7 エピソード③
戦いのあと、安心からか岬は熱を出して倒れてしまう。
洞窟の中、小さなランタンが灯る静かな夜。
遊天は懐から布を取り出し、岬の額に当てる。
「……体、冷えてたんだな。気づいてやれなくて悪かった」
岬はうっすらと目を開け、微熱のせいか、ふだん言えない言葉をつぶやいた。
「……遊天がそばにいると、安心する……」
「……バカか。寝言は寝て言え」
そう言いながらも、遊天の手は震えていた。
「……守りたいって思ったの、久しぶりだ。お前のこと、ちゃんと見てたよ」
岬のまぶたが閉じて、深い眠りに落ちていく。
遊天は火を絶やさぬよう薪を足し、彼女のそばで静かに見守り続けた。
その瞳には、かつて失った「誰か」を重ねているような、切ない光が宿っていた。
その後
とある街への入国審査中、兵士が岬の名前を確認する。
「名前と出身は?」
「亜雷……岬です。出身は、遠くの山間の村で――」
兵士が一瞬眉をひそめた。
「“亜雷”……?」
その場は問題なく通過できたものの、遊天の中に引っかかるものが残る。
「お前の苗字……今なんて言った?」
「え? “あらい”だけど……なにか変?」
「……いや、ただの偶然かもしれない」
遊天はそれ以上言わず、しかし心の奥がざわついていた。