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18 【一】遊天 ―孤独の夜、抑えきれぬ想い―
王宮の廊下を抜けた先、見張りのいない小さな中庭。
冷たい石のベンチに、遊天は膝を立てて座り込んでいた。
右手には岬が落とした小さなハンカチ。
あの夜、月明かりの下で彼女が笑っていた姿が、今も脳裏に焼きついて離れない。
(あいつ……レオンと、ずっと話してたな)
苦い想いが胸を締めつける。
――妹かもしれない。
けれど、その事実はずっと曖昧なままだ。
「本当に血が繋がってるのか?」「それでも好きになってしまったら、どうすればいい?」
答えのない問いが胸を渦巻く。
「守りたいって、そう思っただけなのに」
呟いた声は、夜気にかき消された。
(あいつの笑顔を見るたびに、胸が痛む。
でもそれが“兄”としてのものじゃないことに……もう、とっくに気づいてた)
目を伏せ、額を膝に埋める。
弱さを見せられる相手なんていない。
ただ、そばにいたいという、それだけの願いが、
こんなにも苦しいのはどうしてだろうか。