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偏差値70なのに恋愛経験0の二人の理性が崩壊するまで〜財前慶一郎と伊集院桜子の恋  作者: 間宮芽衣


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第十八話◇週に一度の勉強会は、少しだけ危険です。〜伊集院桜子視点


◇◇伊集院桜子視点


(こ、この格好、変じゃないかしら?)


日比谷図書文化館のエントランスにあるベンチで、私は落ち着かない気持ちで慶一郎さんを待っておりました。

 

 今日の服装は、お気に入りの淡いブルーの薄手のニットと、軽やかな生地のグレイのフレアスカートです。耳にはお気に入りのパールのイヤリングを付けております。


 ――スマートフォンを見ると、時間は8時30分。


(…少し早く来過ぎてしまったかしら?)


「ホトトギス 人まつ山に鳴くなれば 我うちつけに恋まさりけり」


私は古今和歌集の紀貫之の句を口の中でなぞりました。


 今日はお天気にも恵まれ、太陽の光がガラスから差し込み、外から微かに小鳥の囀りが聞こえます。


 慶一郎様をお待ちする間もお慕いする気持ちが高まってきてしまいます。


「桜子さんっ!遅くなってすみません!」


ところが5分もしないうちに慶一郎様の声が私の鼓膜を震わせました。自分の心が自分でも高揚していくのがわかります。


「っ、慶一郎様っ!」


振り向くと、高校生になってから初めて見る私服姿の慶一郎様が立っておりました。


 灰色のジャケットに、インナーは白いシャツ。


 黒いパンツを履いて――そして、なんと今日は黒縁のメガネをしてらっしゃいます。


(きゃー、きゃー!なんて素敵なの?!着物も制服もとても素敵だったけれど、私服の慶一郎様もとっても素敵だわっ!)


私達はついついお互いに無言で見つめ合ってしまいます。


「違うんですっ!私が…、は、早く来過ぎてしまいました。慶一郎様に早くお会いしたくてっ!!

 まだ時間の20分以上前ですし…!」


思わずつい本音を漏らすと、慶一郎様が口元を緩めました。


「僕も早く桜子さんにお会いしたかった。

 ――私服姿もとっても素敵です。

 行きましょうか。」


差し出された手にそっと自分の指先を絡めます。


 ときめき過ぎて手足をジタバタさせたいのをぐっと堪えながら私は慶一郎様と並んで歩いて行きます。


 勉強が出来る閲覧先に行くと、丁度窓際の二つ並んだ席が空いていました。


「あの席はどうですか?」


慶一郎様の言葉に私は笑顔で頷きます。


「っはい!!」


隣り合わせに座るとなんだか胸がむずむずと擽ったい気持ちになりました。隣を見るとすぐ彼の横顔があり、ついチラチラ見てしまいます。


「慶一郎様。私、今まであまり勉強会はした事がないのですが、二人で勉強する場合どのような方法が有効だと思いますか?」


「そうですね。桜子さんはエビングハウスの忘却曲線をご存知ですか?」


その言葉に私は頷きます。


「…ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスのことでしょうか?」


「そうです。流石桜子さんだ。

 それによると、1日後、一週間後、そして一ヶ月後には7〜8割忘却すると言われているんです。

 つまり、そのタイミングで復習をする記憶が定着しやすいと言われているんです。」


その言葉に私は少し考え込みます。


「…でしたら。勉強会は丁度週に一回ですし、そのタイミングで声をかけ合えば内容が定着しやすい…ということですね。」


「その通りです。

 ――なのでこうしませんか?


 まずはそれぞれ2時間ほど勉強をしましょう。

 その後、覚えた事を30分ずつポイントを絞りながら教え合う。アウトプットすることでさらに記憶を定着するので。


 そして、次の日に各自相手に教えてもらった内容を元にクイズを作成する。それを翌週の勉強会で解き合う。


 …どうでしょうか?」


真剣な顔の慶一郎様に胸が締め付けられながら私は頷きます。


「ええ、とても良いと思います。

 …その。明日も慶一郎様の教えて下さった事を反芻出来るなんて、すごく幸せです。」


思わず溢れた本音を漏らすと慶一郎様は息を呑みました。


「――っ、桜子さん、」


彼が何かを我慢するかのように悩ましげに顔を歪めました。


 その色気たっぷりの表情に心臓がバクバクと暴れ出します。すると、彼の左手がそっと私の太ももの上に置かれました。


「っ、慶一郎様…」

「…今日はこのまま勉強してもいいですか?」


私は顔に熱が集まるのを感じながら頷きます。


「…はい。」


――こうして幸せな勉強時間がスタートしたのですが…。


「――っ、」


(どうしましょうっ、全く集中出来ませんっ!)


慶一郎様の指先が脚の上でモゾモゾと少し動くだけで…、まるで全部の触覚が集まってしまったかのように気になってしまいます。


 油断したらおかしな声が出てしまいそうです。それをなんとか懸命に堪えます。


 隣に視線を負けると慶一郎様が真剣な顔で問題集を解いております。


 私はだんだん自分のはしたなさが恥ずかしくなってきてしまいました。


(っ、でも!)


「っあの、慶一郎様っ!」


私が思い切って話しかけると慶一郎様が顔を上げ、目を見開きました。


「っな、…さ、桜子さん?!

 ど、どうしたんですか?そんな、泣きそうな顔をして…。」


心配そうに彼が私を覗き込んできました。


 なので、周囲に聞こえないようにそっと耳元で小さな声で伝えます。


「あの、手を太ももに置くの、やっぱりちょっと…やめて頂いてもいいですか?」


「どうしてですか?

 …嫌でしたか?」


慶一郎様がちょっと不安げな顔をされたので、慌てて否定します。


「ち、違います!

 そのっ!!…へ、変な声が出てしまいそうで…。

 全然勉強に集中出来ないんです…。」


耳元で囁くと、彼の顔が徐々に赤くなってきます。


「っ、それは、失礼しました。」


そう言って太ももから手を離された瞬間、ビクリと震えてしまいます。


「あっ、」


すると、彼がゴクリと生唾を呑み込み、今度は耳元で低い声で囁きました。


「…じゃあ我慢します。


 その代わり、勉強が終わったらキスしてもいいですか?」


心なしか慶一郎様の目が熱を孕んでいるような気がします。


「はい…。」


こうして私はドキドキし過ぎて苦しくなりながら、なんとか参考書に視線を落としました。


 ――二時間後。


「僕は今日は英語の文法を学びました。

 ここの英訳は…」


個別の勉強時間が終わり、解説し合う時間になりました。 


 慶一郎様がノートと参考書を私の方に向けて優しく勉強した内容を教えて下さいます。


 お手紙にもあった几帳面な字がノートにも書かれており、なんだか胸の奥が熱くなってしまいます。


「…このノート、後でコピーを頂いてもいいですか?」

「はい。では、終わったらお昼ご飯の前にコピーしに行きましょうか。」


その後、私が勉強していた漢文について説明した後、二人で二階に行ってコピーをしました。


「桜子さん、お昼ご飯は何が良いですか?」

「…あの!今日の朝、山内さんと一緒にお弁当を作ってきたんです。周りにあまりに飲食店がなかったので。


 良かったら公園で一緒に食べませんか?」


その言葉に慶一郎様が目を丸くしました。


◇◇


「…お口に合うといいんですけど。」

私が作ってきたのはサンドイッチです。カツサンドと卵サンド、イチゴの入ったフルーツサンドの3種類です。透明な容器に入れてカプレーゼも作りました。


(山内さんに確認して頂きながら、きちんと計量して作ったから大丈夫だと思うのだけど…。)


私は緊張しながら紙皿に取り分けほうじ茶を入れました。


「どうぞ。」


心なしかソワソワした様子で慶一郎様が受け取って下さいました。


「…頂きます。」


手を合わせた後、慶一郎様が召し上がって下さいました。


「…どうですか?山内さんに手伝って頂いたので大丈夫かと思うのですが…。」


私が少し不安になりながら尋ねると、顔を綻ばせて下さいました。


「…サクサクで美味しいです。カツサンドにマスタードも入っているんですね。」


その笑顔を見て、早起きして良かったと心から思いました。


「良かった。沢山食べて下さいね。」


私の言葉に嬉しそうに頷いて下さるのを見て、再び私の心臓がきゅうっと締め付けられてしまいました。



参考:エビングハウスの忘却曲線とは?

https://www.amidas.co.jp/client/haken/article/ebbinghaus.php

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