第三十一話◇ その時に考える。〜城之内 朱里視点
◇◇城之内朱里視点
「──ねえ、朱里。ちょっとでもいいから、話せない?」
──あれから一週間。あの後、本当に何もなかったから油断していた。だが、お昼に向かおうとしていたら大和にまた呼び止められてしまった。
「…何も話したいことなんてないってば。」
「お願い!!五分で良いから!」
そう言われて溜息を吐く。
「…わかった。」
「っ、ありがとう。」
すると、腕を引かれて人気のない廊下の方に連れて行かれてしまった。
「──で?話したいことって何?」
私が尋ねると、大和が満面の笑みで言ってきた。
「あれから考えたんだけどさ。君は僕と関係を持つことを嫌がったのに、僕が他の女の子とセックスするのが嫌だって言って別れただろ?
──でもそれって、機会の損失なんじゃないかと思って。」
(は?何言ってんの、コイツ。)
「…それで?」
「──だから、一回やっぱり試してみようよ!もしかしたらすっごい相性がいいかもしれないじゃない?」
私は心底がっかりして溜息を吐いた。
「…やっぱ聞かなきゃ良かった。もう行くね。」
すると、腕を掴まれて引き寄せられた。
「──絶対満足させるから!!」
「っ、ちょっと!!」
(…どうしよう!誰か!!)
──その時だった。
私が内心焦っていると、何故かすぐそこの教員用のトイレから、四之宮君が出てきた。
「──話は聞かせて貰った。」
四之宮君はツカツカとこちらに向かってくると、大和が怯む。その隙に力が緩んだので、私はドサクサに紛れて大和から距離を取った。
「何だ、またお前か!!これは僕達二人の問題であって…。」
すると目の前に仁王立ちした四之宮君が曇りなき眼で言った。
「──君に必要なのはTE◯GAだ。」
(…は?)
四之宮君の言葉に思わず目がテンになってしまう。
「は?何言ってんの、お前。」
大和が訝しげな顔で四之宮君に言い返す。
「いや、大真面目だ。
──いいか。身体的欲求を三次元の女性で満たそうとするから、トラブルが起きるんだ。おまけに、付き合っている人以外と肉体的な接触を持つと、どんなリスクが起きると思う?」
すると、大和が眉を寄せる、
「…知ってるわけないじゃん。」
「…これだから、素人は。いいか。もし、もう一人の相手が性感染症に感染していたらどうなると思う?
梅毒やクラミジアくらいならまだいい。薬で治るからな。だが、HIVに感染したらどうなる?君の理性が単純に肉欲に負けたという理由で、本当に好きな相手にも病気を感染させることになるんだぞ?
そんな無責任な事をしている君が、城之内さんに関係を迫るのはおかしいと思わないか?」
その言葉にポカーンとしてしまう。
(…え?え?話が飛躍しすぎてない?)
すると、四之宮君が真剣な顔で言い放った。
「──そこで、僕がお勧めするのはTE◯GAだ!肉欲に負けそうになったら、これを使うと良い。
リュックの中に丁度使い捨てのものが未使用で一つ入っていたから君に授けよう。」
そう言って、取り出した卵型のTE◯GAを大和に渡した。
一方、大和は何と答えて良いかわからないのか、固まっている。
「…あ、ありがとう?」
そして、一応お礼を言っていた。
「──ああ、きっと大丈夫だ。君は立ち直れる。セックスに依存する前に君はTE◯GAに出会うべきだった。だが、今からでも遅くない。──応援している。行こう、城之内さん。」
そう言って、四之宮君が私の手を引いてその場から連れ去ってくれた。
取り残された大和を見ると、呆然としている。
──大和が見えなくなった瞬間、お腹の底から笑いが込み上げてきた。
「何これっ!!傑作なんだけど!!あー、おっかしい!!!本当四之宮君って面白いね!!」
そう言って私はゲラゲラと笑ってしまった。
すると、四之宮君は神妙な顔をしている。
「…だってあの男は、城之内さんの事を本当に好きだったのに肉欲に負けてしまったのだろう? それはコントロールする為の方法を知らないからだと思ったからだ。 僕は彼は、ある意味、気の毒な男だなぁと思った。」
その言葉に、私はジッと四之宮君の方を見てしまう。
「──ねえ。じゃあ、四之宮君はもし好きな人がいたら、例え他の女の子にどんな誘惑をされても靡かない自信があるの?」
私がそう言うと、四之宮君は困惑した顔をする。
「…そもそも僕を誘惑する女子などいないだろう。それに、そもそも好きな人などいたことがない。
きっと、これからも僕の相手などTE◯GAだけだ。」
そう言われて私の心に喜びがジワジワと満ちていく。
(──何この人。可愛い!!)
「ねえ、じゃあ四之宮くんってさ。付き合ってる人とかっていないの?」
「は?いるわけがないだろう。受験期に時間の無駄だし、合理的じゃない。
大体先ほども言ったが、好きな人自体がいないしな。」
そう言って眼鏡をクイッと上げた。
そんな彼に私は笑みを深める。
「…へぇ。じゃあさ、受験が終わった後、もし女の子に告白されたら?」
私がそう言うと、四之宮君は困惑した顔をした。
「……その時に考える。」
「ふーん。」
思わずニヤニヤする私から、四之宮君はふいっと目を逸らした。
「…そろそろ食堂に行くぞ。きっとみんな待ってる。」
そんな彼に私は満面の笑みを向ける。
「っうん!!」
すると、四之宮君は一瞬固まった後、手を差し出してくれた。
手を繋いだ瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなって。
──ああ、と気づいてしまった。
(…私、この人の事、好きだ。)
◇◇
「え、ええええええー?!四之宮さんですか?!」
──夜、私が好きな人が出来たと桜子に打ち明けたところ、桜子は心底驚いた顔をしていた。
「…うん。どうすれば良いと思う?」
桜子は暫く固まった後、こんな事を言い出した。
「…そうですねぇ。四之宮さんは、朱里さんの事をどう思ってるんでしょう…。人としては嫌ってはいなさそうですけど、四之宮さんってなんというか。
…あまり恋に興味がなさそうに見えますよね…。」
その言葉に私は思わずガバッと顔を上げてしまう。
「っ、そう!!そうなんだよね!今日ね、付き合っている人がいないか、聞いてみたんだよ。
そしたら、受験期に彼女を作るのは合理的じゃないって言われちゃってさ…。」
すると、桜子は顔を上げた。
「──だったら、受験が終わったらどうなんですかね?」
「…それも聞いてみた。そしたら、その時に考える…だってさぁ…。」
私が思わず溜息を吐くと、桜子は思案顔をする。
「…じゃあ受験が終わったらチャンスじゃないですか!!今は、受験に集中したいっていうのはわかりますし!
──受験が終わったら、一緒に遊びに行きましょうよ。あの…、もし良かったらこの事、慶一郎様に伝えてもいいですか?
その…私。四之宮さんの連絡先とか知らないですし。すぐに連絡取れる人が、間に入ってくれた方が良いと思うんですよね。」
その言葉に私は思わず目頭が熱くなってしまう、
「うん、勿論!!財前君に気持ちを知られるのはちょっと恥ずかしいけど、その通りだと思うし。
…本当嬉しいー…。ありがとうね。」
私がそう言うと、桜子がふるふると首を振る。
「…全然です!むしろ朱里さんが、話してくれて、とっても嬉しいです!!絶対受験が終わったら、四人でダブルデートしたいですねっ!」
その言葉に思わずニヤついてしまいそうになる。
「うわぁ…。最高じゃん。私、受験頑張ろ…。」
「──テーマパークとかも良いですよねっ。少しお値段はしますけど、受験を頑張ったらご褒美に親もそれくらいのお金は出してくれそうですし。」
私は親友のありがたい提案に、久しぶりにワクワクしてしまった。
(四之宮君、どんな顔でアトラクションとか乗るのかな。)
考えただけで、笑みが溢れてしまう私だった。




