11 影を抱く誓い
王宮の広間で、レオンは深く息をついた。
その蒼い瞳はどこか遠くを見据え、岬の目をじっと捉えた。
「亜雷 岬……お前の一族には、忌まわしい過去がある」
岬は黙ってうなずいた。
胸の奥にうずく痛みは、いつもあった。
「亜雷族はかつて、未来を予知し、王国の動きを読んでいた。だが、その力ゆえに恐れられ、狩られ、迫害された。お前の父――烈牙もまた、その血を引く者だ」
「……わかってる。父も私も、追われる身だって」
レオンは少し視線を下げて、小さな声で言った。
「だが、ただ狩るだけではない。王国の内部にも、亜雷族を利用しようとする勢力が蠢いている。彼らはお前の力を“道具”として使い、未来を自在に操ろうとしている」
岬の胸が締め付けられた。
その“利用”という言葉が、まるで自分の存在を否定されたように感じたからだ。
「私は……ただ、父を見つけて真実を知りたいだけなのに」
レオンはやわらかく微笑み、差し出した手をそっと伸ばす。
「お前の道を選べ。だが、王都での生活は決して楽ではない。誰が味方か、誰が敵か見極めなければならない」
その夜。王都の宮廷の華やかな宴が終わった後。
岬は薄暗い廊下で一人、声をかけられた。
「亜雷 岬さまですね。お会いできて光栄です」
細身の女性、ラヴィーナ・ヴァレンティナ。
冷たく研ぎ澄まされた美貌に、微かに鋭い光が宿っていた。
「……あなたが、レオン殿下の婚約者?」
岬の問いに、ラヴィーナは柔らかく微笑んだ。
「そうですわ。彼とは長い間、許嫁としての約束を交わしております」
「……」
ラヴィーナの瞳が冷たく光る。
「王都では、何もかもが表裏一体。親切な顔も、友の声も、すべては計算されているのですわ。お気をつけなさい、亜雷さま」
そう言い残し、静かに闇へと消えていった。
岬は心の中で、小さく震えた。
「この世界は……思ったよりもずっと、危険だ」
翌朝。薄曇りの空の下。
岬は王宮の庭園を歩きながら、はっきりと決意を固めていた。
「私は……父を見つける。未来を変えるために、ここに残る」
ぽつりと呟くその声には、かすかな強さが宿っていた。
その様子を遠くから見守る影があった。
遊天は腕を組み、沈んだ表情を浮かべている。
「ここで離れるべきか、そばにいるべきか……」
その揺れる心は、今も答えを探していた。
遊天は深く息をつき、遠い星空を見上げる。
「……俺は、あいつを守りたい。だけど、あいつの未来に俺が必要なのか……」
静かな闇の中で、彼の胸に宿った想いが静かに燃え始めていた。