嵐のような女の子
嵐のような女の子が来た。
嵐のように去っていった。
「あの、キューケン様。大丈夫ですか?」
「うん、キューは大丈夫」
兄様から話は聞いていた。
ムーンリット。
子爵家の娘。
昔兄様が、何かの縁で助けたことがあるとかなんとか。
詳しいことはぼかされて話されたからわからないけれど。
「あまりお気になさらぬよう」
「うん、わかってる」
むしろ、憐れなのはあの子だろう。
兄様は、毎月かなりの額のお布施をして会いに来てくれる大事な教徒だと言っていたけど。
それって要は、金蔓ってことだ。
まあ、優しい兄様にそのつもりは当然ないだろう。
でもパラディース教という組織を守るための手段となっているのは否めない。
「…可哀想」
「?…キューケン様?何かおっしゃいましたか?」
「ううん、なんでもない。さっきのムーンリット様とのこと、兄様には内緒ね」
「…キューケン様のお望みとあらば」
金蔓と化してもそれに気付かず、恋をした相手にはそこまで特別扱いも受けず。
ぽっと出の私みたいな女が特別扱いされていれば、それは面白くないと思う。
気持ちはよくわかる。
それに。
確かに彼女の言う通り、幼女の皮を被ることに夢中で兄様への礼節は欠いていたかも?
「兄様の前でだけでも、ちゃんとしようかな」
ひとりごちて、小さな決意を胸に部屋に戻る。
兄様は先に私の部屋で待っていた。
「キュー、遅かったね。どうしたの?」
「いえ、なんでもありません」
兄様に敬語を使うと、その場の空気が凍った。
「え、キュー?」
「…」
「…」
「はい、なんでしょうか」
兄様は困惑して、兄様にいつも付き従う教徒は黙ったまま目を見開き、私が境内に出る時には部屋に戻るまで側にいるいつもの人は困った顔で黙りこくる。
「えっと…なんで敬語?」
「兄様への敬意です」
兄様は俯き黙る。
教徒二人はそれを見守る。
私は兄様の反応を待つ。
兄様はやがて顔を上げ、困った顔をして私を見た。
「キュー、違うよ」
「えっと、でも」
「そうじゃないよ」
どうやら敬語は兄様のお気に召さないらしい。
大人しくキューケンちゃんとして、幼女の皮を被る喋り方に戻した。
「うん。兄様、困らせてごめんね」
「いいんだよ。でも、そのままのキューが好きだな」
「キュー、変だった?」
「うん、変だった」
ぎゅっと兄様が私を抱きしめる。
どうやら兄様は、幼い喋り方の私を思いの外気に入っていたらしい。
…下手に素を出さないよう気をつけよう。




