押し付けがましいらしい
「可哀想に」
キューケンという娘を夢の世界に連れてきた。
ゴッドリープは…あの子はこのキューケンという子にご執心だ。
そして、この歳で刺青を入れてしまった。
キューケンはもうあの子から離れられない。
それを憐れんで、解放してやるためにここに連れてきた。幸い、あの子と違って夢の世界との親和性が高いようで簡単に連れてこれた。
「ムーンリット、告げておいた通りキューケンをここに連れてきたよ。でも、良い子にできるよね?」
「…」
こくりと頷くムーンリットに満足する。
ムーンリットはここに連れてきて僕の世話をさせてから、ずっとずっと反省して健気に罪滅ぼししている。
きっと大丈夫だろう。
そんな悪さをする子ではなくなった。
本来ならもう親元に返してやりたいが、まだ早すぎる。あの子がムーンリットへの矛を収めるまではここにいさせないといけない。
「さて、いつ目を覚ますかな」
キューケンの目覚めを待つ。
すると声が聞こえた。
『ムーンリット様と…お狐様?』
涼しげな声が戸惑いを伴って響く。
お狐様、か。
神様とは呼ばないんだね。
ともかく、話をしなければ。
『ムーンリット、少し席を外しておくれ』
『…』
ムーンリットは大人しく頭を下げ出て行く。
キューケンにも頭を下げていた。
ムーンリットも成長したなぁ。
「すまないね。彼女には声が出ないよう術を掛けているから」と代わりに謝るが「いえ…」と短く返された。
キューケンはとても優しい子のようだ。
『でも、どうしてキューはここに?』
そんなごもっともなことを聞かれて「僕が連れてきたんだ。ちょっと、あの子に聞かれたくない話があって」と答えると「ここで話しても結局は、キューが兄様に言ってしまいますよ」と言われた。
素直だなぁと笑う。
そんな風にあの子を真っ直ぐに好いてくれるなんて、嬉しいな。
しかし次には辛辣な言葉をもらった。
『…そうだ。キュー、お狐様に一言言いたかったの』
『兄様を愛してるなら、もっと大事にして』
てっきりお狐様は神ではなく妖だろうと指摘されるのかと思ったのだけど違ったみたいだ。
それにしても、最大限大事にしてるつもりなんだがなぁ。
僕は色々言い訳するが「兄様はそれを望んでなかった。兄様を大事に思うなら、本人の意思をまず尊重して」と言われてしまった。
きょとんとしてしまう。
『本人の意思を…?』
『コミュニケーションの一番初歩だよ?』
僕は頭を抱える。
今まで与えるばかりが僕の存在意義だったから、それで喜んでもらえると思っていたのだけど…。
「兄様お狐様のこと嫌いだよ」とまで言われる。
ショック!
結構尽くしていたつもりなのだけど。
『…ぐぅっ。嫌われてたなんて。ちょっとした反抗期かなと思っていたのに』
『これから気をつけて』
言いたいことは理解したので、これからは気をつけよう。
けれど、まだ放置できない問題がある。
僕が「君の言いたいことはわかったよ。ただ、僕としてはもう一回余計なお世話をしなければならない」といえば、やっぱりわかってないじゃん、という目を向けられる。
だが君のために必要なことだ。
『ねえ、君は自覚しているの?その刺青がなにか』
『兄様との約束の証』
なるほどそういう認識か。
番の証であることは、ショックを受けるかもしれないから黙っておこう。
『…それは君を縛り付けるものだ。それがある限り君はあの子から離れられない』
『それがどうしたの?そのための約束の証でしょう?』
『いつか君が自立して自由になりたいと願っても、それがある限り許されないんだよ』
『そんなこと願わない。兄様の側がキューの幸せ』
それはまだ君が幼いからそう思うだけだ。
「酷なことを言うようだが、離れるならなるべく早く離れたほうがいい」と言っても、キューケンは「キューは兄様から離れたりしない」と言う。
そう言ってくれるのは、あの子のことを思うと有難い。
けれどそれでは君の人生にも影響する。
『僕なら君にたくさんのお金と食料を持たせて、逃がしてあげられるよ』
『そんなこと頼んでない』
『その刺青も、今この瞬間消してあげられる』
『!』
キューケンが急いで小指を隠す。
差し出してくれたらすぐにでも消せるのに。
『だめ!これは兄様との約束の証なの!』
『いいの!やだ!やめて!消さないで!』
どうしようかなぁとは思ったものの。
彼女のあまりの剣幕に、ここは一旦引くことにする。
『…わかった。君のそれは君が望むまでは消さない』
『一生望まない』
『わからないよ。それの意味を知ったら、逃げたくなるんじゃないかな』
その前に逃がしてやりたいのだけど。
あの子を嫌いになる前に。
そう思っていたらさらに辛辣な言葉をもらった。
『…キューもお狐様のこと、嫌いになりそう』
『善意だとしても押し付けがましいの!!!』
押し付けがましい?
僕が?
そう言われるとやっぱりショックだ…。
そこで、キューケンが眠気を感じたらしい。
そろそろ夢の世界に留まるのも限界かな。
『目を閉じてごらん』
夢ではなく現実の世界に彼女を戻す。
どうかこれ以上あの子に嫌われないようにと願いつつ、ムーンリットを部屋に呼び戻したのが先ほどのこと。
今はムーンリットが落ち込んだ僕をブラッシングして慰めてくれている。
ムーンリットもすっかりと素直で優しい子になったものだなと微笑ましくなる。
ここにきてから、ムーンリットは本当に変わった。
「ムーンリットは良い子だね」
「…」
「けれどまだ帰してはあげられないんだ。ご両親に会えなくて寂しいだろうけれど、ごめんね」
「…」
「良い子だね」
ムーンリットがせめて今だけでもさみしくないようにと、僕の九尾でふわりとその身を抱きしめた。




