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偏差値70なのに恋愛経験0の二人の理性が崩壊するまで〜財前慶一郎と伊集院桜子の恋  作者: 間宮芽衣


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第二十一話◇健全な精神は健全な肉体に宿る(※当社比)〜財前慶一郎視点


◇◇財前慶一郎視点


(…控えめに言って今日は最高の一日だった。

 桜子さんがめちゃくちゃ尊くて可愛かった。

 私服もとても似合っていて可憐だったし、手作りのお弁当も頂いてしまったし。

 ――それに、彼女の方からキスをされてしまった…。)


駅から一人で電車に乗った後、吊り革に捕まりながら、僕は今日の出来事を反芻する。


 ガタン、ガタンとカーブに差し掛かり音がする。


 思わずニヤけてしまいそうになるのを懸命に堪える。

 

『…待ってたのになかなかして下さらないから自分からしてしまいました。』


 その言葉が僕の中で何度もリピートされる。


(ああ、何でこんなに桜子さんは僕の理性を試すようなことばかり言ってくるのだろう…。)


本当は僕の方こそいくらでもキスしたいくらいだったが、そんな事をすると彼女が嫌がりそうな事までしてしまいそうで怖かった。


(…本当はもっと近づきたい。…けれど、今は受験も近いし正直その時期じゃない気もする。


 …それに、勉強会じゃ普通のキスくらいが限界だ。


 前は手紙が来るだけで、声を聞けただけで、会えただけで。死ぬほど嬉しくて仕方なかったのに。


 ――どんどんもっと欲しくなってしまう。)


そんな事を考えて僕は悶々としていた。


『今日はありがとうございました。

 お弁当、とても美味しかったです。

 ――次は僕にも是非ランチをご馳走様させてください。』


僕はお礼のメッセージを打って送信すると、スマホをポケットの中にしまった。

 

 すると、すぐに返事が来た。


『こちらこそありがとうございました。

 次回の勉強会も楽しみにしていますね。』


そのメッセージにどうしようもない程胸が揺さぶられる。


(…つまり、次回も今日と同じような一日を過ごせるという事か。)


『はい。ありがとうございます。水曜日、僕の方から電話しますね。』


僕がそう送ると、丁度電車が駅についた。


 ――改札を出て駅を出ようと階段を登り切った時だった。


 ピロンと通知音が鳴り、慌ててスマホを見た僕は目を見開いた。


「――っ!!」


 可愛いカエルのキャラクターがハートを抱きしめて、下にはゆるい感じの平仮名で『だいすき』と書いてあるスタンプが桜子さんから送られてきていた。


――だいすき。


 その画面を三回程スクリーンショットで保存した。


「うおおおおおおおお!!」


僕は夜の街を駆け出した。


 隣を歩いていた五十代ほどのおじさんがビクッとしていたが、今はそれどころでは無い。


(桜子さん、桜子さんっ、桜子さぁあああん!!)


僕は、煩悩を打ち消すために走った。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、」


結局僕は2キロ程の道のりを猛烈ダッシュして家にたどり着いた。


 ガチャリ。


「――ただいま。」


玄関のドアを開けると、明後日アメリカに帰る予定の兄が驚いた顔をして僕の方を見てきた。


「おかえり…って、慶一郎、走って帰ってきたのか?!…なんで?!」


そんな兄に僕はボソッと呟く。


「――健全な精神は健全な肉体に宿る。」

「…は?」


スタスタとバスルームに向かう僕を兄は珍獣を見るような目で見つめていた。


◇◇


「慶一郎、それで、桜子さんとの初デートはどうだったの?」


――夕食は何故か母によってお赤飯が炊かれていた。


 すると、両親、兄、家政婦の寺谷さんの視線が僕に集まる。


「いえ、健全な勉強会ですので。

 図書館で待ち合わせをして、二人でエビングハウスの忘却曲線に沿った勉強スケジュールを組み、健全に勉強いたしました。」


すると、僕の言葉が直ぐに母由里子によって覆される。


「いや、デートよね?それで?」


「…はい。」


(くっ、家族全員の前で報告するのは恥ずかしいが、出資してもらった以上、将来的な成長性を示さねばならない。)


「…大変有意義な時間を過ごすことが出来ました。


 被服費を出資して頂いたお陰で、桜子さんに真面目な好青年であるという印象を持って頂くための一助になったかと思われます。


 えー、これにより、僕と桜子さんの関係性は以前よりも親密になり…。」


「えーっと。つまり、楽しかったということね?」


遮るように発せられた母のその言葉に僕は一瞬固まる。


「…そのように僕と桜子さんの一日を一言に短縮してしまうのはいかがなものでしょうか。」


「…とりあえず良かったな!慶一郎!!」


兄、怜一郎がニヤニヤしながら僕の背中をポンポンと叩いた。


「ありがとうございます。」


僕はお礼を言うとそそくさと夕飯を食べて、自分の部屋へと上がっていく。


 ドアの扉が閉まった瞬間ベッドにダイブし、スマホを開く。そして、さっきスクショした画面を見て、一人でニヤつく。


(…!!は!!一体僕は何をやっているんだ。)


気を引き締めて勉強机へと向かう。


 そして、今日桜子さんが勉強したノートのコピーを見て復習をする。そして、再びニヤニヤする。


「…やっぱり、可愛らしい文字だな。本人が可愛いと文字まで可愛いんだな。

 桜子さんが書けば漢文のレ点ですら可愛い。」


だんだん自分でも何を言っているのかわからなくなってきた。


 そのノートを見ながら、耳に髪の毛をかけて一生懸命解説をしていた桜子さんを思い出す。


「――うん。説明している姿もとても可愛かった。」


目を閉じると、桜子さんの笑顔、唇、太もも、そして、しがみつかれた時の胸の感触が蘇ってきた。


「――っ。」


(…まずい、集中できない!!)


僕は徐にジャージに着替え、玄関へと向かう。


「おや?慶一郎。どこか行くのか?」


書斎に向かう途中だった父・理人が訝しげな顔で僕の方を見てくる。


「健康の為に少し、走ってきます。」


「…そうか。頑張れよ。夜道に気をつけるんだぞ。」


僕は頷くと、玄関のドアを開けて再び駆け出した。


「うおおおおおおおおお!!!」


――結局その日僕は二つ隣の駅の近くまで走った。


 往復で走行距離は4キロ程度である。


 そして、気がつくと帰り際に家の最寄りの24時間営業のジムにふらふらと入り、入会していた。着替えとプロテインも気がつくと購入していた。


 一体僕はどうしてしまったんだろうか。


 筋トレ後、シャワーを浴びながらプロテインを飲む。


「……よし。ここまでやれば数式が解けそうだ。」


僕が九時くらいに静謐な精神で家に帰ると、母がじっと僕の方を見てきた。


「――どこに行ってきたの?」


「精神と肉体の修行に行ってまいりました。」


僕の答えに母の目が鋭くなった。


「今日はもう勉強しなくていいから、さっさと寝なさい。」


「――かしこまりました。」


僕の返事に母が溜息を吐く。


「…まだ勉強会ですら早かったかしら。」


(…なん、だと?)


「いえ!そんな事はありません!必ず心身共に精進してみせます。」


「…本当に?それならいいけれど。」


僕は2階に上がるとスマホのアラームを朝の四時にセットして爆睡した。


◇◇


 ――翌日。日曜日の朝。

 僕は四時に起きると昨日の復習から始めた。


(うん。良かった。全て覚えている。)


僕はそのノートの内容に沿った問題をルーズリーフに作成し、さらに昨日自分が勉強した箇所を見直した。


 …その時、不意に隠していたルーズリーフを落としてしまった際、桜子さんが言ってくれた一言を思い出した。


『――すごく嬉しいです。』


「――っ、」


僕はシャーペンを置くと、再びジャージに着替えた。


 時計を見ると、朝六時半になっていた。


「おはよ。早いな、慶一郎。

 ――今日俺、14時くらいの便でアメリカに帰るから。」


兄、怜一郎が眠そうな顔をして起きてきた。


「わかった。

 ――朝食までの間ジムで筋トレしてくる。一時間以内には戻るから。」


「あ、ああ。了解。」


――この日から僕は煩悩を振り払うように筋トレまたはランニングをするようになってしまった。

◇お知らせ

ここまでお読み下さり本当にありがとうございます。


 現在、別プラットフォームでの連載が佳境に入っており、執筆スケジュールの都合上、本作は一時的にお休みをいただくことにしました。

中途半端な形で更新を続けるより、きちんとした完成度でお届けしたいと考えています。

再開は2月26日を予定しております。

少しだけお時間をいただけますと幸いです。

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