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眠れる森の公子

公子さんの夢の中のお話し。

「姉ちゃん、お腹すいた」


「はぁ?さっき食べたでしょ?」

 あれ?……あ、私……寝たのか……。


 この頃は、まさきもちっちゃくて可愛いかったのになぁ~。あっという間に、身長も、勉強も、恋愛偏差値も全部。抜かれちゃったんだよな……。


「姉ちゃんが作るの、量が少ないもん」


「作って貰えるだけありがたいと思え!」


「あいた!蹴らないでよ……。ねぇ~姉ちゃん」


「あ~、もう、わかったから!ほら、一緒にスーパー行くよ」

 私が小学3年生の頃の夢だ……。じいさんの話しを聞いて。思い出したか……。自分で起きられないのが、面倒なんだよな。


「やった!お菓子買ってもいい?」


「駄目。1週間分のお金なんだから……。これなくなったら、もうないの!」


「お父さんとお母さんに貰えば良いじゃん!……いって!だから、蹴らないでって……」


「お父さんもお母さんも、頑張ってお仕事してるんだから。迷惑かけちゃ駄目でしょ!お金は貰ってるんだから。ちゃんとしなくちゃ!」

 面倒な……。いつまで続くんだこれ……。


「知らないし。どうせ……お父さんとお母さんは僕たちより、仕事の方が大事なんだから。ちゃんとなんてしなくて…………!!!!!いたぁ~い!あぁ~ん……」


「誰の為に!私が遊びに行かないでいると!…………。はぁ……。もう。ほら、行くよ……。お菓子……。買ってもいいから……」

 幼稚園児相手に本気ビンタとは……。子供だねぇ、公子ちゃん。まぁ、子供だったんだけどさ……。


「うん……」


 まさよはまだ、生まれてないんだっけ……。あの娘は、普通に?育って本当によかった。


「お前が!家にいないのが悪いんだろ!浮気してるの知ってるんだからな!」


「あなたこそ!してるでしょ!お互い様よ!つまらない事で突っかからないで!」


 あ、時間が飛んだ……。この流れやだなぁ……。


 いつも。喧嘩しといて。私に金渡してパチンコ行くんだよ……この二人。まさきが人殴って怪我させたってのに……また自分達の事かい……。


「おい!まさき!何でだ!何で人を殴った!」

中学2年生……。正義の公子ちゃん。


 この頃にはもう、身長も、お勉強も完全に抜かれていたな。まさきめ!小学生のくせに見下ろしおってからに。憎たらしい……。


「は?そんなん、姉ちゃんに関係な……いってえなぁ!けんなよ!殺すぞチビ!」


「はぁ~!?先に殺す!」

 おいおい。公子ちゃんや、それは、可哀想過ぎるだろ~。中学生用のリコーダーって立派な凶器だよな……。痛そ……。


「いった!ちょっと!アブねぇって!姉ちゃん!いって!やめろってば!」


「いった!!!おい!お前!死んだぞ!ちょっと待ってろ!」

 大人と子供程の体格差なんだから。叩いたらそりゃ、弾き飛ばされるって。普通わかんだろ。公子ちゃんよ?


 はぁ……。黒歴史も黒歴史……。私の頭の悪さを再確認する夢の旅……。はよう終われ~。


「ね、姉ちゃん!?ごめんって!謝るから!包丁とその、ライターオイル置いて!ごめん!やめろって!何でオイル自分にかけてんだよ!?やめろって!火をつけんな!」


「私も死んで、お前を殺す!だから安心して死ね……」

 良くも悪くも……この頃の私は、本気だったんだよな……熱かった。メラメラと燃えてた……色んな物に対しての怒りで……ボロボロになるまで……ずっと……。まぁ、死んでから殺すじゃ。誰も殺せないんだけどね……。


「くっせぇ!髪の毛燃えてんじゃん!火傷も!何してんだよ!?」


「何してんだよ!?は!お前だ!人様を傷つけやがって!馬鹿が!何でだ!言え!」


「わかったから。殴るなって!もう……手から血が出てんじゃん……」


「お前が言わないからだ……お前のせいだ……。クソいてぇわ。馬鹿が!さっさと理由を言え、また燃えるぞ」

 いやいや、公子ちゃん。どういう脅し文句だよ……。また燃えるぞって。


「だから、動くなって……。。……アイツら……姉ちゃんを……馬鹿にしたんだ……。チビって……。姉ちゃんがチビなのは……。昔から俺に……お菓子とかご飯とか……わけてくれてたせいだろ?だから……」


「だから……。怒ってそいつらを殴ったのか……。馬鹿め……。そんなの関係ねぇわ馬鹿。しれっと、身長自慢すんな。馬鹿者め」


「そんなにバカバカ言うなよ。それに、こんな変な事すんなって……。俺、姉ちゃんがいなくなったら、どうしたらいいかわかんないよ……」


「馬鹿。私もわからん。もういいから、泣くな……泣き止め……。そして、私を馬鹿にしたそいつらのところに連れてけ。そいつら……。殺す」

 この後。バットと包丁を持って、チビ呼ばわりしたそいつらに報復にいって、盛大に泣かせたんだったな。それを見ながら、まさきも泣いてた。


 人の悪口を言うヤツには、正義執行。やるならとことん。やらねばいかんのだ。


 はぁ、懐かしい……。良くない思い出だ……。いい思い出なんて……ほとんど無いが……。あぁ~いかん……。時間が……飛ぶ……。もう、良いから起きろ私よ……。


「きみちゃん。ほら、差し入れ……。も~、部屋かたづけないと……」


「お前は、私の母親か?ご飯をおいたら帰れ!そして勝手に入って来るな!飯だけおいとけ!」

 あのアパートの部屋だ。鍵をかけないお家……。トイレに鍵がかからない素敵なマイハウス。そして……一番……。思い出したくない記憶……。


「酷いな……。いいだろ、友達なんだし。へっへっへ……」


「姑息に笑うな……。友達認定した覚えはない」


「あ~あ。昨日勝ったから、パチンコ玉と飯。奢ってあげようと思って来たのに……いいや。一人で行こうっと~」


「男がお茶目に、行こうっと~。とか、言うんじゃない。可愛くないし。そしてそれを先に言え。ちょっと着替えるから、待ってろ」


「ハハハ……ってか。きみちゃん。俺のこと男として見てなさすぎじゃない?うわ……ガリガリ……ぺったんこ……」


 「うるさいな。男として見て欲しいなら、もっと大人の色気をだせ。私みたいにな」

うっふーんのポーズしてるけど……公子ちゃん……。アンタ髪の毛ボサボサで……子供パンツやんか……。色気皆無やで……。


 20歳の頃の私……。恥ずかしい……。まぁ。子供パンツは、まとめ売りで安いから。今も履いてるけどね。


 「いや。捨てられた老犬みたいな身体して。良く言うぜ……危な!香水投げんなって……割れたらどうすんだよ」


 「お前に拭かせる」


 「はぁ……。ったく……。早く行こうぜ~。新台うまっちゃうから……」


 何が楽しくてコイツはいつも来るんだ……。そう、思ってたけどさ……。今ならわかるよ。りょうへい……。お前は私が好きだったんだな……。


 気が合うし。一緒にいても、エロい事を何ひとつしてこない。大人になってから出来た。友達。本当の友達。一生……どんな形でもコイツと一緒にいるんだろうな。と思ってた。


 りょうへいは、私がスナックのバイトをしていた時に、たまたま来た客だった。


 その時は、適当に話しをしただけだったが。後日。りょうへいとパチ屋でたまたま会って、話すようになった。


 「保留3個で、止め打ちしろ!」


 「えぇ~。めんどいじゃん……」


 「スイカをこぼすな!馬鹿!」


 「きみちゃん。揃えて~」


 私のマイホールに来てはいつも、私の隣に座った。そして……無駄に出した……。引きがおかしかったんだって……。おかしかった本当に……。可笑しかった。


 その内、食料を持って。りょうへいは家に遊びに来るようになった。


 「スナックで、金使うより、こっちの方がいいでしょ?」


 「まぁ、お前があそこで金使っても。私には入らんからな。賢いなお前。仕方ないから、差し入れ持ってきた時だけ、話ししてやる」


「ハハハ……きみちゃん、モテないでしょ?いった!本気で蹴るなって……マジでいてぇ……」


 りょうへいとは朝まで二人で飲んでいても。話しが全然。尽きなかった。


 昔の話し。今の話し。下らない話し。未来の話し。空想的な話し。夢の話し。パチンコの話し。色んな事を二人で朝まで話した。


 でも……セックスは一度もしなかった……。キスさえもしなかった。一度くらいはしておくべきだったと今は思う……。


 「きみちゃん結婚とか……しないの?」


 「なんだ、いきなり嫌味か……。お前。見ればわかんだろ?ガリガリで貧乏なパチンカス女を誰が嫁にするんだ?馬鹿め!張り倒すぞ!」


 「ハハハ……。それなら、俺がその内貰ってやるよ」


 「ぶっは!そうか!じゃ。30になってもお互いに独身だったら結婚するか!言っとくが家事全般、わたしに期待するなよ!だっはっはははは!」


 「ハハハハハッ……。その笑い方よ。部屋を見ればわかるわ。そうだ、今度ちょっと、大きな仕事があってさ。終わったら金入るんだ……。でさ、金入ったらさ……。一緒に旅行でも行かない?パチ旅行!」


 「おぉ、いいね~。ノリ打ちな!」


 「きみちゃん。そういっていつも負けんじゃん……いって!」


 「馬鹿者。小さな事を気にしたら負けだ!ほら。飲め!私のおごりだ!」


 「いや。俺が買って来たやつ……いって!叩きすぎだって……ったく……ハハハ……。……旅行……行こうね。約束な……」


「うん……。約束されてやる……。楽しみにしとくよ……くふふ……」


 毎日。くだらないやり取りをして、毎日。一緒に笑って……。毎日。楽しかった。あぁ、コイツとそのうち……結婚するのかなぁ?とか。毎日。思う様になった……。


『昨晩未明。飲み屋通りの一角で暴力団組員。青山 良平(23)が。血を流し。倒れているのが発見され。病院に運ばれましたがその後、死亡。組員同士のいざこざが原因の模様です』


 へぇ、アイツ……。青山って言うんだ……って思った。無機質な声で語られるソレで……。アイツの名字を、私は初めて知った。アイツも私の名字なんか、しらなかったんじゃないかな?


 アイツの名字を知るのは……。その内……。名字が変わる時でいいやって……。思ってた。


 アイツがやーさんをやってるのは……薄々、わかってた。年から年中。黒の長袖だった。


 真夏でも黒の長袖……。海や川に行っても黒の長袖……。いつも、汗びっしょりだった。夏はちょっと臭かったが、まぁ、いつも一緒にいたから……。自然と鼻がなれた。


 仕事はとび職って言ってたな。だけど、全然日焼けしてねぇし、冷蔵庫を運ぶだけで、全身筋肉痛になってた。


 そういやあの部屋の家電はほとんど、アイツが買ってくれたんだったな……。


 ごめん。りょうへい。お前が来なくなってからは、黒いお友達の遊び場になってるわ。


 アイツが私に色々と嘘をついてるのは、すぐにわかった。嘘つくと鼻が膨らむから。


 でも、そんな小さくて。だらない嘘は、どうでもよかった。一緒にいられれば、それでよかった……。旅行なんか行かなくても……よかったんだ。お前さえいてくれれば……


 そして、アイツは来なくなった。


 私のお腹がすいても。さみしくても。パチンコに行きたくても。悲しくても。スナックにバイトに行っても。泣いていていても。パチ屋に行っても。いくら名前を呼んでも。アイツの姿は、何処にも無かった。


 「だっは!心にぽっかり穴が空くって何だよ!な?りょう!」


 「きみちゃん!あれだ!パチンコで負けたときの気分じゃね?」


 「あぁ~!なるほどな。だっはっ!」


 「ハハ!だから。その笑い方よ」


 りょうへい……違ったぞ……。……パチンコで負ける。そんなもんじゃ無かった……。隙間風が凄いんだから……。スースーするんだ……。心の中心が……。どこでも……。いつでも……。いつまでもだ……。悔しくも、ムカつきもしないんだ。ないんだ。何かが……ないんだ……。足りないんだ……お前が……。


 …………はぁ……。いかん……。夢に感情が引っ張られる……。


 まぁ。この後。半年引き籠もって……。悲劇のヒロインを気取って。死のうとしたんだけどさ。使ったのが公子さん家の包丁だっていうんだから仕方がない……。超さびてて……。手首の皮膚が薄くしか切れんかった。


 流石に、二度目は出来なかった……。なので。開き直った……。死ねないなら、生きるしかねぇよな!って……。そして超泣いた。


 りょうへい……そっちのお前は22のままだろうが……。こっちの私は30になったぞ……。どうしてくれるんだ……。まったく……。夢枕に立って、姿くらい見せろ。大馬鹿者……。


 …………。はぁ……。もういいだろ。正義の公子ちゃん……。たつえさんの心を傷つけたのは、悪いと思ってるよ……。


 そして……。公子さんは、お前の思った様な。普通のカッコ良い大人にはなれなかったのも……。悪かったよ……。謝るから……。だからもう。許してくれよ……この夢は……。おしおきは……。正義執行は……。もう、やめてくれ……。


 あの時みたいに、心が……落ちそうになるんだ……。いい加減に私をたすけろよ……


 「りょうへい……」


 「うわ。びっくりした。誰?りょうへい?」


 「…………昔、飼ってた犬だ。飼い主を置いて消えた駄犬だ……。聞いたのは忘れろ……。てか、何で勉がいるんだ?」

なんだ?わざわざ、お見舞いに来たのか?お土産は?口の中が痛から、プリンがいいけど……まぁ、お菓子でもいいぞ。


 「でゅふ……。自転車持ってきたんだよ。もう忘れたの?」


 「わ、忘れてねぇわ。サンキューな……しかし……。お前のその……笑い方よ……」

いつ聞いても、おもしれぇんだよな……。なんだかもっと笑わせてやりたくなるじゃないか……。


本音と建前。自分の裏表。そして、過去と現在。ムズカシイw


公子さんがどういう人なのか、わかって貰えたら嬉しいですw


本当は何か適当な人がドタバタって感じで行こうと思ってたんですが。書いていたら。思った以上に愛着が湧いてしまいましたw


これからも公子さんをよろしくお願いします!


ブクマ:評価:コメントよろしくお願いします!

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