余計なことをしないで欲しい
キューと過ごす日々が楽しすぎるせいか、時間が過ぎるのが早い。気付けばオレは十九歳、キューは十八歳になった。
キューは美しい女に育った。まだ幼いところはあるけれど、そこもまた可愛らしい。
オレもすっかり大人になった。キューの隣に相応しい男になったと自賛している。
ただ、結婚適齢期になったせいでオレやキューに結婚やら婚約やらの話が舞い込むことが増えた。
全て断ってはいるが、オレを通さないでキューに釣書を寄越す奴は防ぎきれない。
『次やったら本気で怒るからね』
キューに直接ひ孫だかの釣書を寄越したジジイに短くて分かりやすい手紙を送る。
手紙というかもはやメモ書きレベルだけどあのジジイには伝わるだろう。
怒りに任せて余計なことを書かないためにも、このくらいの手紙でいい。
「さて、そろそろ準備も出来る頃だし」
指輪の準備と結婚式の準備の前段階は進んでいる。
指輪が出来たらキューに求婚して、結婚式の準備をいよいよ進めるのだ。
「その前に掻っ攫われると困るから、釘は刺しておこうか」
新しい側仕えの彼に、来られるだけの教徒を全員集めろと命じる。
彼には指輪の準備や結婚式の準備の前段階を任せてあるので、意中の人がいるのはバレている。
さすがに、妹として繋ぎ止めている相手とは知らないだろうけれど。
ちなみに、オレの新しい側仕えの彼とキューの新しいボディーガードの彼はこの国ではマイナーな兄妹愛有り派である。
ましてオレとキューは血の繋がりはないので嫌われることはないだろう。問題はオレとキューのやり取りを全て『てぇてぇ』とか思われているところだろうか。オレは別に困らないけど。
「天主様!お会いできて光栄です!」
寺の集会室に教徒を集め、これ以上の余計なお世話は不要だと釘を刺してから数日。
お布施をして寺の外からオレに会いに来たどこぞの商会の代表、そしてその娘がオレを見つめる。
その娘は随分と着飾っており、ああそういうことかと思う。
無理に結婚を勧めるのが無理なら、惚れさせてしまえばいいと思ったのだろう。それが出来ると思い上がるのもわかるくらいには、美しい娘だ。
だが、オレにはキューがいるから心を動かされることはない。本気で国も落とせるほど美しいキューと見比べてしまえば、到底敵わない程度の娘だ。
「ああ、よく来たね」
「とてもお会いしたかったのです…!お会い出来て光栄です!」
「うん、それは嬉しいな」
別に、目的は見え透いているがかなりの額のお布施ももらったことだし追い返したりお小言は言わない。
無理に結婚を勧めてこない限りは、優しい神の子でいてあげよう。
「ところでその…」
「うん?」
「このドレス、似合いますか?」
おそらく今日のために新調しただろうそれを嬉しそうに見せる娘に、なんと声をかけようか迷ったが正直に答える。
「ああ、とても可愛いよ。よく似合っている」
「まあ!」
「まるで花の妖精のようだね。クリンゲと言ったかな…君はとても美しい」
「ふふ、嬉しいです!」
「ああ。君以上に美しい娘など、キュー以外には知らないな」
おっと、正直に言い過ぎたかな。
オレの反応に勝手な手応えを得ていた二人が固まっている。
「ただ、申し訳ないけれどオレは君に恋愛感情は抱けないと思うな。ごめんね」
「それは…何故…」
「ふふ、どうしてだろうね」
「まさか、キューケン…様のために?」
「さあ、どうかな」
側仕えの彼に目配せする。
すると彼は二人を追い出しにかかる。
「申し訳ありません。他の教徒もいますので今回はお引き取り願います」
「…」
二人は大人しく退室する。
しかし、父親の方は退室した瞬間から娘を怒鳴り始めた。
いや、聞こえてるんだけど。
仕方なしにオレも少しだけ部屋を出て、父親の方に注意する。
「こらこら、娘は大切にしないといけないよ」
「っ…すみませんでした」
わかっているのかいないのか、娘を置いて歩き出す父親。
娘の方は泣きそうな顔で父親の後を追う。
「…まぁ、必要な時は頼っておいで」
娘の方にだけ聞こえる程度の声量で一応声をかける。
あの娘、おそらく父親に利用されることが存在意義とでも思わされているのだろう。
憐れには思うが、キューとの幸せな結婚を邪魔されたくないので許してほしい。




