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偏差値70なのに恋愛経験0の二人の理性が崩壊するまで〜財前慶一郎と伊集院桜子の恋  作者: 間宮芽衣


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第八話◇ 君に会うための変装理論〜財前慶一郎視点


◇◇財前慶一郎視点


「出来たわよ。財前君。」


四之宮の姉、美織さんの言葉に僕は顔を上げる。


 ――完璧なメイク、緩いウェーブがかかった長い髪に菊乃森女子学園の制服。


 鏡の中には完璧に女性のように見える僕がいた。


「すっげ!え!別人っ!普通に美人なんだけど!」

「――俺、違う性癖に目覚めそうだ。」


隣では宮西と和田が感嘆の声を上げている。


「うん。やっぱり僕の見立て通りだ。

 あとは、歩き方と仕草には気をつけろよ?


 折角ここまでのクオリティに仕上げたのに、仕草でバレたら元も子もないからな。


 ――頑張れよ。


 君の『恋の定理』がどのような結論を導き出すのか、僕にも見届けさせて欲しい。」


眼鏡を上げながら真剣な顔になる四之宮に、僕は思わず目を見開く。


「四之宮…。」


「うふふ!この子ったら実はずっと財前君とお友達になりたかったのよねー!


 プライドが高いから言えなかっただけで、家でいつも財前君のことばっかり話してたんだから。そうだよね?」


そう言って美織さんは笑っている。


「っ、なっ!」


四之宮が顔を真っ赤にして照れているのを見て、僕は思わず口元を綻ばせてしまった。


(なんだ、コイツ。可愛いところあるじゃないか。)


美織さんは校内の簡単な作りを書いたメモを書いて、学校指定の靴や上履き、鞄も貸してくれた。


「みんな自家用車で通学しているから、タクシーだと逆に目立ってしまうかもしれないわね。


 電車で行った方がいいと思うわ。」


(電車か…。この格好で街中を歩かねばならないのか。…まあ仕方ないか。)


一瞬考え込んだ僕に美織さんは笑いかける。、


「大丈夫よ!完璧に女の子に見えてるから!

 胸を張って歩きなさい。


 ――お姉さんが太鼓判を押してあげる!


 うふふ。婚約者に会うためにそこまでするなんて素敵じゃないっ!万が一バレたら制服を貸した私も一緒に謝ってあげる。


 よしっ!いってらっしゃい!」


僕は四人と美織さんに背中を押されて、不安と期待で押し潰されそうになりながら四之宮邸を出たのだった。


◇◇


「――ねえねえ、お姉さん綺麗だね。


 菊乃森女子学園の制服じゃん!これからどこ行くの?」


電車の中で軽薄そうな男に話しかけられて僕は思わず目を見開く。


「どこって、学校ですが。」


僕はなるべく高い声で答える。


「ふーん、予定変更して俺と遊びに行かない?」


「予定を変更してまで貴方と出かけることに、私にどんなメリットがあるのでしょうか。」


僕の言葉に男が怯む。


「えー、んーと、そうだな?よくわかんねぇけど、楽しいよ?」


「…もし貴方と出掛けるのが楽しければ今既に私の脳内からドーパミンやエルドルフィンが大量に分泌されている筈です。


 しかし、残念ながらそのような兆候は見受けられせん。」


僕の言葉に男は顔を引き攣らせて後退りした後、離れていった。


「…なんだよ。変な女。」


――こうして、僕は何とか菊乃森女子学園に辿りついたのだった。


(ここが、桜子さんの通っている学校…。)


思わず校舎を感慨深く見つめてしまう。


(――っと、こんな事をしている暇はない。早くしなければ桜子さんの部活が終わってしまう。)


僕は急いで何食わぬ顔で美織さんから借りた上履きを履いて、校舎の中へ入っていく。


「見てみて!あの子!見ない顔だけど新入生かしら。凄い綺麗な子ね?」


「本当だわ。モデルか何かなさっているのかしら。」


女子ばかり通り過ぎていくことに、心が浮き立つどころか居心地の悪さを感じてしまう。


(えーっと、桜子さんの所属する日本文学研究会の部室は確か二階だった筈だ。)


僕は美織さんの書いてくれた校内のざっくりとした地図を思い出す。


(ここだ…。)


ドアの上の室名札しつめいふだを見て思わず緊張で身体が強張る。


 ――ノックをするか迷った上でまずは教室の中をそっと覗いてみたものの、桜子さんの姿はなかった。


(…いない?)


僕がショックで立ち尽くした時だった。


「――誰?新入生…?何か用事でもあった?」


胸元に『城之内じょうのうち』という名札を付けたボブヘアの女子が訝しげにドアを開けて話しかけてきた。


「…今日は。

 実は、伊集院先輩に少し用がありまして。

 こちらにいらっしゃるものかと思ったので。」


僕の言葉に彼女は思案顔になる。


「…桜子に?ふーん、あの子、部活以外の後輩とも交流してたんだ…。


 桜子は、今中庭で、兎小屋の掃除をしてるよ。


 当番の子が体調不良で早退しちゃってさ…、桜子、優しいから代わってあげたみたい。」


言いながら『城之内』さんは訝しげに僕の顔を凝視してくる。


「――何か?」


僕の背筋に嫌な汗が滲む。


「…んー。もしかして貴女、桜子の婚約者の妹とか?


 写真を見せて貰ったことあるんだけど、何か似てるんだよね…。」


「…気のせいかと思います。」


僕が誤魔化すと、彼女は息を吐いた。


「まあいいわ、折角だから連れて行ってあげる。


 ――皆!ちょっとこの子、桜子に用があるみたいなの。


 兎小屋に案内するので少しだけ席を外すね!」


そう言って、『城之内』さんは僕を兎小屋のある中庭に連れていってくれた。


「ありがとうございました。」


「…んーん。全然。

 ほら、あの中庭の小屋の中に桜子がいるから。

 私は遠慮するからさ。貴方だけで会ってきなよ。


 ――財前君?」


彼女の言葉に僕は目を見開く。


「っな、」


すると、彼女がニヤッと笑う。


「――私、桜子とクラスで一番仲が良いの。

 桜子、貴方にずっと会いたいって言ってたから。


 …貴方さ、美人なんだけど喉仏でわかっちゃった。


 まあでも、ここまでして会いにくるなんて。


 ……愛だねっ!愛!」


そう言って嬉しそうにくるっと踵を返した。


 僕は暫く放心していたが、やがてハッとして中庭に入っていった。


 兎小屋が近づくに連れて緊張で胸が高鳴る。


 ――そして、夕暮れの兎小屋の金網越しに会いたくて仕方なかった彼女の姿を捉えた。


「うふふ。兎さん、にんじん美味しいですか?」


しゃがみ込んだ彼女が慈愛に満ちた表情で兎に微笑んでいた。


 六年ぶりに見る彼女はあり得ない程美しく可憐に成長していた。


「――桜子さん。」


そんな彼女の姿に僕はいても立ってもいられなくなり、気づけば話しかけていた。


 僕の影が落ちて、彼女は振り返る。


「どなたで…、」


言いかけて彼女は驚いたように目を見開く。


「…もしかして、慶一郎様ですか?」


その言葉に僕は頷く。


「――こんな格好で申し訳ありません。


 …貴女にお会いするにはこうするしかなかったので。」


すると、暫く彼女は呆然としていたが、やがて彼女の目にみるみると涙の膜が張っていく。


「…こんな格好をしてまで私に会いに来て下さったのですか?」


僕が頷くと彼女の頰に涙が伝っていく。


「――はい。」


「け、慶一郎様も私にそんなに会いたいと思っていて下さったんですか…?」


その言葉に胸がぎゅうっと締め付けられる。


「――ええ。」


ガシャンっと金属の音がして彼女が金網を掴み、彼女の顔が至近距離まで迫ってくる。


「っ、嬉しい…!嬉しいです。

 六年間、ずっと、お会いしたかったんですっ!


 好きっ、好きです、大好き!!」


「――っ!!」


その言葉に僕はそっと手を伸ばして、桜子さんの頰に触れようとしたが、うさぎ小屋の金網が僕達二人を隔てていた。


「――僕も桜子さんが好きだ。


 ……こんな網なんて、なければよかったのに。」


すると桜子さんが切羽詰まったように兎小屋から出てきて、僕の胸に飛び込んできた。


「――っ、桜子さん、」


慌てて抱き止めると、凄く甘くて花のような良い匂いが鼻腔を擽る。


 僕は緊張しながら恐る恐る彼女の背中に腕を回した。


 彼女の身体は驚く程柔らかく、そして細かった。

 その匂いに、感触に全身がカッと熱くなる。


 俯いていた彼女はやがて顔を上げて、僕の事を見つめてきた。


 ――その瞬間、どくんっと心臓が高鳴る。


 僕達は一言も発さず、お互いに沈黙したまま、ずっと見つめ合っていた。


 やがてふっとお互いに表情を崩し、笑い合った。


「ふふっ。慶一郎様お綺麗ですわっ。」


「…本当はきちんとした格好でお会いしたかったのですが…。」


すると、彼女が顔を赤くしてこんな事を言い出した。


「…あの…っ、慶一郎様っ。

 っ、私、貴方とキスをしてみたいですっ。


 …でも、初めてのキスが兎小屋って、やっぱり変ですかね?」


桜子さんの頬が、夕陽に透けていた。


 僕の脳内に、ドーパミンが爆発的に溢れ出した。

 僕はただ、首を横に振ることしか出来なかった。


「どんな場所でも、君となら。」


そう言ってそっと彼女の震える唇に、僕の唇を重ねた。


 僕達の後ろでは兎がキュッと鳴いていた。


 ――僕の“恋の研究”は、今や完全に暴走モードである。


 理論も仮説も全部、桜子さんの可愛さの前では無意味だった。


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