19/43
19 【二】レオン ―貴族の仮面の裏で―
王宮の書斎。
レオンは机に肘をつき、考え込んでいた。
蝋燭の揺れる灯火が、彼の揺れる心を映しているようだった。
岬の真っ直ぐな瞳。
あの夜、強く何かを決意したような目で、自分に向かって言った。
「父を探したい。自分の過去を知りたい。……ここに残りたい」
(……あの瞳に、嘘はなかった)
けれど、それを嬉しく思う心と、恐れてしまう心がある。
(私は……君を守りきれるだろうか)
岬が“亜雷”の娘であると知ってから、
彼女が背負うものの大きさに気づいてしまった。
(王家の血筋である私と、敵対関係にあった一族の娘――)
もしそれを他国の貴族に知られたら?
宮廷内の勢力争いに巻き込まれたら?
いや、そんなことより何より――
(私は……君を“ただの仲間”としては見られなくなっている)
岬の前では、冷静なふりをしてきた。
だが内心では、彼女の一挙手一投足に心を奪われている自分がいる。
(この想いは、君を守る強さになるか。それとも、弱さになるのか)
蝋燭がパチリと音を立てた。
揺れる炎の先に浮かぶのは――岬の横顔だった。