妹の気遣いに思うのは
「…兄様、自分のことも大切にしてね」
小さな呟きは、たしかにオレの耳に届いた。
けれど振り返ることはしない。
別に、自分を蔑ろにするつもりはない。
けれど、我がパラディース教の教徒たちは生きることにすら必死な者が多い。
特に総本山にいる者は生活に困窮している。
「…気遣ってくれてありがとうね、キュー。でも、ごめんね」
部屋を出てしばらく。
キューに絶対聞こえないところでの謝罪に意味などないことはわかっている。
気遣ってくれるのは嬉しい。
神の子と崇められて、縋られ与えるだけのオレがまるで人の子のように気遣われること自体初めてと言っていいだろう。
…けれど、憐れな教徒たちから目をそらすことはできない。ならば教徒たちに寄り添う他ない。
「それが、己の気力を削がれる行為だとしても」
ただ、悩みを聞いてやり一緒に涙を流してやるだけ。
けれどオレは、その度に胸が痛み苦しくなる。
それはたしかにある意味では自傷行為みたいなモノではある。
だから。
初めてオレに人の子のような気遣いをくれたあの子に。
「ごめんね…」
オレは謝罪しかできないのだ。
「ゴッドリープ様…復讐は罪なのでしょうか…!我が妻を、子を、奪った者に…鉄槌を下したいと思うのは罪なのでしょうか…!!!」
「…ああ、可哀想に」
今日もオレは、彼ら教徒の悩みを聞く。
そして、一緒に涙を流す。
オレの涙に、その教徒は何を感じたのかぐっと息を飲んだ。
「苦しかったね、辛かったね…憎いよね…」
オレの胸は痛むばかり。
涙が溢れて止まらない。
そんなオレに、その教徒は縋り付いて泣いた。
「ぅ、うう…うわぁあああ!」
「良いんだよ、たくさん泣いていいんだ。苦しいね、良いんだよ。オレが全部許すから」
幼い子供に縋り付いて泣く、愚かで弱い大人。
けれど、そうなるに至ったのは他でもない。
理不尽な現実。
残酷な世界。
そんなものがあるからに他ならない。
「君は何も悪くない。間違えているのは、きっと世界の方だ」
優しく、愚かな大人の頭を撫でてやる。
苦しかったろう。
辛かったろう。
胸の中は、今にも全てを壊したい気持ちで溢れかえっているだろう。
その破壊衝動に耐えているだけ、まだまともだよ。
「だからね、いいんだよ」
オレはただ、共に涙を流して許しを与えるだけ。
その後どう転ぶかは、彼次第。
なんて、無責任なんだろう。
それでも。
一時でも痛みを取り除いてあげたいと思うのは罪だろうか。
「オレが、全部許すからね」
…オレに許しを与えてくれるのは、誰なんだろう。
なんて、ね。




