表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/35

三十一話【駅ビルにて】

 辺りは騒がしい。

 人工物に囲まれた人工物(えきびる)の入り口で立つ男男(ふたり)。人々は交錯しあい、欺瞞と欲と苦悩に紛れた空気だけが蔓延し、世の中を謳歌する。

 この辺りで、何十人も溺死する怪奇事件があったとは思えない賑わい様。


 その中に俺も立っていた。

 ただ、呆然と混乱しながら。


「え、はい? 俺が学校内で話題になってるって。一体全体そりゃ、どういう風の吹き回しだよ」

 前にも似たようなコトを聞いた事がある気がする。


 それに、話題になるとしても『告白大胆ヤロウ』という語句と共に? 非常に最悪だが。それは─────なんとなく、身に覚えがあることだった。

 なんせ今日は学校で(みお)……いいや、(れい)先輩を無理矢理屋上に連れ立った挙句、二人で学校を抜け出したのだから。


 そんなのを目撃したら、他生徒に話すこと間違いなしだろう。俺も、そんな現場を目撃したら少しぐらいでも噂話として友達との会話のネタにすると思う。

 だから、それは当たり前といえば当たり前の話。


 青髪に筋肉質、俺の幼馴染でもあり、この事実を告げた学は言う。


「……その眼光()を見る限り、どうやら身に覚えはあるて感じか」

「─────?」

「ワタル自身は気付いてないのかもしれないが、お前はだな。思ってる事とか感情が表情に出やすい性格なんだよなぁ」


 目の前にいる彼は腕を組んで嘆息を漏らした。なんとなく自覚はしていたが、これほどまでにきっぱりと言われた事は始めてだ。きちんと心に留めておこう。

 それと同時に。


「まぁ、それぐらいは分かってるさ。……そうだな。確かに俺には身に覚えはあるが、それほど大事になるとかは思っていなかったから、驚きがな」

「ふむ。そうか……ま、残念ながら俺にはそういう話はめっぽうゴメンだ。俺からしたら人の恋心とか、分かったもんじゃないからな」


 学はこくんと独り合点に頷く。


「だから追求しないでおいてやる。感謝しろ。この無関心神(ゴット・マナブ)にな」

「あ、ああ……感謝する」

「ん? 今のはツッコミが欲しかったんだが……」

「は?」


 学の厨二的言葉を無視すると、ぶつり。そう呟かれてしまった。

 どうやら、学も普通の厨二病ではない様子。俺にはそこら辺は、よく分からない……というか理解出来ないが。多分、そうだ。

 きっとな。


 だがふと親友の表情を伺うと。彼の双眸は点。

 まるで渦、まるで台風、まるで筆の先。


「どうした、学。目を丸くしちゃって、お前らしくないな」


 心なしか、ちょっと緊張が走った予感。否、その現実の先。目が眩む様な倦怠感、彼が奏でる、放つ言葉は一体なんなのか。

 コチラ側からの問いに答える様に、彼の口はスローモーションに揺れ歪んだ。


「─────いや。ワタル、お前……剣道部でも入ってたか?」


 そして。その唐突な返しに困惑した。

 ……俺が剣道部だと? 何を言っているんだろうか、コイツは。思わずそう言いたくなる程に。質問に返ってきた質問。

 いやいや、俺はどこからどう見ても『帰宅部』だ。


 剣道部。その語句はどこから出てきたのか。


「え、俺は普通に帰宅部のままなんだけど……。それに俺は剣道みたいな真面目精神なモンとは全く縁が遠いだろ? お前とゲームとかした時もさ”正々堂々”俺が戦った事あるか?」

「それはそうだが……。じゃあだ。なんでお前は今、竹刀みたいなモンを背負ってる?」

「─────」


 そして。その質問の意味を。理解。した。


 ああ、そういうコトかと。

 急に剣道部なんて言葉が出てきたからどういう事だと困惑したが。……俺が袋に入れて背負っているこの”日本刀”のヤツが、剣道部などで使う竹刀袋に見えたというワケ。


 さて、それを理解したのはいいんだが。

 果たして─────どう答えるのが、正解なんだ⁉


「む。どうしたワタル、辛そうな感じが表情に出てるが」

「うぐ……いや、だな。ちょっと待ってくれ、考えるから」

「考える……って、はぁ」


 答えるべき言葉。その真髄を、─────先へ。

 ”肯定。まぁ実のところはだな、さっきはそんな事を言ったが。剣道に興味を持ち始めててさ。剣道部に入部しようと思って、体験として竹刀を貸してもらおうと、部員から受け取りにきてだな。今はその帰りなんだ”

 ”否定。これは遊び道具だよ、俺たちはそういう年頃だろ”

 ”─────あやふや。えーーとさ、話変えようぜ”


 またや。

 ”事実? これは内緒の話なんだが。実はこの中に入ってるのは竹刀なんかじゃなくて、日本刀なんだよ。─────ああ、そうさ。お前にはこの意味が理解できるだろう? 勇者マナブよ。俺はこの町で起きている怪奇事件を止めるために動いている─────エクソシストなんだ(キリッ”


 どれを選ぶべきだろう。

 少なくとも最後の選択肢はあまりにもな却下。

 ならば、他は?


 眼を瞑り、まるで仏になる如く。瞑想しながら、最善の選択肢を選ぼうと努力する。時間は限られている。そう。だからこそ、極めて正確に、焦らず、ゆっくり。


 ─────されど、どれだけ言い聞かせようとも焦りは止まらない。


「んあ。……そうだな、何て話そうか」


 そして俺は紡ぐ。思考した先に漏れた言葉。

 目の前に立つムキムキな青髪男に対して、耳打ちするようにして告げた。


「これは内緒の話なんだが。実はこの中に入ってるのは竹刀なんかじゃなくて、日本刀なんだよ。─────ああ、そうさ。お前にはこの意味が理解できるだろう? 勇者マナブよ。俺はこの町で起きている怪奇事件を止めるために動いている─────エクソシストなんだ(キリッ」

 辿り着いた答え。見つけた一途。


 それは、俺の考えた最後の選択肢であり。最初に却下したはずの選択肢。

 ─────……一見、論外。だが学は親友だ。噓は良くないし、いっそのこの本当なコトを喋ってしまえという精神だろうか。

 だがそれは、先程までの俺の行動理念とは矛盾していた。


 それは、学をこの事件に巻き込みたくないという……先程までの心に対する矛盾。

 ─────……その心には、きっと大丈夫だという謎の弱さがあったのだろう。だから俺はそんな事を告げてしまった。



 だが今更、己の行動を侮蔑しても。もう遅い。



 言い訳不要。ただ親友の眼光を見据える。


「……お、おお。おおお」

「これが真実(トゥルー)だよ。勇者マナブ」

 だが、相手(マナブ)は予想外の反応を見せた。


 なんと口をぽかんと開いて、そのまま硬直してしまったのだ。あまりの情報過多に脳が焼き切れた。そういった風景である。


 故に。場は一瞬静寂。

 故に。男は目を細めた。

 故に。


「─────ワタル」

「え?」

「お前が厨二病(コチラがわ)に来るのは好きにすればいい。それはワタル、お前自身の勝手だ。だがな、その芸に……人が亡くなっている事件をネタにするな。それは厨二病のイメージを損ねるだけではなく。お前の、志摩弥という人間の品性すらも歪ませる」

「─────」


 思わず。真面目な彼の回答に俺は何もない。

 当たり前だ。相手が正論なのだから。

 正論に対抗する論理など、あまりにもな愚論。


 そりゃそうだ。……例えそれが事実でも。”人が死んでいる”なんて事象を面白おかしくネタに扱うなんて道徳的には以ての外だ。常識で鑑みれば当たり前。だというのにも関わらず、俺はどんな失言をしたというのか。思わず、吐き気すら感じた。



 ─────『人殺しが何を言う』─────。


 脳内にノイズが流れて、同時に悲劇的な頭痛が俺を襲う。だがそれは現実逃避だ。

 己の全てを後悔しろ。道徳心なんてとうに捨てた?

 だがそれでも良い。まだ俺は……ニンゲンらしくありたい。


 例えそれが、欺瞞に溢れた欲望であっても。

 ニンゲンらしく。


「……そりゃ、悪かった。確かにマナブの言う通りだな」

 静かに頭を下げ、謝罪した。


 それで何か許されるワケでもない。

 ただ、自己満足の(あがな)い。

 でもそれでも、しないよりはマシだと思う。


「ああ。理解してくれれば、それで良い。俺も……それほど指摘出来るぐらいの道徳心な人間でもないからな」

「─────そう、なのか? 優等生だろう、マナブは」

「確かに学校での俺の行いは世間一般からすれば良いかもしれない。だが俺は……その代わりに家でやんちゃしてるからな」


 どうやら、そうらしい。

 つまるところ、どっちもどっちみたいな感じなのだろうか。

 そういう風にして話は無事着陸する。


「まぁ、話したくないなら別に話さなくてもいい。さっき質問したのも特に意味はない……そう、ちょっとした好奇心が働いただけだからな」


 こうして、彼との対話が終わった。


 ◇◇◇


「……」


 時刻は四時。

 もうすぐで日暮れ。

 だが、まだ少し時間があった。


 これからどうしようか。─────なんて考えていると、ちょん、と肩をがっちりと掴まれた。心臓の鼓動が跳ね返って、燃え尽きるかのような一撃。視界が暗転する錯覚。

 自分にはそれが、きっと蛆が触れた様に感じたのだろう。


 ぞわぞわと広がる悪寒の雨。

 降り注ぐ悪い予感に、俺は背後へと振り返った。

 目の前にいる学の事なんて無視して。瞬間。


「ッ⁉」


 背後を視た。


 ……だがそこには、誰もいなかった。いいや、居た。

 まるで居ないと思えるほど小さいのだが、それを遥かに凌駕し認識させる殺気を放つ存在が。白髪に黄金の瞳。……ちっこい天使。

 又の名を、白い悪魔。


 ソフィアリード・グローリーが立っていた。

 不思議と彼女の目は虚ろで、微かに涙目で、鬼気を含んでいる。

 ああ、それは紛れもなく─────”激怒”の姿。


「えーーと、ソフィア……? 急にどうしたんだ」

「あはは。あははは、ワタル……こそ、急に私を除け者にしてさ。こしょこしょこしょこしょと楽しい楽しいお話……? ねぇ、ワタル? 私はね、とっても遺憾であります」


 同時に彼女はわざとらしく微笑んだ。

 ……遺憾って、どこで覚えたんだか。

 そこには何の感情か察したくもない『感情』があった。……どうしたんだソフィアは、急に。その程度で怒るとか、俗に言うメンヘラ的な感じなのだが。


 だが、話から除け者にした俺も悪いとは思っている。


「……そりゃ、すまん。だけどさ、大事な話だったんだよ。でも、これぐらいで怒るとかお前らしくないな。ソフィア」

「……あれ、言われてみれば。そう、ね。なんで私は……こんぐらいの小さい事で怒ってたんだろ。私って、そんな器小さかったかな」

「さぁな、俺には分からないよ」


 ふと彼女は、肩から手を落とし……俺の手に触れた。

 彼女の暖かい体温が直に伝わり、少しびりびりする。

 高揚する感覚。とでも言うのだろうか。

 それとも。


 ……ちとばかしドキドキする。


 とでも言うのだろうか。


「……ごめん、ちょっと変なコト言ったかもワタル」

「ん。いや別に俺はそんな気にしてないよ。それぐらい、可愛いしいいじゃないか」

「そう、かな。ワタル、私の事嫌ったりしない?」


 彼女の双眸を見ると、それは気のせいか潤んでいて。


 ─────なんだ、そりゃ。

 あまりにも馬鹿すぎる愚問に、苛立ちすら覚えた。

 そんなの、分かり切った事だろう?

 なのにコイツは……何心配してやがる。


「はぁ、嫌うワケないだろ。馬鹿天使! ……そんぐらいで嫌いになる程度だったら、俺はお前に協力するとか言わないだろ? それよりさ、まだ少しだけ日没まで時間があるんだし。気分転換も兼ねて、駅ビルを探検しようぜ! 学も一緒にな!」


 息を吸って、大きな声で俺は応えると共に提案した。

 まだ日没には時間がある。だから、こんな悪い空気は断絶すべきだ。だからこそ、その気分転換を目的とした遊びを提案する。


「………………っ、うん!!!」


 勿論、彼女は純度百パーセントの笑顔で答えを返してくれた。

 横目に学を見ると、彼はただ「は?」と呟いているその姿が視界に入って。


「別に駅ビルを探索するのは良いが。そこのべっぴんさんもそうだが……『協力する』とかお前ら、揃いも揃って厨二病すぎないか?」


 学は俺たちを見て、呆れた様に言った。

 …………だが言いたい。

 お前ら厨二病過ぎないだと?



 ─────お前が言うな。



 ◇◇◇


「んま、凄い絶妙な空気だが……ワタルと、その彼女? と一緒に遊ぶのも悪くはない。少しぎこちないがな」


 学と俺を先頭に、ソフィアと共に駅ビルの中へと入り込んだ。

 そこで学はそう腕を組み、瞑想するように話す。


 …………ソフィアは俺の彼女ってワケではないんだがな。


「あのだな、コイツとは……そういう関係ではないんだよ。ただの友達って感じ。というか学にはまだ名前は教えてなかったっけか。コイツの名前は【ソフィアリード・グローリー】外国人留学生だ」

 外国人留学生。なんていうのは設定だが、天使なんだとかいっても信じれるはずがないし……仕方がない事である。


 隣を歩く白い悪魔は目を丸くして、それどころか何か言いたげな表情をしていたがふと収まる。どうやら、話の筋を理解してくれたらしい。

 だから俺は話を続ける。


「なるほど。それは凄いな。随分と日本語がご達者だし、俺より凄いかもしれない…………ん、当たり前か」

「─────いや、コイツは確かに日本語は出来るけど。それ以外はバカだよ」

「む、そうなのか?」


 話の会話の焦点は更に深く、ソフィアへと移った。だから自然と二人の視線もソフィアに集まって。


「え?」

 彼女はただそう呟いた。


 どうやら、何も理解していないらしい。

 同時に疑問が浮かぶ。確かに学の言う通りで、コイツはなんで日本語なんて喋れるんだと。


 …………コイツは天使だ。

 人間の世界に適応しようとするならば、一般的に考えれば使用母体数の多い英語などをまず最初に覚えるはずなんだが。

 もしかして、全部覚えていたりするのか?


 それは、きっと想像を絶する過酷な作業だ。

 あれ。コイツ、俺が思っているよりも遥かに天才だったり?

 ……そりゃないか。


 ぽっと出の案を即否定する。


「ま、外国人でその若さで日本語を扱えるってだけでも十分天才だろう。弥よ、そうだろう?」

「……言われてみれば、そうかもなぁ」

 二人で思考する。


 意味が分からずなのか、それともまた別の理由か────硬直している彼女を横目に。ただ俺たちは考えていた。


「?????? ……なんか、バカって聞こえたんですけど。ねぇ、ワタル。ねぇ、ワタル? もしかして、私の事バカって言った?」


 徐々に思考が冴えて、彼女の凍結していたソレが解け始めても。

 ただ俺たちはひたすらに呆れる程に考えていた。


「でも、そんなのどうでもいいさ。別にな。それより早く駅ビルを探索しよう。─────そうだな、八階にある”アニメショップ本田丸”なんてどうだ?」

「ちょ、私の事無視しないでよ!」

「何も聞こえないんです。ワシは耳が遠くてのぉ……」


 ビル内に彼女の声が木霊する。だがそれでも俺は意地でも失言を撤回しない。というかあの言葉は本音、俺が抱いている彼女に対するイメージそのものだ。

 だから、聞かなかった事にしておいてくれ。白い悪魔よ。


「お前、ひでぇ事するなぁ⁉」


 同時に驚く学も無視をする。


 この駅ビルは九階建てで、町一番の大きさの建物だろう。

 その最上階の手前、八階にはなんとアニメショップがあるのだ。昔はよく通っていたのだが、最近は忙しくてあまり行けてなかったから少し行きたい。

 ということで、苦笑しながらも俺はソフィアと学を強引に引き連れて八階に行こうとエレベーターに乗った。


 ◇◇◇


 カン。と高い音と共に、乗車物の上昇が止まる。

 強化ガラスを交えた扉がゆっくりと開き、加えて照明が点滅を繰り返しながら久しい空気を吸い込んだ。

 俺たちはエレベーターを出る。


「着いたぞ、行こう」

「おぉ、ここが……アニメショップてやつ?」

「そうだな」


 目の前に広がるのは、そう……アニメショップだ。

 アニメに関連した商品などを取り扱う、所謂俺みたいな【アニメオタクの巣窟】である。


 空気が美味い。

 まるで家にいるかのような安堵感。

 広がる光景はあまりにもらんらんと輝いていて。


「それに、可愛い女の子がいっぱいだね!」

「ふん。俺にとっては見慣れた光景だ。特に言うモノはない」


 俺の背後をついてくる男女は─────。一人、天使は興奮しながら大声でその場を駆け回り。一人、青髪の優等生らしき男は仁王立ちで鼻で笑っている。


 わざわざ俺が連れてきてなんだが……なんだこの地獄絵図(こうけい)は。


「そういえば、学は……確かここの常連客だったんだよな」

「ああ。このアニメショップ本田丸の店長は親父の知り合いでな、よく贔屓(ひいき)させてもらっていたもんだ」

「それって、話して大丈夫な事なのか?」

「…………知らん」


 青髪の優等生─────否。優等生という綺麗な事実を纏った、厨二病はそんな私情を漏らし苦笑した。


「まぁ、大丈夫だろう。ここの店長さんは……良い意味で無鉄砲な人間だからな」

「お前さ……なんでも良い意味でって付ければ、良い意味になると思うなよ?」

「俺でもそれぐらい分かってる。本当に良い意味でと言ったまでだ」


 そんな他愛もない会話を交わした後、自然とそれぞれが辺りを見渡し始めて。……気がつく。


「あ、れ……?」


 それは。先程まで直ぐ近くにいたはずの天使がどこかへ消えていた事であった。

 誰よりも早くソレに気がついて、首が吹き飛びそうなぐらいに回し辺りを散策する。

 同時に、視界にソレが入った。


 ─────。


「おおーー、これがワタルの好きな女の子? 達なのかーー」


 だがそれは、あまりにも羞恥。

 古臭くショップの角に置かれたテレビの前に立つ白い悪魔は、一人で勝手に偏見しながら大きな声で喋っていて。

 それどころか、あまりにも大きな声だった所為で周りから視線を集めていた。


 ……無意識でも、そりゃ狡猾過ぎる。


「ちょ、ソフィア……お前、何してるんだっ!!」

「ふぇ⁉ わ、ワタル……っ!」

 そして。俺はその光景を見るや否や、そんな行動をする彼女を制止するように走り出した。


 テレビに映るアニメーションは、コアなファンに人気のある鬱系魔法少女ジャンル『魔法少女ブリとカツオ』である。

 ……そんなのを見ながら、美少女がこんなのが好きなのかーーなんて事を吐く。


 それはきっと、言い逃れ出来ることのない地獄絵図だったことだろう。


「ちょ、何するのワタル。あ、ちょっと、力強い、待って待って待って。いやだぁ、ここから離れたくないーー!」

「馬鹿か、ソフィア! そんな大声出したら、他の客の迷惑になるだろが!」

「…………ワタルもね」

「うぐ……」


 ただそんなのは考えずに、俺はただ彼女の腕をがっちりと掴みその場から引き離し……ショップの外で待っていた学の元へと連れていった。


「おう、おかえりワタル」

「ああ、ただいま学」


 土産か副産物か又は呪いか。

 正体不明のソレを引きずって、俺は店の前で学と対峙する。

 因みにそれはなんかまた喚ていていた。


「うわーー、なんてことするのワタル! お店に連れてってくれたんだし、少しぐらいは自由に見させてよね全く。ただテレビを見ていただけでそんな事言われるとは……予想外よ」

「お前さ、普通にテレビ見るのは良いが……勝手にソレを俺の趣味と認定しないでくれ」

「え? 違うの?」

「─────いや、そういうワケじゃないけど……」


 口が詰まった。そのスキを突くように彼女は「ならいいじゃん! あーはっはっはっ」なんてまた再び大声を上げて笑い始めて……。


 コイツ、一回ぐらい本気でゲンコツかましてやった方がいいんだろうか。


 本気でそう思った。


「取り敢えず、他の客の迷惑になるから極力静かな声で。それと勝手に独り歩きしないこと!」

「え、細かくない……?」

「そうだな……俺は、ソフィアの保護者だからな」

「─────」


 取り敢えずで、そう諫言(かんげん)する。

 するとそんな事を呟かれたから、反射的に俺は思わずそんな事を漏らしてしまった。……俺が天使の、ソフィアの保護者?


 そんなの心底ゴメンだ。


「……少し口が滑った。今の話は聞かなかったことに─────」

「…………ワタルが私の保護者って話?」

「……」


 彼女の表情はにまにまと、俺の失言をからかっている様子。

 全く、誰がこんな性格に教育したのか。

 溜息しか出てこない。


「わーーたーーるーー? 私、こういう事は聞き逃さないんだからね!」

「ぐ、ぐぬぬ……地獄耳め」


 仕方がない。

 それで良いよ、もう。


「───────────────分かった、分かったよ。俺はソフィアの保護者です宣言しました。だから、俺のさっき言った事を従ってくれよな」

「え」

 先程までの余裕の表情が崩れ、彼女は凍り付いた。


「当たり前だろ。保護者絶対教育だ、うちはな」

「……」

「どうしたんだソフィア、急に黙って……」

「もう、ワタルの意地悪!!」


 その時だった。

 俺は彼女に殴られた。

 全力で。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ