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偏差値70なのに恋愛経験0の二人の理性が崩壊するまで〜財前慶一郎と伊集院桜子の恋  作者: 間宮芽衣


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第二十話◇ 公共空間における理性の考察。〜財前慶一郎視点


◇◇財前慶一郎視点


「そういえば桜子さんは社会科の科目はどれを選びましたか?」


館内に入った僕と桜子さんは何となく受験科目について話していた。


「そうですね、漢字の方が覚えやすいので日本史と公共・政治経済にしました。」


僕は嬉しさで打ち震える。


(なん、だと。歴史科目は僕は世界史だが、公共は僕と同じじゃないか!!)


「…僕は世界史と公共です。勉強会のとき社会科は公共なら一緒に勉強出来ますね。」


すると、桜子さんがパッと笑顔になる。

「まあ!嬉しいです。

 うふふ、じゃあもし将来一緒に海外の世界遺産を見る機会があれば慶一郎様が解説して下さいね?

 私、アユタヤとヴェネチアは絶対に一度は行ってみたいです!」


「はい!もちろんです!」


(あー…尊い尊い尊い…。将来桜子さんとの新婚旅行はどちらかに決まりだな。


 そうだ。桜子さんにお弁当のお礼にコーヒーをご馳走させて頂こう。)


「桜子さん。僕、そこのカフェでコーヒーを買おうと思っていて。良かったら午後はカフェで勉強しませんか?」


「いいですね。丁度窓際の席が空いていますし。」


僕達は荷物を置くと、一緒にメニューを見る。


「桜子さん、お弁当のお礼に飲み物を御馳走させて下さい。どれがいいですか?」


「…いいんですか?

 ええと…では、カフェラテのアイスをお願いします。」


その言葉に僕は頷く。


「わかりました。買ってくるので桜子さんは座っていて下さい。」

「…ありがとうございます。ではお待ちしてますね。」


桜子さんは申し訳なさそうにペコリとお辞儀すると、席に座ってくれた。


 僕がコーヒーとカフェラテを持って戻ると、桜子さんはさっきコピーした僕の英文法をまとめたノートを見ていた。


「お待たせしてすみません。…先程のノートですか?」

「ありがとうございます。

 …はい。慶一郎様の書いた字を見ながら勉強出来るなんて嬉しいなぁと思いまして。」


その言葉に思わずニヤけてしまいそうになる。


「僕も帰ってから桜子さんのノートで復習するのが楽しみです。漢文はそこまで得意じゃなかったんですが好きになってしまいそうだ。」


そんな事を言いながらコーヒーを置いて、勉強道具を出しているとヒラリとルーズリーフが一枚落ちた。


「はい、どうぞ…」


そう言ってルーズリーフを拾い上げた桜子さんは文面を見てジワジワと顔を紅潮させながら固まってしまった。


「…?どうしまし…」


言いかけて僕は恥ずかしくて死にそうになった。


(はぁああああ!さ、さっき隠したルーズリーフじゃないか!)


「…私、このルーズリーフも欲しいです。」

「え?」


動揺する僕を上目遣いで桜子さんが見つめてくる。


「だって、こんな事言って頂けたら絶対忘れることなんて出来なさそうですもの。


 …すごく嬉しいです…。」


桜子さんが物凄く可愛らしい顔でそんな事を言ってきたので、ついに僕は根負けしてルーズリーフを渡してしまった…。


◇◇


「…そろそろ4時半なので、六時前にここを出れるように一時間程勉強内容を解説しあったら帰りましょうか。」


僕が声をかけると桜子さんの表情が一瞬揺れた。


(…ん?なんだ?)


「…そ、うですね。わかりました。」


一時間程勉強内容を先程と同じように解説し合い、僕達は5時半過ぎに席を立った。


「今日はありがとうございました。お陰で時間をとても有意義に使えました。」


窓の外を見ると、オレンジ色の夕陽が沈んでいる。


 僕達はエントランスに向かっていく。


「…はい、こちらこそありがとうございました。


 っ、あの!!」


少し桜子さんが切なげに顔を歪めたのでドキッとしてしまう。


「…なんですか?」


「…まだ、まだあと少しだけ一緒にいたいです。」


そう言ってきゅっと手を握ってきた。


「――っ、じゃあ少し散歩でもしましょうか。」


僕達は手を繋いで公園を歩いた。


 その間、ちらちら桜子さんが僕の方を見てくるのでなんだか照れ臭くなってしまう。


「…昼間と違って夕暮れの公園の景色もいいですね。」


「…はい。あの…もうちょっとだけこっちに来て屈んで頂いても良いですか?」


(ん?なんだ?)


僕は疑問に思いながらも言う通りにした。


 ちゅっ。


 すると不意に桜子さんがなんとキスをしてきた。


「――っ!!」


(さ、桜子さんからぼ、僕にキスをしてくれた…だと?!)


呆然とする僕から桜子さんはサッと恥ずかしそうに目を逸らす。


「きょ、今日勉強が終わったらしてくれるって言ってたじゃないですか…。


 …待ってたのになかなかして下さらないから自分からしてしまいました。


 はしたないって思われますか?」


突然の出来事にしばらく思考が停止したが、やがて喜びが胸に溢れてくる。


 桜子さんは顔を真っ赤にして泣きそうになっている。


「いえ、凄く嬉しいです。

 ――気が付かなくてすみません。」


今度は僕の方からキスをした。


 すると、やっと桜子さんが笑ってくれた。


「ふふっ、慶一郎様、大好きっ。」


そう言って桜子さんが嬉しそうに僕の腕にしがみついてきた。

  

 その際に柔らかな桜子さんの胸をむにゅりと腕に押し付けられて、理性が吹き飛びそうになる。


(お、落ち着け、僕!!こ、これは偶発的なものであり、決して意図的なものではない!


  3.141592653589793238462643383279…)


気を抜くと、僕の手が勝手に桜子さんの胸元に伸びてしまいそうになる。


 僕はそんな愚行を犯さぬように必死で円周率を頭の中で唱える。


 ぱいだけにπで煩悩を打ち消すという僕なりの懸命な努力の結果である。


「…そういえば、電話はいつするのが良いでしょうか?」


僕が感情を押し殺しながら尋ねると、桜子さんが少し考え込んだ後こんな提案をしてくれた。


「…では、土曜日が勉強会なので、水曜日の九時から九時半の間はどうですか?」


(確かに感覚を空けて楽しみが合った方が良さそうだな。)


「はい。楽しみにしてますね。」

僕が答えると彼女がスマホを出してスケジュールにメモる。


 押し付けられていた胸の感触がなくなり、少し、いや、かなり残念に思ってしまう。


(…何をがっかりしているんだ僕は!

 ホモ・サピエンスとして欲望に理性がかろうじて勝利したことに誇りを持つべきだ。)


僕は気をなんとか引き締めながら、笑顔を作る。


「はい、僕も楽しみです。」


僕達は手を繋ぐと、桜子さんの家の車が迎えにくると言うので車の停めやすい場所まで歩いていく。


 すると、不意に桜子さんがこんな事を言い出した。


「あの…。電話はテレビ電話でもいいですか?

 慶一郎様のお顔が見たいので。」


――その瞬間、再び理性がグラつく。


「――っ、」


思わず公共の誰が通るかわからない道路の真ん中だというのに、グイッと桜子さんを引き寄せて唇を奪いそうになってしまった。


「桜子さんっ!」


僕が引き寄せると、彼女が目を見開いた。


「っぁ、」


彼女が恥ずかしそうに声を上げたその瞬間、今度は右翼の街宣車が現れた。


 『同期の桜』を爆音で流しながら後方から走ってきて、僕は驚いて振り返ってしまった。


 ドクンドクンと僕の心臓が暴れ回る。


 すると、伊集院家の黒塗りのセンチュリーが迎えに来たのがわかった。


「…桜子さん。大丈夫ですか?着いたみたいです。」


すると、桜子さんが僕をしばらく見つめた後、ぺこりと頭を下げた。


「…ありがとうございました。また来週よろしくお願いします。」


「…はい。またLINEします。」


車のドアがパタンと締まる。


 僕は伊集院家の車が見えなくなるまで見送ると、ふぅーっと息を吐く。


(…ヤバかった。


 僕とした事が危うく公衆の面前で理性を忘れ求愛活動に勤しもうとしてしまうとは…!!


 まさか、右翼の街宣車に助けられる日が来ようとは!もっと気を引き締めねば!)


僕は自分の頬をパンッと叩くと、駅へと向かった。


 いつの間には夕暮れのオレンジ色の空は濃紺の夜の闇に包まれていた。


『結論:公共空間における理性の維持は、外乱要因――犬及び街宣車の存在に大きく依存する。』


参考:円周率小数点以下100桁

https://rollpie.com/pie/1966

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