邂逅
周囲のビル群は透明な緑に染まり、その『瞬間』だけを彼だけが動ける。全体的に黒みを帯びた男子。
「次の電柱まで、約6秒、か。」
彼は難なくやってみせた。自分の手足のように、当たり前のようにその『力』を使った。
周囲に人の気配は無い。
「大体、この『力』をなんに使えばいいんだよ?自分だってまさかできるとは思わなかったんだから…。」
独り言で少し小さめの声で語る。
厨二病と思われる時期に、それは起きた。
彼のごく一部の趣味に、アニメ鑑賞がある。
その世界では当たり前のように使う魔法やら超能力やらが、わんさか出てくる。
無論、誰もが真似しようとしても出来ない。彼も同じく。
しかし、アニメで見たものではなく、現実で起きたものならそれを『理解』し、『トレース』が出来た。
先程彼がやった業は、ストップウォッチとメジャーをトレースした。
「同時に……長さを測り、時間を………。」
彼は現在進行形で『成長』しようとしていたのだ。教師などいるはずもなく。その『力』自体の真理も説明されていないのにも関わらず。
彼の『成長』には生物でさえも気づくことがなく、それは静かに。あたかも背景のように自然であった―――
藤森 隻 読み方は、ふじもり せき 16歳
見た目はイメージ通り。
人間関係は良好とはいえず、かといって完全に悪いとも言えない。
家庭環境も同じく。
趣味はゲームであり、隻をステータスで表すと、ゲームのパラメーターだけカンストするほど。
特別仲のいい友人がいる訳でもなく、ただし3人ほど心を許している者がいる。
その者たちが、隻の人生に大きな影響を与えることは無いだろう。
隻は恐れていた。近々死期がくるのではないかと。
「才子短命」という言葉がある。
その意味とは、才能のある者は生命力が弱い。という意味である。
隻はこれを『力』と呼んでいた。
なんらかの物の性質、構造を『理解』すれば、自由自在に現実世界にそれを『トレース』できる、という『力』である。
しかし隻にも目的はある。
それは『家系』である。
隻の藤森家は、特別お金持ちという訳でもなく、何かの賞を取った訳でもなく、ただただ『普通』である家系であったのだ。
隻はそれに気づいた時無性に腹が立った。
「人生一度きり、何か爪痕を残すべきだとは思わなかったのか?」とか、「自分の人生がつまらぬものと思わなかったのか?」と。
隻は決心した。16歳という若さで、そしてあたかも天からの使命のように。
この『トレース』という『力』を使い、世に名を轟かせようと、隻の人生の道が開いた。
隻は肝心なことが分からなかった。莫大な名声を得るにはどうしたらいいか。
悪いものをやっつけるとか、ヒーローじみたものしか分からなかった。
それには理由がある。
3年前、隻が心を許している者のうちの1人から、アニメを勧められる。人がいいのか、隻は「分かった」と言ってしまい、実際に見てしまう。
電撃走る。
憧れてしまったのだ。非現実に。ファンタジーに。今目の前に現実的に考えて起こりえないことを息をするように扱う業を。
しかし、隻は憧れを、実現してしまった。
驚くことに、隻は冷静であった。あたかもこの力を使うのが赤子の頃から出来たように。
しかし、冷静の前に脳に埋め尽くされたものがあった。
「この力を何に使えばいいのか?」
疑問だったのだ、隻は憧れを実現した時。その瞬間疑問が浮かんでいた。
そして3年後、現在もなお何に使えばいいのか分からずじまいである。頭が悪いのだろうか。3年間この『力』を何に使えばいいか悩み続け、今に至る。
透明な緑色の『時間』を隻は歩く。
「結局のところ、ストップウォッチっていうのは汎用性があって、こうやって時間なんかを止められたりする、計るだけじゃ『トレース』なんてものはつまらないしな。」
絶えず『成長』を続ける隻。
この時間だけは、隻にはこの街が楽園のように思えた。
20秒経過。『トレース』は解ける。
世界が色づいていった。ビル群がやけにでかく見えた。
「仮に、もし仮に俺以外にもこれに近い『力』をもっているとしたら……。いや、まずは話を聞くべきか、情報が必要だな。」
夏休み初日に行動を起こす隻。
そんなこんな自分の『力』について深く考えていた。ふと視界を上げると、既に昼過ぎ。
やや紫色を包んだ空も、隻を見ている、ような。
『ある程度の理解』で、応用が利くようになった。
再度世界は隻に染められ、次にレーダーを『トレース』した。
対象は、『近しい存在』。
目の前に現れたホログラムのレーダーらしき物に映し出された点は、はるか遠くに赤い点が2つ、隻に示していた。
僕のもう一つの作品の「所々」と同じ世界のお話です。
間違いなどがあれば教えていただけると幸いです。




