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5 エピソード①
道中、小さな交易の町「エルザリオ」に立ち寄った二人。
人々の賑わい、露店の掛け声、色とりどりの果物や布が並ぶ光景に、岬は思わず目を輝かせる。
「……すごい、まるでお祭りみたい」
「油断するな。こういう所こそ狙われやすい」
遊天の忠告を背に、岬は食料の調達を任された。しかし――
岬が手にした財布を、いつの間にかすり取られていた。
気づいたときには犯人の姿はなく、人混みの中で完全に見失っていた。
「……うそ、私……やっちゃった……」
動揺し、肩を震わせる岬。その腕を、後ろからぐっと引く手があった。
「ったく……ったくよ」
その声は冷たい怒りと、どこか安堵に満ちていた。
「誰が一人で動けって言った。言ったよな?気を抜くなって」
「ご、ごめん……!」
「財布だけならまだマシだ。次は命まで取られるぞ」
それでも、遊天は怒鳴らなかった。静かに岬の頭を撫でる。
「次は一緒に行く。……俺が守るから、勝手に背負おうとすんな」
岬はうなずく。
その夜、焚き火のそばで彼が黙って渡してきたのは、焼きたてのパンだった。