくれていたのに。本性がバレるようなドジは踏んでいないはず!
そんな中マクロゴールが近づいて私の手を取った。
「エステルさんの手は綺麗だわ。よほど丹念にお手入れされてるのでしょうね。私なんて日々の掃除に洗濯であかぎれとひび割れでごわごわだわ。ぜひお手入れ方法を教えてくださらない?」
「あ、あ…」
全てを悟った私はもう何も言えなかった。




