第十六話◇婚約の儀と、交わされる未来の約束〜伊集院桜子視点
◇◇伊集院桜子視点
「それでは桜子と慶一郎君。
…そして両家の幸せを祈って。
――乾杯。」
父、雅臣の言葉で全員がにこやかにグラスを手に取り乾杯をします。
あの後、山内にさんに『会食の準備が出来た』と呼ばれた私達は一階に戻って来ました。
「このお料理、凄く美味しいですわ。
鮎の塩焼きもとてもお上品な味がします。」
由里子様が微笑むと、母が嬉しそうに頷きます。
「ふふっ。喜んでくださって嬉しいですわ。
本日は雅臣さんの行きつけの銀座の割烹に仕出し料理をお願いしたんです。
お刺身も築地で厳選したものを使用して下さっているんですって。このお店は湯葉料理が絶品ですの。
もう少ししたらお出しする予定です。」
「まあ!楽しみです。」
すると、理人様が私達に話を振って下さいました。
「ところで、慶一郎と桜子さんはどんな話をしていたんだい?」
慶一郎様と私が目を見合わすと、頷いて彼が先に答えて下さいました。
「はい。お会い出来なかった六年間どのように過ごしていたか、それにお互いの食の好みについて等お話しておりました。」
私も頷きながら続けます。
「はい。それと、慶一郎様に婚約指輪とお誕生日プレゼントを頂きました。
――とても素敵なものを頂き、本当に有難うございます。」
私が御礼を申し上げると、財前家の皆さんがとても嬉しそうに笑って下さいました。
「まあ!とても素敵ね。もしかして、ハリー・ウィンストンの指輪かしら?
随分と高価なものを頂いてしまいまして。」
私の身に付けている指輪を見て母が驚いた顔をすると、怜一郎様がニヤリと笑います。
「慶一郎が、絶対に桜子さんには納得をしたものを差し上げたいと聞かなくて。
7店舗以上回って、結局ハリー・ウィンストンに落ち着いたんですよ。
ダイヤモンドは永遠に品質が変わることがないですから。
『永遠の愛』という意味が込められているので、ダイヤをふんだんに使った指輪がいいと慶一郎が申しまして。
『ダイヤモンドは周囲の4つの炭素原子との共有結合によって立体的な結晶構造をしている。
即ち非常に硬度が高く、僕達のこれからの関係にぴったりだ。』と五月蝿くて…」
その言葉に思わず目を丸くして慶一郎様の方を見てしまいます。
すると、慶一郎様が恥ずかしそうに顔を赤くされました。
「兄さん、そういう事は言わなくていいから!!」
すると父、雅臣が嬉しそうに目を綻ばせました。
「…桜子。財前家の皆さんに感謝しないとな。」
その言葉に私も頷きます。
「はいっ!本当に有難う御座います。」
その後も和やかに会食が進み、デザートの柚子シャーベットを食べている時でした。
怜一郎様が突然こんな事を切り出されたのです。
「…そういえば二人とも十八歳になりましたが。
今後の交流はどの範囲までお許しになられる予定なんですか?
――その、今までは学問優先で文通以外禁止でしたよね?
いやぁ正直、イマドキ僕も驚いてしまいましたが。」
その言葉に思わず私達は目を見開きます。
(…それ!!一番気になっておりました!!)
すると、母がニッコリと微笑みます。
「そうねぇ。とりあえずお互い大学受験がありますので、週に一度お勉強を一緒にするくらいなら。
あと、まあLINEや電話の連絡先くらいは交換してもいいと思いますわ。」
その言葉に私は胸が高揚していくのを感じます。
(…遂に!遂に慶一郎様とリアルタイムで連絡を取る事が出来ますのね?!
そ、それに!!勉強会ならお会いすることが出来るということ?!)
慶一郎様も喜んで下さったのか、口元を綻ばせて下さいました。
しかし、その後母が微笑んだまま告げました。
「…ただし!!
――成績が下がったらスマホは没収!
勉強会も禁止ですわ。
電話も週にせいぜい30分までにして下さいね?」
すると、さらに由里子様が嬉々として続けました。
「そうですわね!!
あと、LINEも22時以降はNGで!
試験の一週間前からは禁止です。
あと、勉強会は基本図書館や公共の場でして下さい。桜子さんの門限に合わせて20時までには帰ってきて下さいね。」
すると、一瞬その場が水を打ったように静かになりました。
「み、美智子?それはちょっと厳しすぎるんじゃないか?」
父の言葉に母は首を振ります。
「とんでもございませんわ!!受験までのほんの数ヶ月の間のことですのよ?」
「私も美智子様の意見に賛成ですわ!
それで万が一受験に失敗でもしたらお互いにずっと後悔する事になりますもの!」
お互いの母同士が結託して頷き合っております。
「…ま、受験が終わったらお互い一人暮らしになるんでしょ?だったらそれで良いのかもしれないですね。」
怜一郎様の言葉に私の心がパァッと色づきます。
(そ、そうですわ!!進学したら生活力を身に付ける為に一人暮らしを、というお話になっておりましたわ。
――もし、一人暮らしになったら、慶一郎様と…。)
私の脳内にめくるめく薔薇色の日々が再生されます。
『桜子さん、今日はこの後、どうします?』
二人っきりの部屋で慶一郎様が掠れた声で耳元で囁きます。
『…私、帰りたくないですわ。』
私が勇気を出してお伝えすると、慶一郎様が目を見開きます。
『っ、桜子さん!!』
そう言って抱きしめる彼のことを私はばくばくと暴れ出す心臓を抑えながら見つめます。
『…慶一郎様っ、』
そして、慶一郎様の眉目秀麗なお顔が近づいてきて…。
(…きゃー!!きゃー!!)
皆さんが真剣に話し合っている横でついつい妄想が爆発してしまいます。
熱の溜まった顔でチラッと慶一郎様の方を見ると、週に一度お会いできるようになる事が嬉しいのか、彼も口元を綻ばせておりました。
「…という訳でこれから宜しくお願いしますわね。」
そう言ってニッコリと微笑む母達を前に私達の気分は最高潮に昂っておりました。
「「はいっ!!」」
その後紫陽花の咲き乱れる庭園で、真ん中に私と慶一郎様、周りには親族が並んで記念写真を撮影しました。
「皆さーん!こちらを向いて笑って下さい。
そう!そうです!
良い笑顔ですねぇ。」
我が家で昔からお世話になっている写真家の徳永さんが声をかけて下さいます。
その後、慶一郎様と二人の写真も撮って下さいました。
「はい、もっと近づいてー、慶一郎君、桜子さんの腰に手を回してもらってもいいですか?
そう!もっと密着して下さい。」
そう言われて、慶一郎様が恐る恐る私の腰に手を回して下さいました。
(…わっ、)
慶一郎様の指先の感触に、思わず赤面しそうになるのを懸命に堪えて口角を上げます。
すると、徳永さんが笑顔で褒めて下さいました。
「あー、いいですねぇ。それじゃ、撮りまーす。」
パシャリ
(慶一郎様とのツーショット!出来上がった写真を見るのが凄く楽しみだわ。)
私は嬉しい気持ちで胸がいっぱいになるのでした。
――帰り際、大人達が話し込んでいる間私達は遂にスマートフォンで連絡先を交換しました。
「っあの!これからもお手紙でもやりとりさせて頂いても宜しいですか?
――慶一郎様の几帳面な文字を読むのをいつもとても楽しみにしていたんです。」
その言葉に慶一郎様が口元を緩めます。
「…僕も同じ事を思っていました。
桜子さんとのやり取りが終わってしまうのは寂しいなって。
それにスマートフォンですと、あまり長い文章は書きにくいですし。」
そのやり取りを怜一郎様がニヤニヤしながら見ておりました。
「いいねぇ、青春だねぇ。
――桜子さん。どうか慶一郎の事を宜しくお願いします。」
その言葉に私は笑顔で頷きます。
「…勿論です。
私の方こそどうか宜しくお願いします。」
最後に、耳元で誰にも聞こえないように慶一郎様が囁きました。
「…帰ったら、必ず連絡します。」
その言葉に思わず私は顔を綻ばせるのでした。
「っはい!」
――こうして私達は無事に婚約の儀を終える事が出来たのでした。
参考:ダイヤモンドの石言葉は、永遠の絆。その他の意味やカラーによる違いを解説 より
https://bloomonline.jp/magazine/24july-diamond




