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第三話 帝国軍侵攻

「そうですか。それなら死ぬほど後悔させて差し上げますがよろしいですね?」


 これは最終警告であったのだが、セイラの言葉に嗜虐心が刺激された男たちは止まらない。このクソ生意気な聖女をめちゃくちゃに蹂躙して屈服させたいという黒い欲望に満たされてゆく。


「まずは逃げられないように女どもを一か所に集めるんだ。やれっ!!」


 大臣の命令で兵士たちが一斉に動き出す。



「準備は良いですか、ラナ?」


 セイラは側に控える侍女に声をかける。


「はい、セイラさま。いつでも大丈夫です」


 

 その返事を合図にセイラがついに魔法を発動する。



 ――――神聖魔法セイテンカン



 まばゆい光が神殿を包み込み大臣たちの視界を奪う。


「くっ……怯むな、こんなもの目くらましにすぎん!」


 数秒後、徐々に視界が戻って来た大臣はそう叫ぶが――――



 何かが……おかしいと気付く。



 やけに自分の声が高く聞こえるし、身につけた装備が重くて支えられない。


「な、なんだ……これは!?」


 そうつぶやく声は、明らかに()()のもの。鍛え上げた筋肉質の腕は見る影もなく節くれだった指は折れそうなほど細く頼りない。


「あら、思ったよりも可愛いじゃないですか。良かったですね、大臣」


 セイラの言葉に、大臣は自分が()()()()()()()()ことを悟る。


「な、ななな何を、私の身体に何をしたっ!?」

「ふふ、そんな可愛らしい声で凄んでも怖くないですわよ?」


 余裕の笑みを浮かべるセイラ。


「くっ、何をしているんだお前ら、早くこいつを捕えて元に戻すように締め上げるんだ」


 そういって振り返った大臣は目を疑う。


「無理です……重くて動けません」


 百名の私兵全員、女性になっていたのだ。体格が小さくなった上に、重武装がアダとなり、身動きが取れなくなっている。


「良い光景ね。それじゃあラナ……いいえ、ラインハルト、裏切り者を取り押さえなさい!」


「はっ!! 全員捕えろ、抵抗するなら容赦はしなくていい」


 突然現れた近衛騎士団になすすべもなく捕縛される大臣と私兵たち。


「そんな……なぜ近衛騎士団がこんなところに……逃げたんじゃなかったのか……」


 項垂れる大臣にラインハルトが告げる。


「まったく……これだから余所者は。聖女の力は性別を自在に操る神の奇跡。我々近衛騎士団は、男子禁制の神殿では女性となって警護しているのですよ、大臣」


 かつて異世界より舞い降りたとされる伝説の女性。その力は性別を自在に操るものだった。その力を用いて世界を救い安定化させたその女性は『性女』と呼ばれて畏れられていたのだが、長い年月を経てゆく過程で、いつしか『聖女』となった。


 アラバスタという国は、大陸各国をまとめる象徴的な存在であり、自国民という概念が弱い。そのため大臣のような要職であっても優秀であれば他国出身の人間が務めることも珍しくない。


 大臣も噂程度は聞いていたが、そんなおとぎ話のような話を本気で信じられるわけがない。


 だが正規軍を持たないアラバスタがなぜ数千年間独立を保つことが出来たのか?


 その本質部分をもう一歩踏み込んで考えることが出来ていれば、皇帝に対して侵略をやめるように提言出来たかもしれない。今となっては全てが手遅れなわけだが。




「ふふふ、今頃大臣が聖女を確保している頃であろうな。ありもしない神話にすがって生き永らえてきた時代遅れな過去の遺物はこの俺が一掃してみせる。ふはははは」 


 ヤバンナ帝国初代皇帝ストームブレイカーは機嫌よく笑う。


 実際、皇帝から見れば、この中原は理解しがたいほど古臭く、聖女とかいう女一人に現を抜かして思考停止しているようにしか思えなかった。


 ならば、その聖女さえ押さえてしまえば戦うことなく中原、つまりこの大陸の覇者となることが出来るではないかという結論に辿り着いたのだ。


 なぜそんな簡単なことを誰もやらないのか? 


「やはり宗教は毒だな」


 皇帝はそう結論付ける。良薬も過ぎれば毒となる。


 こうして集団幻想に陥っている間は夢を見られるかもしれないが、俺のような存在が外部から現れた瞬間に夢から醒めて苦い現実を知ることになる。


 清い水も変化が無ければやがて淀み、腐る。皇帝はそのことをよく知っていた。



「まもなく聖都ですが、軍を分けますか?」


「いや、全軍で進むぞ。抵抗しようという意思を奪うためにも……な」


 アラバスタに正規軍が存在しないことは当然知ってはいるが、信仰の篤い信者というのは厄介だ。下手に刺激してゲリラ的に抵抗されても面倒であるし、お見合いに来ている各国の要人のことを考えれば、無血開城が好ましいのは言うまでもない。


 もはや勝利は揺るぎない以上、いかに勝つか。皇帝はすでにその先を見据えて行動していた。


 帝国軍五万は、これ見よがしに武器を高く掲げ、地響きのような大声を上げながら行軍する。


 この威容を見てもなお挑んでくる者は余程の愚か者か自殺志願者だけだろう。


 皇帝以下帝国軍の誰しもがそう思っていたのだが――――




「どうやらアラバスタは開門しないつもりのようですね……」


 斥候の報告にいぶかしむ皇帝。


「まさか徹底抗戦するつもりなのか? 敵の兵力は?」


「概算ですが、およそ三万、しかし……ほぼ全員……非戦闘員、若い女性です」


 三万のうち、近衛騎士団百名を除けば、後は神官や宮仕えの女官ばかり。いわゆる鍛えられた女性兵士ではない。


「なるほど……交渉に持ち込もうということか。どうやら大臣のヤツ、失敗したようだな」


 皇帝はアラバスタ、聖女の評価を一段上げる。


 相手は非戦闘員ばかり。そんな相手を武力でねじ伏せるようなこ真似をすれば、帝国の風評は地に落ちる。


「祭り上げられているだけの人形……というわけではなさそうだ。俄然聖女とやらに興味が湧いてきたぞ。利用するつもりだったが、場合によっては側室にしても良いかもしれん」


 噂では当代の聖女は大変美しいとも聞こえている。


 皇帝は残忍で冷酷ではあるが、一方で才あるものに対しては評価を惜しまない。帝国がこの短期間でここまで成長出来たのも、優秀な人材を余すところなく用いているからに他ならない。


 皇帝の頭の中には、すでに失敗した大臣のことなど無く、今後の交渉をどうするかですでに一杯になっていた。



「へ、陛下っ!? 大変です、敵軍、打って出ました」

「なにっ!? 馬鹿な……どういうつもりだ?」


 完全に交渉に入るつもりで休憩していた帝国軍は大いに浮足立つ。攻めてきた以上、迎え撃たなければならないが、相手はか弱い女集団、兵士ですらない。防具はもちろん、武器すら持っていないのだ。


「……ちっ、武器は使うな、なるべく怪我をさせないように捕らえるんだ!!」


 皇帝の命に従い、帝国軍は武器を持たずに出陣する。


 それでも屈強な帝国兵士五万と剣など持ったこともないような女性三万では勝負にすらならない。


 どういうつもりだか知らないが厄介なことになったな、と皇帝も自軍をけん制するため先陣を切って進む。万一兵士どもが暴走して凌辱を始めてしまったら面倒どころの話ではないからだ。


 

 あと少しで両軍が衝突する――――というタイミングで、


 

 ――――戦場は光に包まれた。

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