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4 小さな会話、そして寝床へ
焚き火が小さくはぜ、静寂が戻る。
岬はそっと遊天の方を見る。
「あなたの名前、聞いてもいい?」
「……遊天」
「遊天……か。私は岬」
寝床に横たわると、遊天が立ち上がる。
「俺は見張りする。お前は寝ろ」
「……うん」
しばらくの沈黙のあと、岬はポツリとつぶやいた。
「一人で寝るの、ここに来てから初めて」
「そっか」
「……今日は、ありがとう。おやすみ、遊天」
「……ああ」
彼は火のそばで膝を立て、空を仰いでいた。その瞳は、夜の空よりも深い影を落としている。
遊天は目を閉じ、背負ってきた過去の影を思い出していた。
捨てたはずの感情、閉じ込めたはずの家族、そして……
(……母さん)
ふと、焚き火の向こうで寝息が聞こえる。
無防備に眠る岬の姿が、どこか懐かしく、そして愛おしかった。
遊天は目をそらし、もう一度剣の柄に手をかける。
夜はまだ、明けない。