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私には前世の記憶がある  作者: ハシドイ リラ


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2/7

人は見たいものしか見ないもの

「エステルさん!貴方またセルローズさんに仕事を押し付けたでしょう!いい加減になさい!」


今日もまたマクロゴールが煩い。

セルローズは大きな商会の跡取り娘だったらしい。だが、生母が亡くなり父親が再婚したことで弟と妹ができ、どんどん居場所がなくなった挙句、継母から疎まれこの修道院に放り込まれたとか。

そんな経歴の娘だ、何事にも自信がない。強く言えば断れない事が分かってからは仕事を押し付けるようになった。いや、私は押し付けたわけではない。

「私、あまり得意じゃないの。やっておいて貰える?」

とお願いしたら快く引き受けてくれただけだ。

まぁ、引き受けるまで絶対引かなかったけど。


もちろん私だって得意な仕事はあるから、それはセルローズの代わりにやってあげていた。

綺麗になった洗濯物を必要な人たちに配ったりとか、綺麗に掃除した部屋の鍵の返却と終了報告とか、ね。それを周囲が勝手に勘違いするだけだ。


だって洗濯して、干して、畳んで、なんて誰もみてないから。洗濯物を配り歩けば、洗濯ご苦労さま、と労われる。

掃除だってそう。掃いて拭いて磨いて。終わった部屋の鍵を返しに行けば、いつも感心だねと褒められる。


だから私は嘘はついていない。1人でやったなんて言ってない。ただシーツを渡す時に、鍵を返す時に


「皆さんが(そのくらい)やっといてっておっしゃるんでいつも私が」


って言うだけだ。それを聞いて、私の少し寂しそうな表情を見て、どう判断するかなんて私の知ったことではない。それを責められるなんて飛んだお門違いである。


だがそろそろマクロゴールの煩わしさには辟易してきた。

もう、ご退場頂こうかな。


※※※※※※※※


「マクロゴールさん!」


「クロスカル助祭、何かご用ですか?」


「貴方がこちらに来られる前、高貴なご身分であったことは想像に難くありません。だがしかし!修道院に入ったからには貴方にもみなさんと同じお仕事をしていただかねばならないのです!」


「私は与えられた仕事をこなしております。ご不満がおありでしたら司祭に確認なさったら?」


「私は知っているんですよ!貴方はエステルさんがお人好しなのをいいことに仕事をやらせているでしょう!」


「クロスカル助祭。それは一体何をご覧になって仰ってるのかしら?」


「みんな言っています!洗濯物も掃除もエステルさんに押し付けているでしょう!いつも彼女が…」


「クロスカル助祭、誰かを責める時にみんなの代表のような言い方をするのはよくありませんよ。」


ロメローズ助祭が割って入ってきた。


「だ、だって君もそう思うだろう!洗濯物は毎回エステルさんが持ってくるし、掃除の終了報告だって!その時にみんなにやっておくように言われているっていってたじゃないか!」


思わず目を細めてしまう。


「エステルさんがそう仰ってるんですか?」


「彼女はそんなこと言いませんよ!言いつけたりする人じゃありません!ただ悲しそうにみなさんに頼まれて毎回自分がやっているって言うだけですよ!」


憤懣やるかたない、という表情を隠そうともしない。神に仕える身として、そんなに人に対して悪感情をぶつけていいのかしら。


どうしたものかと思っていたら、ロメローズ助祭がいきなり私の手を取った。


「冬場の水仕事は大変ですね。そこら中あかぎれだらけです。」


「神にお支えしているのです。この手の荒れ具合でさえ誇らしく思っておりますわ。」


そういうことね。ロメローズ助祭の言わんとしている事が分かったわ。

ロメローズ助祭は私の手を離すとクロスカル助祭に向き直り問うた。


「エステルさんの手は見たことありますか?」


「先日のことですが、エステルさんに手を握られましてね。彼女の手はすべすべで真っ白く爪も綺麗に整えられていました。」


クロスカル助祭が目を見開く。

私も続ける。


「あなた方がお出しになった洗濯物は、仕分けして、冷たい水で洗って、伸ばして干して、畳むのです。お掃除は隅から隅まで掃き清め、冷たい水で絞った雑巾で拭いては洗い、絞っては拭きを繰り返しているのです。」


あなた方が見ていないところでね、と呟く。

クロスカル助祭は少し気まずそうだ。ロメローズ助祭が口添えする。


「今度エステルさんの手を見てみなさい。と、言いたいところだがあなたはこの修道院からは離れてもらうことになるだろう。」



※※※※※※※※


クロスカル助祭がいなくなった。地方の修道院に行くことになったそうだ。せっかく手懐けたのに。

前世で実感したことだが、やたらと


"みんな◯◯だって言ってます!"


という奴は扱いやすい。誰も知らないどこかのみんな。自分はみんなの代表という体を取れば多少矛盾があっても気が付かない。


「なんだかいつもエステルさんがやらされてるよね」


「みなさんそう仰ってくださるんですけど…」


これでいい。これでもしいざこざがあったとしても、私に同情的に接してくれるのだ。

みんなそう言ってる!と。


特に扱いやすかったクロスカル助祭がいなくなったのは痛いけど、他にも2人ほど味方はいる。


…社交界のど真ん中に戻るのは無理でも。こんな最果ての修道院でも。

やることは同じ。自分が気分よく生きていくために周りを上手く使ってあげるの。


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