表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/43

27 王都での真の使命

王都での混乱が収束した後も、岬の胸の奥には拭えない痛みが残っていた。かつては何も知らずに笑っていた街の人々の視線が、今は警戒と猜疑の色を含んでいることに、彼女自身が最も敏感だった。


王宮の回廊を静かに歩いていた岬は、ふと立ち止まり、窓の外の庭を見下ろした。花が咲き、陽光が揺れている。けれど、あの日自分に向けられた恐怖の目と怒声が耳に残っていた。


「私は……ここに居ていいの?」


ぽつりと漏らしたその声を、背後から聞いていた者がいた。

「誰に許可をもらう必要がある? お前自身が、ここに立つと決めたんだろ」

振り返ると、そこに遊天がいた。以前よりも表情が柔らかい。けれど、その瞳の奥に宿る決意の火は変わっていなかった。


「俺は、あの時決めた。岬を守るって。……それがこの王都であっても、戦場であっても、関係ない」

岬は少しだけ目を伏せ、そっと唇を結んだ。

「ありがとう……遊天」

遊天の目が一瞬だけ揺れたが、何も言わず、その頭を優しく撫でた。


その頃、王宮の執務室では、レオンが重く沈んだ空気の中で書状に目を通していた。王族評議会からの通達――「亜雷族の者を王宮から排除すべき」という意見が、一部貴族から上がり始めている。


「岬の存在は、もう単なる一個人ではなく……この国の行く末に関わる存在だ」

そう呟いた彼に、忠臣の一人が問うた。

「それでも、殿下は彼女を傍に置かれるのですか?」

レオンは答えるのにしばらくの沈黙を要した。そして、強い意志をその瞳に灯して言った。

「俺は……岬を“守りたい”と願う以前に、彼女の“未来を共に見たい”と望んでしまった。たとえ、それがこの国を敵に回すことになっても……」

その決意は、やがて大きな決断へと繋がっていく。


――だがその裏で、ラヴィーナの策略は未だ終わっていなかった。


軟禁されたはずの彼女の部屋には、夜な夜な密使が出入りしていた。地下回廊を通じて繋がっていた旧貴族派との連絡線は、まだ完全には絶たれていなかったのだ。

「“王女”の影として、私はまだ動けるのよ。岬が消えれば、レオンは必ず私の元へ戻る……それが、彼の本来あるべき場所」

その呟きに、闇に溶けるような声が応えた。

「ご命令を。次は……確実に仕留めましょう」


次の標的、次の陰謀。


それは、岬を葬るだけでなく――レオンの“心”そのものを試す、最後の罠となる。

物語は、より深い影へと進み出す。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ