9~詐欺師、緊張する~
9~詐欺師、緊張する~
「みぃつけた!」
不気味な声が脳内に響いた。
(なんだ?今のは・・・)
周りを見渡すが何もいない。ハーピィーの村にある貸してもらっている家(木をくりぬいた穴といった方が正解な気もする)の中には誰もいない。
少し不安な気持ちにもなったが、気にしてても仕方ないので、ダウンジャケットを着て外へ出ると、エルフのエイラがそこに立っていた。
「どうしましたか?僕に何か用でも?」
「シャドウ!忘れたの?今日はお母様に会う約束でしょ!遅いから迎えに来たのよ。早く行きましょう!」
(お母様?なんの事だ・・・確か今日は)
「ええと、確認しておきたいんですが、お母様というのは・・・」
「ええ、お母様はエルフの女王よ!さっさと行きましょう!急いで!!」
(こいつ女王の娘だったのかよ。リリの時もそうだったけど重要な情報を言わないのがこの世界でのお決まりなのか?面倒な事にならないといいが・・・)
「そ、それは初耳ですよ汗 びっくりしました。ところでここから女王様のいる都市まではどうやって行くんですか?」
「ああ、その事なんだけどね・・・」
「私がシャドウに付いて行くわ♪」
急にリリが飛んできてそう言った。エイラが舌打ちをした気がしたが、きっと気のせいだろう・・・
「鳥女・・・あなたはついてこなくてもいいって昨日何度も伝えましたよね?私が風魔法をシャドウにかければ忙しいあなたにご足労頂く必要はまったくないわ!」
「それには及ばないわ!シャドウは私が責任持って運ぶから安心してね♪」
(こいつら仲悪いな・・・昨日はあの場から逃げて正解だったみたいだ。それにしてもさっきの声はエイラだったのかな・・・)
「さ!行くわよ!ついて来なさい!エルフ!」
「勝手に仕切らないでください。それに私の名前はエイラです!」
(はぁ~この二人と一緒にエルフの王女に会うのやだなぁ・・・)
俺はまたもや35歳にもなっておそらく年下であろう女子にお姫様抱っこされるという屈辱に耐えつつも、エルフの女王のもとに向かったのだった。
~8時間後~
かなり遠かった。リリが時速100km近い速度で休まずに飛ばしたのにも関らずだ。というかこの鳥スタミナお化けかよ。エイラも俺とリリがくっつきすぎだと文句を言い続けてはいたが、何の支障もなさそうに付いて来ていた。お姫様だっこされているだけだったはずの俺は同じ姿勢をとっていたせいで腰と肩と背中がつりそうだ。
ちなみに元の世界からの装備で時計(自動巻き)をしている為、8時間というのは正確なはずなのだが、この世界では1日が30時間くらいだ。なので、もはやこの24時間システムの時計の日付部分は役に立っていない。俺が48回ローンで無理して買ったオーデマピグ・・・でも気に入ってるので装備したままなのだ。
森を草原(聖域という名の小麦畑)とは逆方向に進んだ所に山岳地帯があり、そこを抜けた所に大きな湖、その湖を取り囲む様に広がる森林があり、その中心地帯に城みたいな建物(木造だろう)が見えた。建物全体がツルに覆われている。正面に巨大な赤い扉が見える。
「さぁここが私の家!どうぞシャドウ」
そういってエイラが巨大な赤い扉を開いて案内してくれる。
(俺じゃこの扉動かせられないぞ。この女どんだけの怪力の持ち主だ。触られただけで骨をへし折られてしまうんじゃないか?)
数トンはありそうなその巨大な扉を軽々しく開けたエイラを見てそんな事を考えていると扉の先にはまさにレッドカーペットとも呼べそうな豪華な布が中央へ伸びている。武装したエルフが数名が近衛として控えており、置くには玉座。そこには一人のエルフが王にふさわしい振る舞いで仰々しく座っていた。
緑色のロングヘアー。金色の豪華なドレス。七色に輝く宝石が装飾された杖。そしていかにも高そうな王冠。
「ウル・エルレ・フォン・エルフェン女王様。この度のゴブリン、オーガの排除に貢献したヒューマンの遮道なる者をここに。」
「うむ。もっと近こう寄れ。顔が見えぬ。」
「その者、前で出よ」
俺は緊張したフリをしつつ、前で出てひざまづいた。
「じょ、女王様。お、お招き頂き感謝します。」
詐欺師の手口:お偉いさんの前で横柄な態度は決して取ってはならない。権力者は弱者が大好き!
「ほう。いい顔をしている。娘を任せるぞ。此度は大儀であった。今宵は晩餐会を催しているゆえ楽しんでいかれよ。」
「は、はい・・・はい?」
「どうした?何か問題でもあったか?」
「い、いえいえいえ。全然全然全然。め、滅相もございません。か、感謝致します。」
「では後ほどゆっくりと語らおうとしよう。それまでは旅路を癒されよ。」
エルフの女王は笑みを浮かべて去って行った。
(娘を任せるってどういう意味だ?まあ、もう考えて無駄なことは後回しだ。それにしてもエルフは長命だってリリが言ってたがあの女王は何歳くらいなんだろう。見た目だけで言ったら正直エイラと変わらないそれにかなり巨乳だったぞ。エイラは正直Cカップくらい。俺の好みではまったく無いのだ。俺の個人的価値観ではFカップ以下に人権を与えていない。もちろん巨乳だからと言っても虫を踊り食いする生物が対象外なのは変わらない。)
遮道はこの後の晩餐会をだるいなと思いつつ、そんなしょうもない事に思いふけっていた。