表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

紅葉の中の千の焰の影

第一章 黎明と占い


薄霧が古びた紅葉の森を包み込むように立ち込め、空と大地の間には優しげな琥珀色の光が満ちている。黎明が訪れ、いくつかの金色の陽光が木々の間から差し込むと、深紅の葉の上に照らされ、微風に揺れ動く。落ちる紅葉はまるで雨のように舞い散り、森の小道を覆い尽くす。その光景は、まるで大地に広げられた絨毯のようだ。


その静かな景色の中に、一人の細長い影が山間の朽ちた神社の前に立っている。看板には「稲荷神社」と書かれているはずだが、すでに磨り減って見えなくなっており、あたりはどこか寂しげだ。彼は神社の古びた石段に立ち、目を伏せ、竹笛を手に取り、知らぬ曲を穏やかに吹いている。その笛の音は遠くまで響き、長く続き、どこかしらに哀愁と孤独が滲み出ている。まるで時に埋もれた物語を語りかけているかのようだ。


その人物は稲葉千影、九尾の狐妖であり、かつては稲荷神社を守護する「稲荷神」として奉られていた。彼の姿は細く、そして背筋が伸びている。黒い長髪は深紅の緞帯で束ねられており、朝の光の中で銀色に輝いている。琥珀色の目は湖のように静かであり、陽光の中で時折、金色の輝きを放つ。その足元には、ふわりとした狐の尾がわずかに見え、軽やかに揺れている。


千影の笛の音が突然止まる。紅葉が肩に落ちると、彼は顔を上げ、目線を重なる紅葉の向こう、森の奥深くへと向けた。そこは、もう二度と踏み入れたくない記憶の場所であり、彼の運命が絡みついている場所でもある。


「来たのか?」彼は低く呟く。声には穏やかさの中にわずかな抑えきれない感情が滲んでいた。


朝の空気はますます冷たくなり、千影は竹笛をしまい、軽く手を振って狐耳と狐尾を消すと、全身が占い師としての穏やかな姿へと戻った。朽ちた神社の前に背を向け、静かに立ち尽くす彼は、まるで誰か、もしくは何かの前触れを待っているかのようだった。


シーンが転換し、夕日が差し込む静かな庭に移る。ここは水無月家、陰陽師の家系が代々伝承してきた家族だ。庭には松や柏が植えられており、沈黙と厳粛さが漂っている。中央の石のテーブルには、一枚の占いの札が静かに置かれており、歪んだ符文が刻まれていて、何か不吉な気配を漂わせている。


石のテーブルの前にひざまずいている少女の名前は水無月茜、家族の中で最も若い陰陽師であり、わずか18歳で冷徹かつ果断なことで名を馳せている。茜の短髪は黒い墨のように濃く、耳の下で乱れなく垂れ下がっており、一対の朱紅色の瞳は鋭く、まるで人の心を突き刺すようだ。今、彼女は冷たく占いの札を見つめ、眉をわずかにひそめ、口元に冷ややかな笑みを浮かべている。


「九尾の狐妖……稲葉千影。」彼女はその名前を小さく呟く。声の中には言葉にし難い感情が込められている。


彼女の手がゆっくりと占いの札に触れると、符文が流れ出し、まるで紅葉の森の奥深くで琥珀色の目が彼女を静かに見つめているように感じられた。茜は拳を握りしめ、冷たい声で呟く。「それなら、この災厄の元凶……あそこにあるのか?」


彼女は立ち上がり、その姿はまるで鞘の中に抑えられた刀のように、鋭さを放っている。巫女の戦装が彼女の動きに合わせて微かに揺れ、銀白と淡紫の衣が彼女をより一層冷徹に見せる。腰に吊るされた短刀「宿命」がかすかな寒光を放ち、近づく血戦を予感させる。


水無月家の家主が庭の奥から歩み寄り、杖を握りしめながら茜を見つめる。「茜、今回の任務には全力を尽くせ。われわれの家族の代々伝わる務めは妖怪退治だ。九尾の狐妖……こんな存在は決して生かしておいてはいけない。」


茜は頭を下げ、敬意を表して答える。「分かりました、家主様。」


だが、彼女が振り返って去ろうとした瞬間、目の中に一瞬の迷いが浮かんだ。それは彼女自身も気づかぬうちに芽生えた不安だった。


「稲葉千影……九尾の狐妖……必ず私の手でお前の首を斬る。」茜は低く言い、腰に下げた短刀を握り締めた。彼女は認めたくなかった。彼女の声の中には、殺意のほかに何か言いようのない感情が混じっていた。


紅葉の森の風はますます冷たく、千影は神社の前に立ち、目を無感動に向けていた。彼は知っていた、誰かが近づいていることを。運命のような敵意を抱えて。そして遠くで、水無月茜が一歩一歩森へと向かっているのを感じていた。手に短刀を持ち、彼女自身の「正義」を携えて。


黎明が破曉を迎え、予言の幕が静かに開かれる。千影と茜、そして今、迫り来る危機が紅葉の森の中で交差し、運命の衝突を待っている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
何かの前夜という印象ですね。これから嵐が訪れるのでしょうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ