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偏差値70なのに恋愛経験0の二人の理性が崩壊するまで〜財前慶一郎と伊集院桜子の恋  作者: 間宮芽衣


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第十ニ話◇きっとこれは引力のせいですわ。〜伊集院桜子視点


◇◇伊集院桜子視点


「桜子さんっ!!」


五分も立たぬうちに背後で慶一郎様の声がしました。


 ――声を聞いただけで胸が高鳴り、きゅうっと甘く締め付けられます。


(…ああ。このお声は、絶対に慶一郎様だわ。)


振り返ると、前回とは違って男性の格好をした凛々しい慶一郎様が立っておりました。


 私の為に息を切らせて走って来て下さったようです。


「――慶一郎様っ!!」


嬉しくてつい口角が自然と上がってしまいます。


(っ、詰襟だわ!なんて、なんて素敵なのでしょうっ!!)


当たり前ですが本日は女装をしていらっしゃいません。眉目秀麗で男性らしい慶一郎様のお姿に思わずボーッとしてしまいます。


 するとなんと慶一郎様が人目も憚らず、切羽詰まったかのように私を突然抱きしめて来たのです。


「ちょっ、慶一郎様っ!!

 こんな所で恥ずかしいですってば!


 皆さん見ていますっ!」


突然の出来事に身体が沸騰しそうなくらい恥ずかしくて、でも嬉しくて胸が熱くなってしまいます。


「…いいんです。

 ――来てくれて、ありがとうございます。」


私が真っ赤になって、アタフタしていると、周りの何人かの方達が悪ノリして『キース!』『キース!』と手を叩き出し困惑した――その時でした。


「はいはいはーい!

 皆さん、お騒がせして申し訳ありません。


 この子、財前君に誕生日プレゼントを渡したかっただけみたいなの。

 

 ――さてと。財前君、もう出れる?」


朱里さんが前に出て来て皆さんを宥めて下さいました。


「…ああ。申し訳ない。

 城之内さん、でしたか?先日は案内してくれてありがとうございます。」


「いいのいいのっ!さてと。それじゃあ皆さんお騒がせしました。」


私達が慶一郎さんと立ち去ろうとすると、眼鏡をかけた男子生徒に話しかけられました。


「待ってくれ。僕達は財前の友人だ。


 せっかくなので君が婚約者ならば、挨拶させて頂いてもいいだろうか。」


(あれ…?この方どこかで…。)


私が目を丸くした瞬間でした。


「あー!!渋谷で助けてくれた『ホスペス』の人!!」


――朱里さんの一言で私はようやく彼のことを思い出したのでした。


◇◇


「――この人が僕の婚約者の桜子さんだ。

 僕の大切な人だ。」


私達はとりあえず目の前のファーストフード店に入り、慶一郎様、ご友人の宮西さん、和田さん、そして渋谷で助けて下さった四之宮さんと朱里さん、六人でお話しすることになりました。


(僕の大切な人…。)


慶一郎様の堂々としたご紹介に恥ずかしさと嬉しさで顔がジワジワと赤くなってしまいます。


「…伊集院桜子です。皆さん、宜しくお願いします…。」


私の言葉に宮西さんと和田さんがニヤニヤと笑います。


「で、私が桜子の友人の城之内朱里です。

 皆さん、宜しくね。それにしても、渋谷で絡まれてるを助けてくれたのが本当に財前君の友人だったとはねぇ。


 ビックリしました。」


「ああ、僕も驚いた。世間とは狭いものだな。」


朱里さんが笑いかけると、四之宮さんが淡々とブラックコーヒーを啜りました。


「いやー、それにしても伊集院さん、マジで可愛いじゃんっ!実物だと破壊力凄いわー。


 これは財前がおかしくなるのも納得だわ。」


宮西さんの言葉に私は思わず目を丸くします。


(…え?おかしく?)


「おい、宮西。余計な事を喋るな。」


四之宮さんに嗜められて、宮西さんはポリポリと頭を掻きます。


「それにしても、菊乃森女子と言えば目黒に近いですよね?祐天寺の方にナイアガラというカレー屋があるのをご存知ですか?」


和田さんの言葉に私は頷きます。


「はい。電車がカレーを運んできてくださるお店ですよね。朱里さんと二回程行ったことがあります。


 …慶一郎様ともいつか行ってみたいです。ね、慶一郎様?」


私が彼の事を見つめると、慶一郎様のお顔が何故かカァアッと赤くなりました。


 それを見て和田さんが更に笑みを深めました。


「さてと、そろそろ僕らは行くか。


 せっかく久しぶりに婚約者に会えたのに邪魔したら申し訳ないからな。


 おい、宮西、和田、行くぞ。」


四之宮さんが声をかけると他のお二人も立ち上がりました。


「それじゃ、私も行こうかな。


 財前君、桜子の事宜しくね。


 三人とも、せっかくだから私も駅までご一緒してもいい?」


四之宮さんが頷くと、四人で行ってしまわれました。


 二人きりで残された私と慶一郎様は、数秒間呆然としていましたが、不意に視線が絡まり合いました。


 その途端、顔が信じられない程熱くなります。


「…慶一郎様。突然お伺いして申し訳ありません。どうしても、お誕生日プレゼントを直接お渡ししたくて。

 …あの。十八歳、おめでとうございます。」


そう言って私はニュートンのゆりかごのオブジェが入った紙袋を渡しました。


 すると、慶一郎様が、とても嬉しそうに口元を綻ばせて下さいました。


「…ありがとう。開けてもいいですか?」

「っはい!」


そう言われて私は頷きます。


 慶一郎様は丁寧にラッピングを剥がしたあと、箱から見えるオブジェを見て目を見開きました。


(わっ、まつ毛が長いです…。)


「…これは、ニュートンのゆりかごですか?」


「はい。慶一郎様と離れてもまたすぐ戻ってくれるような場所に私がなれたら素敵…と思いまして…。」


説明しているうちに段々恥ずかしくなって俯いてしまいます。


 チラッと目線を上に向けると、慶一郎様が口元を手で隠して真っ赤になっておりました。


「…桜子さん、嬉しいです…。」


「はいっ、あの…。」


私が慶一郎様を見つめると、彼が顔を赤くしたまま尋ねて下さいました。


「…どうしました?」


「ご、ごめんなさい、男性の格好をした慶一郎様が素敵すぎて…、直視できません。」


私が思わず熱を持った顔を隠すと、パッと手首を掴まれました。


「…隠さないで下さい。…可愛いので。」


「っ、なっ、」


――思わず固まったその時でした。


「ママー!あの人達何してるの?」


可愛い幼稚園くらいの男の子にそう言われてしまいました。


「邪魔しちゃダメよ!デートしてるんだから!

 すみませんっ!」


その子のお母さんにペコリと頭を下げられてしまいました。


「い、いいえ!いいんです!」


私が恥ずかしくてぶんぶん首を振ると、慶一郎様がそっと私の手に自分の手を重ねて来ました。


「っ、!!」


「桜子さん、少し外を一緒に歩きませんか?」


少し真剣な彼の顔にドキドキしつつ、私はコクリと頷くのでした。


◇◇

 

 ファーストフード店を出るとすっかり夕方になっていました。


 私達は指を一本一本絡め合いながら手を繋ぎます。


(ど、どうしましょう、心臓が痛いです…。)


私達は人気のない大きなトチノキのある公園まで歩いて来ました。


 慶一郎様の手はゴツゴツと大きくて、少し指が動くだけでなんだか変な気分になってしまいます。


「っぁ、」


思わず声が漏れると慶一郎様がプイッと横を向いてしまいました。


 ――でも、その耳は真っ赤になっておりました。


そして、早口で彼がこんな事を言いました。


「っ、桜子さんはご存知ですか?


 ニュートンが発見した万有引力の法則によると、物体の質量が大きくなる程に引力も大きくなるんです。」


その景色がなんだか初めてお会いした日と重なって、胸の中が温かい気持ちで溢れていきます。


(…慶一郎様、もしかして照れていらっしゃるのかしら。)


「ええ、そうですね。」


「…万有引力はすべての物体同士が引き合う力だとされています。


 つまり僕と桜子さんの間にも、確かに引力が存在しているのです。


 成長して少しずつ質量が増えた分、昔よりあなたに引かれる力も、大きくなっている筈です。」


その言葉に私の体温が一気に上昇していきます。


「…ええ。確かにあの時よりもずっと…、ずっと離れ難いですわ。


 ふふっ、でもこれは引力のせいなのかしら。ただ、お互いのことが好きだから…じゃないですか?」


すると、慶一郎様の喉仏がゴクリと動きました。


「っ、桜子さんっ!」


私が振り返るとグイッと慶一郎様に手を引かれて抱きしめられました。


「っあ、」


慶一郎様のお顔を見つめると、慶一郎様も私の方を見つめ返して来ました。


 お互いの心臓の鼓動が、早鐘のように重なって響いているのがわかります。


 そっと震えながら目を閉じると、慶一郎様の唇が降りてきました。


 目を開けると、至近距離で彼が蕩けるような甘い顔で微笑んでいました。

 

「…好きです。でも今は引力のせいにしていいですか?」


その言葉に思わず頭が沸騰しそうになります。


「はい…。」


するともう一度甘い唇が落ちて来ました。


「…宇宙空間に行っても万有引力がなくならないように、僕の君への気持ちもなくなりません。」


その言葉に心臓が痛いほどきゅうっと締め付けられます。


(…今日が終わらなければいいのに。)


私は慶一郎にギュッとしがみつきながらそんな事を思うのでした。

参考:理系ラボより

https://rikeilabo.com/gravitation

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