三十話【変化】
空は白い。一面がパレットだと例えるなら、無色。
重い足取りで志摩家に向かいながら、俺は空を見上げて想起する。覚えているのは、あの双眸。
「─────ったく、なんなんだよあいつ……」
心底、本当にそう思う。
疑問に思うとでも言うのだろうか。いいや、きっとこれはそれよりも難解な感情である。感情なのかすらの区別すらつかない。
思い出すのはあの男【逢瀬継信】と名乗った男との一戦だ。
一撃一撃が重く。
俺の腕の力なんて使っていなければ。
いいや、あの時それぞれの行動全てが微妙にでも異なっていたら、現在に俺はこの世界に存在しなかったかもしれない。
それほど、相手は強かった。
ボロボロの黒塊と違ってちゃんと知性のある生物だから、更に質が悪いときた。そうだな、それを言えばファクト……アイツも知性はあるが、アイツらは例外である。
ともかく、だ。
今思いつく言葉は一つ。
『死ななくて良かった』。
それだけだ。
「─────」
あそこで死んでいれば、零との約束も。あまつさえソフィアとの約束さえも破る事になってしまうのだ。
それは、俺の心に残る道徳的な感情が許さない。
─────って、俺は何を考えてるんだ。
人を殺した大罪を持つ俺が、道徳的な話をするとか。
もってのほかだろうに。
─────だが浮かぶ。彼女の姿が。
笑顔に微笑み、俺に話しかける無邪気な姿。
ある時には冷酷で、ある時にはドジで、ある時には面白い。
イレギュラーな存在。
─────浮かぶ。彼女の姿が。
今まで生きてきて、見たこともない生き物。
世界その全ての魅力が詰まったような生き物。
可憐でお茶目で美しい天使。
完璧過ぎて欠点のある天使。
─────想起して、思う。
「……大丈夫、だ。俺の選択は間違えてなんかいないさ」
……この気持ちに、訂正はないはずだ。きっと大衆から見て醜いモノでも、俺からすれば美しいものなんだから。
目を細めてまた上を見上げる。
胸に右手をやり、慟哭を抑えつけて。
ただ見つめた。
冬がもう来るのだと伝えるひんやりとした冷たさの風が吹いた。
空は白い。真っ白だ。正確には、多少の黒粒が混じっているがほぼ純白色のパレット。……だが、見えて心地よい気はしない。
きっとそれは低気圧とかによる偏頭痛の所為だろう。
「さぁ、家に帰ろう」
俺は帰路を急ぐ。待っている。
家では天使が待っている。
さぁ、家に帰ろう─────やるべき事は、沢山ある。
◇◇◇
家に着いた。
馬鹿みたいに眠い。出来るだけ急いで来たが、地味に俺は怪我を負っている事もありかなり遅くなってしまった。
それに朝食も昼食も摂っていないから、恐ろしい程の空腹でもある。
時刻は既に三時を回っている頃だろう。
家から学校まで自転車でも時間が掛かるというのにも関わらず、学校から秋葉邸や志摩家へのルートは真逆の方向でその距離はかなりある。
つまるところ、思ったよりも大変な道のりだった。
「ただいま、ソフィアー」
だが。
こんな弱弱しい姿で彼女の前に出れるかって話。だから俺は気持ちを一気に切り替えて軽快な掛け声と共に、扉を引いた。
くそう。腹も減ってるし、疲れてるし、眠いし……満身創痍。
「あっ、おかえり! ワタル。じゃあ早く今日も悪魔探しに行きましょう!」
だが。
現実は俺が思うほど甘いものではない話。扉を開いた先にいたのは、滅茶苦茶にワクワクしたオーラを放つ白髪金眼の白い悪魔。
そうだ。
俺が今日どれぐらいの苦労があったのか、今日俺が何をしたかなんて彼女には知る由もないのだ。言い換えれば、多分家での彼女は暇を持て余し過ぎて……今にも悪魔探しに行きたいと思っている、のだ。
その行為はソフィアの性格を考慮すると、あまりにも当たり前のことである。
「─────あ、ああ。……確か、そんな話があったっけか」
「え? なによもう、直ぐに忘れちゃったの? 私との約束。私さ、凄い待ちわびてたんだけど! ……私はワタルの『家に居ろ』って約束しっかりと守ったんだから、ワタルも私との約束守ってよね!」
「……それは、当然。だろ」
大丈夫だ、志摩弥。
─────幸い、ソフィアが待ちくたびれていたおかげで時間を気にしてくれていないようで、俺が早く帰ってきた事に違和感を感じていないのだし。
それに、俺にはまだ有り余る程の体力があると錯覚さえすれば、なんとか持ち堪えられるはずだ。……『死』を偽造しろ、『疲労』を偽造しろ、イメージするのは『筋肉ムキムキ無限体力のワタル』。
同時に想起する青髪の厨二病……土佐─────って、あれ?
待て、それは違うだろう。
邪念を払って、己を想起する。
それだけ。
己の茶髪が心なしか、萎むように揺れた。
「じゃあそうと決まれば早く行きましょう! ちゃんとワタルの日本刀も玄関先に予め用意しておいてあげたから! 早く!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! ……まず、着替えさせてくれ」
「む。まぁ、それぐらいならいいけども」
勝手に進められていた話に俺は焦り、制止する。……残り一着、この制服が更に汚れれば俺は何を着て学校に行けば良いというのか。
今日も何かがあって汚れるかもしれない。
そのリスクヘッジとして、着替えるべきだ。
前例を鑑みても、そうだ。だから俺は取り敢えず着替える時間だけを、彼女から貰い急いで自室へと向かった。
◇◇◇
自室に置いてあるデジタル時計は午後三時四十分を示していた。
どうやら、かなり長い間歩いていたららしい。それならば、これほどに疲れているのも納得出来る。
「はあ、疲れたな。……でも、頑張る」
いつもの灰色のパーカーに、黒のコーチジャケットに着替えた後に。ぼそりと、本音が漏れた。……だが大丈夫だ、言葉に出ている。頑張ると。
彼女の為にも、町の人の為にも、自分の為にも頑張る。
ひんやりとした空気を吸い込んで、気持ちを今度こそ切り替えた。
さぁて、行こう。
……明日の為にも無茶はあまりしたくはないのだが、取り敢えずは目先の事案に取り掛かる方が大事だ。
先の事を考えるのも大事だが、考え過ぎるのは良くない。
玄関に置いてあった日本刀が入った長細い袋を担いで俺は外に出た。息を吐くと、それは白い塊に染まる。
「もう、こんなに寒い時期か」
「そうね。もう私はガクガクブルブルよ」
「あ、それ俺も同じだ」
体が震えるのは今に始まった事ではないが、共感出来る。
どうやらこの寒さは、いくら天使だとしても耐え難い苦痛らしい。それを見て、コイツも一応は俺たちと同じこの世界に存在するヤツらなんだなと安堵。
今踏む大地も勿論、冷たい。
「それで、今日向かう場所はどこなんだ─────?」
「え、今日向かう所……。そうね、特に考えていなかったんだけど。そうだなぁ、取り敢えず……また駅の方にでも行ってみる?」
「そうか。そうだな、そうしよう」
……やはり、手掛かりはソフィアも見つけていないようだ。
零やシルファから聞いた話も、追っている悪魔の特徴程度であったのだし。どうやら、何もない中で探さなければいけないっぽい。
最悪と言えば、最悪。
「じゃあ、行こう」
まだ陽は夕陽ですらない。
この様な穏やかな地で、悪魔によって人が何人も淘汰されているなんて想起することすら不可能だ。だがそれでも、この地は呪われているらしい。
こんなにも美しい大地も、街並みでも、ここは呪われているのだ。
「ええ、そうね」
まだ外は明るい。
ちょうど今頃、部活動に入っていない秋葉高の連中が下校する時刻だが。……もしかすると、行く途中で学とかとすれ違うかもしれないな。
なにせ、アイツも俺と同じで部活動に入っていない。
いいや、正確には『帰宅部』というジャンルに属するのだが。
「─────ま、そんな事はどうでもいいよな」
「……え? ワタル、急にどうしちゃったのよ。感慨深い? みたいな言葉出しちゃって」
「いいや、ただの独り言。特に意味はないよ」
「そうなのかな?」
─────ああ、その通りだ。
今のつぶやきは、特段何か意味を持って発言したワケではない。
人間というのは無駄に時間を消費する、そういう生き物なのだから。
それぐらいの事は平気でする。
「ま、ワタルが人間社会でおかしい奴って思われているのは知ってるだけどね」
「はい? 俺は─────正真正銘、スーパー普通の人間なんだが」
「普通の人間なら、悪魔となんて戦えないよ」
「うぐ……」
彼女はなんでかおかしく笑う。
俺をからかっていて楽しいのだろうか。……彼女の微笑みを見ると確かにも心は癒されるのだが、気恥ずかしさが勝るのだ。
自身の顔を少しだけ指でなぞって、ただ苦笑する。
そう言われると、反論は出来ないから。
「あ、因みにだが……今朝、どうやらソフィアはお酒に酔っぱらった様に寝ていたいけどさ。あれ、一体全体どうしてああなったんだ?」
「え? あ。……あ、えーーと。ななななななな何の話かな?」
「……誤魔化すなよ、ソフィア。俺はくっきりと泥酔しているお前を見たんだからな」
「う、ぐ……ぐぬぬ。いやぁ、わわ……からないなー」
彼女は目を泳がせながらもじもじと口を紛らわす。
ダメだな。その程度では俺は引き下がらないぞ、それにかなり気になる事案であったし。ソフィアがアルコール依存症とかになったら、色々と面倒そうだ。
「……怒らないからさ。話してくれよ、あれ。どういうワケでああなったんだよ」
「本当に?」
「ああ、本当に。だ」
その言葉に彼女は薄ら頷く。
どうやら、話す気になってくれたらしい。
それから彼女は白状する。
「えーーと、ね。昨夜。ワタルが寝た後に暇だなぁって家の中を漁っていたんだけど、その時に喉が渇いたなーって思って……冷蔵庫を見たら噂だけに聞いていたお酒? ってモノがあったから、試しに二階で飲んでたんだけど。……あれ
、思ったよりも美味しくてね─────つい、いっぱい飲んじゃった」
「─────」
「あ、でもねワタル。安心して? お酒はこれから飲んでも一日二缶ぐらいにするから」
白い悪魔さん。貴方はどうやら、既に立派なアルコール依存症。アルコール中毒者……俗に言うアル中に昇華していたそうです。
残念というワケではないが、お酒はダメだ。
いや、ダメというワケではないが。……酔っぱらったまま戦いに出て死んでしまったりするのはマズイ。
というか、一日二缶って……。休肝日を用意しろ、休肝日を!!!
そう。言いたい事は沢山あるのだが……一つだけ言っておこう。
「ソフィア」
「え?」
彼女を見て、ぽんと肩を優しくたたく。
そして、告げるのだ。
「お酒、禁止な」
─────と。
「え⁉ うわあああああああああああああああああ!!! そんなの嫌だよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「酒飲むな! 炭酸飲料で我慢しろ!」
「─────嫌だよおおおおおおお!!!!!」
その罰に彼女は泣き喚くが、こればかりは仕方がない事だ。その代用として、炭酸ジュースを彼女にオススメしてみたが。効果なし。
仕方がないので、彼女を引きずるようにして俺は駅に向かった。
◇◇◇
駅前付近に着いた。
辺りはいつものように騒音まみれで、人工的なあらゆるモノが網膜を通過して、更には鼓膜も通過する。
あらゆる建造物が煌びやかに輝いているのだ。
人通りもまだ夕方前なので、かなり多い。
様々な服装をした人々が交錯しあい、どれもが無感情に通り過ぎてゆく。有象無象のその人混み。誰もが他人になど関心を持たない。
当たり前だ。こんな景色など、ここら付近を歩く人にとっては日常茶飯事なのだから。……だというのに、俺たちが少し視線を浴びさせられている。
気のせいだと思いたいのだが……きっとそれは、俺の背負っているこの日本刀さんの所為と明白だった。
「……さて、と。まだ日没って時間じゃないけど。どうする?」
「─────」
「な、なぁ。……話ぐらい、聞いてくれよ」
彼女をふと見ると、頬を膨らませて涙目を浮かべている姿が映った。何故だろうか……それは、俺の所為だろう。酒、そんなに美味しかったのか。
……少し気になるが、俺は高校生、俺はまだ未成年だ。だから飲むわけにはいかないので、彼女の気持ちに完璧に同情するのも出来ない。
口を聞いてくれない白い悪魔を一瞥した後に。
溜息を一つ吐いて、すぐ近くにあった自販機に俺は駆け寄った。赤一色で構成される縦に長い長方形の箱。
─────ここの銀の口に、ポケットから取り出した硬貨を二枚ほど入れ。設置されているボタンを押す。
無造作に落ちてきた缶を拾い上げ、俺は彼女の所へと戻った。
「はいこれ、酒の代わりな」
「……。これって、ゴガ・ゴーラ……? なに、それ」
「所謂、炭酸ジュースってヤツだよ。それは酔っぱらったっりはしないが、美味しいからさ。これで我慢してくれよ」
ソフィアに手渡したのは、赤色の缶に入ったジュース。
この世界に浸透している有名な会社が作る、世界的に大ヒットしている普遍的な炭酸飲料、ジュースだ。
……正確には、果汁百パーセントの飲み物しか『ジュース』と名乗る事は法律によって許されていないのでジュースと呼ぶのは間違いなのだが。
微妙な表情。
彼女は両手でそれを持ち、飲むのを少し躊躇っていた。酒を飲んだってのに、こんな炭酸飲料程度で恐れる事があるというのか。
ふと俺の瞳を見つめて。また視線を落とす。
そして、ゆっくりと缶の飲み口を開けて─────。
「ごくん」
そんな擬音語と共にソフィアは缶の飲み口から飲料を喉に落とした。ごくん、ごくんと緩慢にも喉が奏でられる。
そしてその音は時間が経過するごとに増していき……彼女が次に口を離すときには。
「ぷはっ!」
それは飲み干されていた。
白い悪魔の目が潤う。さっきの無気力さなんて、もう見当たらない。そこにあるのは、今までに見てきた笑顔な天使の姿だけだった。
どうやら、機嫌を取り直してくれた……らしい。
「なにこれ。今まで嫌悪してたけど、人間の作る飲み物って全部美味しい! これ、ハマッた? かも」
「そりゃ、良かった。じゃあ今度からは酒じゃなくて、それで我慢してくれよな」
「ええ、勿論。これなら、我慢出来そうよワタル!」
良く言えば、ポジティブ思考。
悪く言えば、単細胞生物。
……まるで山の天気か! っとツッコミたくなるぐらい感情の起伏が激しい彼女っを見て、心底そう思う。
「ま……これも地味に高いから。安心は出来ないけど、も」
「大丈夫だよ、問題ない。ワタルの財力なら、きっとどうにかなるって!」
「お前それ……煽ってるのか?」
「え?」
彼女は無意識にそんな事を告げている様だが。人間社会に浸透している俺からすれば─────そのセリフは、あまりにもな煽りであるとしか認識出来ない。
だが彼女がそんな事知っていて話しているようには見えなかったし、スルー安定というところだ。
それに、ソフィアの微笑みはあまりにも悪魔的である。そんなモノを見てしまえば、この世の全てが醜く汚く感じる程の逆光。
直視すると、目が死ぬことだろう。きっと。
「さて、まだ日没付近になるまで時間があるしさ。今日は或間駅の名物! って言っても過言ではない駅ビルでも探検しないか?」
「駅ビル……なによそれ?」
「駅ビル。その名の通り、駅舎が大規模化して駅以外の機能……商業施設などを持たせた建造物の総称だよ。他にはターミナルビルって呼び方もある」
「はえーー、なるほどね。で、そこには何があるの?」
そうだな、と手を顎に。少しだけ思考する。
駅ビルには色々な店が集まっている。それはひとまとめには言えない施設ばかりだ。まとめるならば。
「─────そうだな。ん、……土産が売ってる売店とか、ゲーセンとか、会社のオフィスとか、ホテルとか。他には服屋とか……まぁ、前に行ったショッピングモールみたいなもんだよ。それはな」
「へぇ、興味深いかも!」
「じゃあ、行ってみるか」
揚々と彼女は首を縦に振る。そうと決まれば話は早い、俺はソフィアを連れて、駅ビルの方へと歩き始めた。
交錯する人々の渦をかき分けて。
息苦しい酸素が少ない空気を過ぎて。
駅ビルの中へと足を運ぶ。
あんな怪奇事件が起きても、この街を闊歩する人間にとっては無関心だ。それぞれ全ての人間が『自分には関係ない』とでも思っているのかもしれない。
だが、そんな希望なんて容易く崩れる。
俺はそれを実体験として知ったのだ。
……だからこれ以上、俺みたいな巻き込まれる人間を増やさないようにしないと。人混みの中で、上に広がる”青”を見ながら面白いエゴを思う。
─────と、そんな事をしていると。どんと体に衝撃が走った。
「んあ。……あっ、すいません」
「痛っ……いや、大丈夫だ。ぜんぜ……」
空なんか見て歩いていたからか、他の歩行者とぶつかってしまったのか。反射的に謝罪してぺこりと一瞬頭を下げて。
違和感を覚えた。
なぜだろうか。
たぶん。きっと、それが知っている声だったから。
よく聞いていた声だったから。
それが突如再生されて、覚えたのだろう。
─────きっと、それがまるで一輪の蒼色花に見えたのだろうから。
「「って、……お前」」
双眸が重なり、同時に喉から零れた音が重なる。
眼前に立っていたのは……青髪にムキムキ、筋肉質の高身長の男だった。─────ああ、間違いない。コイツの名前は、土佐学。
「っ学、かよ」
「ワタルか─────よ、って─────。あ?」
駅ビルの入り口。
目の前に映る男は声を止めて、瞳孔を開かせてた。
まるでナニモカモガ見据えている様にすら理解できる、その視界。……学には、何が見えているのだろうか。
想像もつかない。
果たして、今何を思い。彼の脳内には何が見えているのか。
彼の口ぶりは重く苦しく。
目を細めて、遠目で言う。
そして。
「─────学校を”家の事情”で休んで、何しているんだろうか……と思えば。そうかそうか、あの美少女とデートとはな! 見損なったぞ、ワタル─────ッ!!!!」
目の前の親友から涙が含まれた怒号が飛んできた。
「い、いやだな。それは語弊というか……誤解だぞっ⁉ コイツとはそういう仲じゃないし。家の事情で学校を休んだってなんだよ」
「はぁ? 柳沢が言っていたぞ。ワタルは家の事情で休むと職員室から通達があったとな。─────もしかしてワタル、それは虚偽なのか? ズル休みか⁉」
「い、いや違う! 俺にもちゃんとした動機というか、理由があってだな!」
学は俺の話を聞こうとしていない。
いいや、聞こえないのだろう。きっと、激昂して鼓膜が閉じているに違いない。俺はそんな事を確信する。
「……。まぁ、今は不問にしておいてやる。焼肉定食の話もあるしな」
「ぐぐぐ……」
それは過去に約束した話。
焼肉定食を奢るから、その色々なコトを不問にしてくれっていう約束の話。
単純な事だが、それでこれも不問にしてくれるってんならありがたい。どれだけの感謝を重ねても、過分にはならないだろう。
腕を組んで、学は目を更に細め眉間を強く。
ごくり。と唾を飲み、その声に臨戦態勢。
「それはそれとしてだな。……お前に話しておきたい事があったんだ」
「え、話しておきたい事……?」
「ああ。そうだ。単刀直入に言うぞ? 今現在。お前がな、学校中で”告白大胆ヤロウ”って滅茶苦茶に話題に上がっているんだよ」
「はい?」
しかし。予想外のその一撃に俺は見事に敗北。
……目が点になっていることだろう。
俺はただ、困惑のあまり単音だけを口にした。




