13 絆と疑念の狭間で②
午後。市場で突如起こった騒動。
山賊の残党が暴れ出し、民衆の悲鳴が王都の空に響いた。
「岬、行け!」
遊天の声に、岬は剣を抜いた。
剣道で培った反射、間合い、そして――“恐れない心”。
「こっちに来ないで!」
斬撃一閃。
一人目を倒し、二人目の攻撃をかわす。
遊天も傍らで戦っていたが、岬の動きに目を見張る。
(強くなったな、お前……)
彼女が振るう剣の軌道は迷いがなく、まるで“生きるため”に戦っているようだった。
戦いが終わる頃、レオンも合流した。
「……お前、王国兵よりよほど役に立つな」
「そんな言い方、褒めてるの?」
岬が息を切らしながら笑うと、レオンは微かに唇を緩めた。
夜。
岬は疲労から熱を出し、寝台に伏していた。
遊天は水を絞り、冷たい布を彼女の額に乗せる。
じっと見つめるその顔には、言葉にできない思いが渦巻いていた。
(もし本当に……お前が、俺の妹だったら。俺は、どうすればいいんだ)
遊天は彼女の手をそっと握る。
「……まだ、俺の中で答えは出てねぇよ。でもな、岬。お前がつらい時、ひとりで泣く時、俺は――絶対、そばにいる」
熱にうなされながらも、岬は微かに唇を動かした。
「……ありがとう……」
その声に、遊天の心は揺れた。
翌朝。
岬は、心にある小さな答えを見つけていた。
「私は、“誰かの娘”とか“亜雷族”とか、そういうラベルじゃない。“私自身”を見つけるために、ここにいるんだ」
遊天はその言葉に息をのんだ。
彼女は確かに強くなっていた。
自分が“守ってやらなきゃ”と感じていた少女は、もう、自分の足で歩き出している。
(――ああ、もう。どこまで強くなってくんだよ、お前は)
遊天の胸に、言葉にならない思いが静かに芽吹いた。
そして、物語はさらに進む。
運命は岬に、遊天に、レオンに、試練を与えていく。
だがこの朝、彼らの間には確かに“絆”が生まれつつあった。
それはまだ、疑念と傷と迷いの中にある絆だったけれど――
確かに、誰かを信じたいと願う気持ちが、そこにあった。