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偏差値70なのに恋愛経験0の二人の理性が崩壊するまで〜財前慶一郎と伊集院桜子の恋  作者: 間宮芽衣


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第十七話◇ 理性を保つ為の英単語。〜財前慶一郎視点


◇◇財前慶一郎視点


 家に帰った僕は、早速桜子さんに連絡をすることにした。


(…何て打てばいいんだ?)


手紙の場合は拝啓…から始めることが出来る。


 だが、LINEの場合はどう始めたら良いのだろうか。


(――とりあえず、桜子さんと約束をしたからには破る訳にはいかない。遅い時間になる前に打ってしまわねば…。)


僕は悩みに悩んでシンプルにお礼の文章を打ち込んだ。


『本日はどうも有難う御座いました。』


――送信。


 絵文字を入れるべきか悩んだが、選択を間違えると大変な事になる恐れがある。


 ちなみに、汗マークは日本だと焦りなどを表すが海外では精子を意味する。安易に絵文字を使うのは命取りとなる場合も多い。


 ――よって、ここは句読点が1番無難であると判断した。


 画面に表示された既読の有無を、僕は瞬きもせずに見つめていた。


 その間、理性を保つ為に『TARGET1900』のリスニングを聞いて気を紛らわせる。


 丁度イヤホンで『at last』と流れた瞬間、”遂に”既読になった。


 僕は桜子さんから返信が来るのをゴクリと生唾を呑み込みながら見守る。


 すると、ピロンと音が鳴り、僕は目をクワッと見開く。


『こちらこそありがとうございます。

 慶一郎様とお会いする事が出来てとても嬉しかったです。』


(こ、これは!!)


僕の心が一気に高揚する。


 すると、丁度イヤホンから『be beneficial to』と流れてきた。


(会う事が出来て嬉しい…故に僕と過ごした時間がとても”有益であった”と!そういう事ですね!桜子さん!!)


『僕も桜子さんにお会い出来て嬉しかったです。

 ところで、図書館での勉強会はいつ開催しましょうか?』


ついつい焦って返信を送ってしまった後に気がついた。


(…しまった。これではがっついていると思われないだろうか…。しかし、送信取消をしてしまうと余計に怪しい。どうしたものか…。)


すると、すぐに既読が付いてドキドキしながら僕は画面に釘付けになる。


 イヤホンからは『I suggest that〜』と流れてきた。


『そうですね。平日ですとゆっくり勉強出来ないので土曜日はいかがでしょうか?』


「YES!!!」


僕は桜子さんからの素晴らしい”提案”に思わず立ち上がって叫んだ。


(場所はどこがいいだろうか…?桜子さんの家のある目黒から遠すぎない場所だと日比谷辺りだろうか…。)


『はい、大丈夫です。

 場所は日比谷図書文化館でいかがですか?』


すると、直ぐにピロンと音が鳴り返信がきた。


『行ってみたいと思っていました。

 9時にエントランスに集合でいかがですか?

 楽しみです。』


――楽しみです。

――楽しみです。


僕の脳内でその一言にエコーがかかる。


(僕も楽しみです!桜子さん!)


時間を見るとそろそろ午後九時半を回ったところだったので、名残惜しいが僕は会話を切り上げることにした。


『はい、大丈夫です。僕もとても楽しみです。

 それではまたご連絡しますね。』


既読になり、もう返事は返って来ないだろうと思いながら参考書に目を落とした時だった。


 ――ピロン、と通知音が鳴り、僕の心臓が跳ねた。


(…なんだ?)


画面を見ると、こんな事が書かれていた。


『はい。お待ちしています。

 おやすみなさい。慶一郎様。』


そのメッセージ思わず顔がニヤつきそうになってしまった。


『おやすみなさい。桜子さん。いい夢を。』


僕がそう送ると、桜子さんからカエルの可愛いらしいスタンプが返ってきた。


(なんだこれは!!幸せ過ぎるんだが!!)


僕は桜子さんの可愛さに打ち震えながら参考書をめくった。


◇◇


 次の日、僕は朝食を終えるとコソコソと買い物に行く為に玄関に向かった。


「あら?慶一郎。どこか出掛けるの?」


母、由里子に声をかけられて思わずビクリとしてしまう。


「…シャーペンの芯とルーズリーフが無くなってしまったので買い物に行きます。」


僕の答えに母は少し考え込んだ後に頷いた。


「本当は桜子さんとの勉強会の服を買いに行くのね?

 …いいわ。今回の期末試験が一位だったから出資してあげましょう。それが貴方の学力を上げる為の褒賞となるのなら。このカードから30万円以内であれば使ってもいいわよ。」


僕はクレジットカード(家族会員用)を手に入れた。


「お母様!ありがとうございます!!」


「…何よ。いつもお母様なんて言わないのに。

 …気持ち悪いわね。まあいいわ。頑張って来なさい。

 くれぐれも清潔感のないやさぐれたカウボーイみたいな服や、戦地に向かうような服を買うのは辞めなさいよ。


 誠実そうな服を買いなさい。」


僕は慇懃にお礼を伝えると、財前家を出発した。


◇◇


 僕はデパートに到着した。

 とりあえずいつも服を購入するブルックスブラザーズへと向かう。


「財前様っ!」


顔見知りの店員がキラキラとした眼差しで僕に話しかけてくる。さながらその目付きは獲物を狙う肉食獣だ。きっと彼には僕が札束に見えているのだろう。


 ――だが、まあ良い。敢えて狩られる側に回ってやろう。今日の僕は昨日の可愛すぎる桜子さんのメッセージにより機嫌が良い。


「じゃあ、コレとコレとコレ、コレも試着しても良いだろうか。」


「っはい!勿論でございます!」


店員はウキウキしながら次々と服を運んでくる。

 だが、彼のセンスは間違いないので何も言うまい。


「ふむ…、このジャケットの色違いはあるだろうか。

 灰色のものがあれば嬉しいのだが。」


「はいっ!只今お持ちします。」


その時だった。


「――ちょっと待って。」


その言葉に僕は店員と一緒に振り返る。


「…こ、これは!天宮あまみや様!ご無沙汰しております。」


見ると、そこには幼い頃パーティーで出会ったことのある社長令息がいた。


「久しぶり。財前君じゃないか。社交パーティーで出会った時以来だな。

 申し訳ないけれどそのジャケットは僕が狙っていたんだ。譲ってくれるかい?」


顔は笑っているのに天宮の目は笑っていなかった。

 ――ここに、僕達の闘いの火蓋が切られた。


「申し訳ないが、今丁度購入しようとしていた所だ。 …取寄せをして貰えば良い。」


「っ、ええ!天宮様!この商品ですと、他の店舗にもございますので直ぐにお取寄せ出来るかと…。」


すると、彼は薄く笑った。


「――僕は、今直ぐに購入したいんだ。

 僕の1時間の価値をそこら辺の庶民の一時間と一緒にしないで頂きたい。


 …これが何か、分かるかな?」


すると、天宮はアメリカン・エキスプレス センチュリオンカードを差し出した。

 通称『アメックス・ブラック』と呼ばれているカードだ。


「こ、これは!」

店員は目を丸くする。


「ふん、僕はブラックカードだぞ?優先してくれるよな?」


その言葉に僕はほくそ笑んで心の中で呟く。


(…ふん。なかなかやるな。

 だが…!!


 ぁーーーーーー!!!!)


僕は、何も言わずにその上にぺしっと先程母に渡されたクレジットカードを叩きつけた。


「……これは!!」


一瞬、その場の空気が変わった。


「こ、これは!ダ、ダイナースクラブ……ブラック……?年会費14万3000円、航空機もコンシェルジュ経由で簡単にチャーター出来るという幻の…?!」


天宮は悔しそうに唇を噛んだ後、頭を下げた。


「…財前君、申し訳なかった。カードの質は甲乙付け難いが、僕の態度は傲慢だった。これを井の中の蛙というのだな。…仕方ない。

 ――入荷を待つことにしよう。」


「はい!天宮様!ご用意出来次第直ぐにご連絡します。」


店員が感動して両手を合わせる中、僕達は戦友として握手を交わす。


 天宮はフッと口元を綻ばせた。


「…君とはまた何処かで会いそうな気がするよ。」

「ああ、そうだな。そんな予感がする。」


そして、それぞれ会計を済ますと店を去っていった。


(…うむ。なかなかの闘いっぷりだった。嫌いじゃない。)


僕は週末の桜子さんとのデートに想いを馳せながら家路に着いた。


参考:日比谷図書文化館公式ホームページ

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