表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/43

12 絆と疑念の狭間で①

王都の朝は、どこか冷たかった。

薄くかかった朝霧の向こうで、鐘の音が静かに鳴る。

けれど岬の胸の中には、その静けさとは裏腹にざわめくものがあった。

「……やっぱり、ここは私の“居場所”なんかじゃないのかもしれない」

ぽつりと呟いた声は、誰にも届かない。

剣道部で過ごしていた日々、家族と暮らしていた穏やかな時間。

すべてが遠い夢のようで、胸がきゅうっと締めつけられた。


その時、背後から聞こえた足音に、岬は振り返る。

「……そんな顔すんな。似合わねぇよ、岬」

声の主は遊天だった。

彼の顔にはいつもの不機嫌そうな影がなかった。代わりに、どこか戸惑いと葛藤が混じっていた。


「遊天……」

岬が目を伏せると、遊天は小さく息を吐いた。

「無理して強がんな。お前、いっつもそうだ。自分のことは後回しにして、全部抱え込む。俺、そういうの、見てるとムカつくんだよ」

「ムカつく、って……」

「だから……そばにいる。少なくとも、今は。お前が立ち止まる時は、俺が引っ張るから」


遊天の言葉は、不器用だけど真っ直ぐだった。

その真っ直ぐさが、岬の胸を強く打った。

「……ありがとう、遊天」

小さな声だった。でも確かな想いだった。

彼の優しさが、今は何よりも心にしみた。


そこへ、王子・レオンが姿を現した。

青い外套を纏い、どこか冷たい風を纏っているような存在感。

「……早朝から密談か。仲が良いようで何よりだな」


言葉は柔らかだが、その瞳の奥には微かに揺れるものがあった。

岬と遊天を交互に見つめながら、レオンは続けた。


「岬。お前がこの都に来てから、周囲が動き始めている。王国だけでなく、隣国、反亜雷派……。お前という存在が、彼らにとって“何か”を意味しているらしい」

「それって……私が“亜雷族”だから?」

「それだけではない」

レオンは静かに答えた。


「お前が“未来を変える可能性”そのものだからだ。……気づいていないかもしれないが、もう“普通の少女”ではいられない。それが現実だ」

岬は言葉を失った。

遊天が肩越しにレオンを睨んだ。


「脅しか? それとも忠告のつもりかよ、王子様」

「忠告だ。だが、お前のように“感情で動く男”には理解できんかもしれないな」

「……っ」

岬は慌ててふたりの間に立つ。


「やめて、お願い……!」

息をのむ静寂の中、レオンは少し視線を外して呟いた。


「……すまない、岬。君を脅すつもりはなかった。だが、君には知っておいてほしい。これから先、選び続ける覚悟が必要になると」

その言葉は、まるで自分自身にも言い聞かせているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ