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三話【始まりの一日Ⅲ】

「なっ……⁉」


 俺が一歩、踏み出した瞬間に頭を撃ち抜かれた。

 直後、別の場所にリスポーンする。

 場所は先程とは違い、苔でまみれたビルの中だった。復活する場所が毎回異なるのは、単なるリスキル対策だ。


 それよりも。

 今のは……スナイパーライフルだろうか。

 一瞬にして、撃ち抜かれた。

 何たる奴だ。確かに私強い、とか部屋名に書いてあったけど。

 こんな芋砂が相手とは聞いていないぞ。


 だがしかし、文句を言っても何も解決はしない。

 それに負けたままで終わるのは志摩弥(オレ)のゲーマープライドが許さない。

 勝つまでは、終われないさ。


 そうと決まれば、行こう。

「よし」

 AK-47は手元。武器はある、たとえ相手が激ウマ芋スナイパーだとしても、近距離戦に持ち込んでしまえばコチラが勝てる。


 タタタタ、タタタタ。

 そそくさと、ビルの上へと走り出す。

 このマップは広くない、高いビルの上に行けばマップ全貌が見渡せるだろう。それに、相手が本当に芋砂(スナイパー)だとするならば、上をとっているはずだ。


 苔だらけの鉄の階段を、ガンガンと登る。

 登る、登る、登る、登る、登る────。


「いや、階段長いな⁉ クソマップじゃないか!!」

 階段は、思ったよりも長かった。

 このゲームにはスタミナが現実より少し多くあるだけだから、かなり疲れる。


 ◇◇◇

 ビルの屋上に着いた。

 このビルはかなりの高層ビルだった為、横殴りの強風が俺を襲う。


「風強すぎだろ……」

 これぐらいの高さで、カ〇ジは鉄骨渡りをしたというのか。

 デデーン、そんな音が脳内で鳴る。


「さて、と。芋砂探しでもする、か────」


 ……バシュン!

 直後、再び、俺は、頭をぷすりと一発で撃ち抜かれた。

 勿論、即死。苦労してビルの屋上に来たのに、地べたにリスポーンだ。


 気が付けば、俺は地べたに立っていた。

 俺が行ったであろう高層ビルの屋上は、遥かに高い。

 今からあそこに向かおうとするのならば、それはもう……何十分掛かるだろうか。

 かなり、掛かるだろう。


 ……。

 ……ああ。

 …………あああああ。

 この時、志摩弥は、俺は思った。


 このゲームは、生粋のクソゲーだと。


「うおおおおおおお!!! 登れ登れ登れ!!!」

 そこからの俺は、ガチギレモードであった。

 持ち物は閃光弾一つと、AK-47一つ。

 たったのそれだけだ。


 だから、ただひたすらに突っ込んでいた。

 さっき高層ビルで俺は見事なヘッドショットを食らった、あの高さにいた俺の頭を一瞬で射貫けるということは、普通に考えればそのビルより高いビルに居たに違いない。

 そうでなかったら、ただのチーターだ。

 まぁその可能性はおいておいて、だ。


 俺がいた高層ビルは、このマップで二番目に高いビルであった。

 つまり、それより上の高さのビルというのは……このマップで一番の高さを誇る建造物とうこと。

 だから、俺はこのマップで一番の高さを誇る高層ビルを階段で登っている最中。


 それからゲームの中での体感時間にして数十分、屋上の扉の前に着いた。


「……はぁ、はぁ、はぁ。やっと着いた」

 疲れた。かなりの疲労だ。

 何メートル分登ったのだろうか。


 見当もつかない。

 さてさて、早速ですがこのドア越しに多分敵が待ち構えていることでしょう。……置きエイムか、角待ちか、それとも他のところを見ているか。

 分かりません。


 さぁ、俺は、僕はどうしたらいいでしょうか。

 ……ここまで来るのに苦労したんだ、せめて瞬殺だけはよしてくれ。


「……ハローエブリワン? あ、一人だったか! そこのチミー、そんな所で待ってないで、早くこちらにレッツゴーオーケー?」

「────は?」

 突如、ドア越しに陽気な女の声が聞こえてきた。

 いや、吹き飛んできたという方が正しいかもしれない。


「チミー、もしかイライラしてるぅ? まぁーそういうのはFPSあるあるぅ、私とてもストロングー」

「あんた、何言ってるんだ」


 扉越しに反応する。

 どうやら相手は、かなり頭がぶっ飛んでいるようだ。

 頭のネジが数本、いや数十本抜けているのだろう。


「もしかしてチミー、若い勇者サマって? ひゃー、血生臭い血生臭い」

「……あんた、本当に何を言っているんだ」

「とりまー、こちらにカモンなう?」

「……」


 ダメだ、脳の処理が追いつかない。

 まぁ良い、ゲームなんだし扉を開けてやろう。

 そう思って、扉を開けた直後。


 ───……一秒後、俺の視界に映るのは。

 俺の頭目掛けてスナイパーライフルを構えている女の姿だった。


「ま────ずいっ⁉⁉」

 おいおいおい、なんだこいつ。

 撃たれる予感がしたからか、俺は反射的に体が、頭が右にずれた。よろけた。

 瞬間。一秒前まで俺の頭があった場所に、弾丸が通過する。


 ……ズバンっ!!!

 と、音を立ててその弾丸はビルの壁にめりこんだ。

 驚きのあまり、俺は腰を抜かしてその場で尻餅をついてしまう。


「へー、チミー。それ避けれるんだ?」

「────」


 俺の目の前に立つ女。

 白髪のストレートに、白眼、ぴしりと引き締まった顔つき、灰色のマントローブ。

 ……一見、外国人に見える。だがこれは虚像だろう。

 このゲームでは、アバターを作ってそれで操作するのだから。


「って、私の事無視ってかい⁉ 私、ソーサッド」

「……あんた、一体、何者なんだ」

「んー? 私? 私はねぇ、強い人」


 ……ダメだ。

 普通の会話では、成り立たない。


「あんたのスナイパーは確かに上手かったが……」

「ま、当たり前ていうか、私TUEEEていうか」


 俺はこの女の、ゲーム内での名前(あいでぃー)を確認する。

 ……『i am strong』それが、彼女の名前であった。

 いくらなんでも、自分が強いと言い過ぎだろう。そうツッコミを入れたくなる。


 まぁ、確かに彼女は化物(チーター)みたいなエイムをしていたし、強い事は認めよう。……が、ここまで言うと逆に怪しくなると思うのだがな。


 因みにだが、俺のiDは『SW』だ。

 志摩弥という我が名から、それぞれの頭文字を取ったものである。


「そうそう、こんな過疎部屋で出会ったのも何かの縁、私がチミーに超特別なスーパースペシャルで特上なスーパーエキサイティング機密情報を教えてあげてOK」

「は、はぁ…………」


 特別なスーパースペシャル。

 頭痛が痛いみたいな、文構成だな。

 密かに、そんな事を考える。


 呆れてくるな。

 荒らしか?


「……なになに、気になるて? ききき気になるのかねチミー?」

「いや、そんな事は」

 女は俺にじりじりと迫り、顔を近づけて圧迫してきた。

 否定するスキすら、与えてもらえない。


 おお。

 おおおお。

 おおおおおおお。

 胸が……揺れて。


「気になるの? 気になる? 気になっちゃう? 秘密♡の情報────」

 更に、更に、迫ってくる。

 流石に胸苦しい。

 ボインボインが視界に映るが、胸苦しい。


「気になる? 気になるますよね、はい気になります。だから、ね? 気になるよね、このゲームに関しての情報だよ? 機密情報だよ? 気になる、気になるよねーーー??????」

「……」


 一瞬の静寂の後、俺は押し負けた。


「────はぁ。ああ、気になるよ」

 大きくため息をついて、聞く。

 どうだい、これで満足かい? と伝えるように。


 すると、女は、俺の眼前で、いきなりガッツポーズをした。


「よっしやぁっ!!! やったね、グッとヤミー! 沢山の人に迫って……百二十八人目にして、やっと聞いてくれた……!!」

 彼女は、そう叫ぶ。


 ……百二十八人目って。

 絶句、言葉の掛けようがない。

 俺以外の百二十七人も、こんなに迫られた後、断って退室(ログアウト)したのだろうか。その光景を想像すると、実にシュールだ。


「で、あんたの言っていたその、特別な機密情報て一体なんなんだ?」


 ────どうせ、つまらないものだろう。

 それか、今聞いたこの瞬間に退室する嫌がらせか。

 どうせ、お遊び程度の情報だな。

 良くて、次の追加武器のリーク情報……とかか?


「……」

 女は、急に真面目な表情になってこちらを一瞥した。


 なんだろう。

 少し、堅苦しい雰囲気になった気がする。

 女はまじまじと、コチラを見つめてくる。

 全身を……舐めまわすように。


「じゃあ、君に託してみようか────」

「……え? 託す? もしかして魔〇回路ですか? 直死の〇眼ですか?」

「否!! 断じて否!!!」

「ガーーーン」


 まぁさっきの話からすれば、普通は情報を託す。みたいな話の流れになるのだが。

 俺はあえてずらしてみた。何故って?

 お前なら分かるはず……特に意味はない。そうだろう?


 それにしてもこの女……かなりの情緒不安定さの持ち主だ。


「君にね、とっておきの情報をあげるのさ」

「はぁ…………とっておきの情報、ねぇ」


 俺はゆっくりと、立ち上がりながらそんな返事をする。

 とっておきの情報、か。


「こんな男子高校生の俺に、託す情報なんてないと思うがな……」

「え? 君、まだ高校生なの?」

「あっ、やべ」


 その時、ふと我に返り。心の中で発していたと思った言葉が、口に出ていた事に気が付く。まずいですよ。身元がばれてしまう。

 インターネット社会の現代において、こんな初歩的なヘマをかましてしまうとは…………。


 ぐぬぬ、不覚。


 彼女の顔を伺う。

 なにやら、少し何か悩んでいるような。

 深刻そうな表情だ。


 俺が高校生だと発覚したから、襲いにく……と……か……?

 んな馬鹿な。そんな事は絶対にありえない。


「……なぁ。あんたは、なんでそんな深刻そうな顔してるんだ」

 変な間が空いた為、我慢出来なくて俺は彼女に問う。


 もしかして、本当に、ヤバい系の情報なのだろうか?

 だんだん、だんだん、不安になってくる。

 呼吸は無意識に速く、速く、浅く、浅くなってゆく────。


 シンゾウは、今にも停滞しそうなほどに。

 振動、脈が強くウタレル。


「……いや、なんでもない。だがね、これは君にあげる特別な情報だけど、これは君に対する私からのお願いでもあるんだ」

「お願い?」

「ああ、そう。でもね、この情報は……さっき言った通り、とても機密なの。だから、知るか知らないかでは。多分、君の人生が変わってくる」


 その声には、(ぎまん)など一切含まれておらず、

 ただただ真剣なものであった。

 ……本当に、ヤバいのか?


 また一つ、一段階上へと、不安になる。


「……そう、なのか?」


 でも分からない。こっから、実はそれが噓でした! となるかもしれない。

 ただのドッキリかもしれない。だが、俺の脳裏には映る。

 その情報が、本物(じじつ)で、本当に後戻りが出来ないモノだとしたら……。

 その後の、未来が。


 俺は、志摩弥は、そのプレッシャーに耐えれず、潰れるだろう。


「その情報を知る前と後では、どんな感じに、……具体的にどんな風に俺の人生が変わるんだ?」

 静かに、静かに、おそるおそる気になる事を言う。

 聞かなければいけないだろうと思った事を聞く。

 知らなければ良かったかもしれない事を聞く。


 ────彼女は、返答する。


「もしかすると、君はある事に巻き込まれて死ぬかもしれない」

「し、ぬ────????」


 唐突。あまりにも唐突で。

 重すぎる、その事実を俺は知ってしまった。

 なんだそれは。ナンダソレハ。

 なndそrハ。


 時間が停滞したような感覚に陥る。

 感覚が歪む、頭痛がひしひしと俺の脳内に現れる。


 その情報は、一体何者なんだ?

 ゲタモノか。バケモノか。

 恐ろしいモノには違いない。

 それだけは分かる、それだけは分かる。

 でも、それ以外は…………。


 ……分からない。

 ……わからない。

 ……ワカラナイ。


 高校生の自分では、分からない。


 ドンドン、ドンドン、ドンドン。

 心臓の鼓動が早くなる────これはゲームの仕様だろうか?

 それとも、勘違いだろうか、気のせいだろうか。


 だが、確信する。

 彼女が持っている情報は、本物(じじつ)で、本当にヤバいモノなのだと。


「……っ」


 生唾を、ゆっくりと重く噛み締めて飲み占める。

 唾は喉を通過して胃に落ち、蠕動(ぜんどう)する。


「ああ、やはり。君では、まだ荷が重すぎる……」

「……」


 言葉が出てこない。

 死。それは、俺にとっては、まだ明らかに重すぎる、直面したくない事。

 人はいずれ死ぬ。

 それは覆すことの出来ない、世の理だ。

 だがしかし、まだ俺は、そんな事実に直面する時ではない。


 時間が歪む。

 一秒が、歪んだ体感によって永遠に引き延ばされて────無限秒に。

 引き延ばされて、引き延ばされて、引き延ばされる。


「……」

 だけど、不思議と俺は。

 イマノオレハ。


 ……コウキシンが自制力(りせい)を上回っていた。

 抗えぬ好奇心(しりたい)が上回っていた。


「その情報を……教え……ろ」

「えぇ、まじですかお兄さん?」

「教えろ……」


 視界が濁る。

 そんな中分かるのは、彼女の表情が曇ったこと。

 ソレダケダ。


「まぁいいけど────後悔するかもしれないよ?」

「────」


 彼女の声が聞こえてない。

 何を言っているのか、聞き取れない。

 微笑しているようにも、嘲笑しているようにも、見える。


「では、その情報を送ってあげましょう」


 感謝。

 それを伝える知能(りせい)は今、持ち合わせていない。

 それを彼女は知っている。

 志摩弥はまだ名すら知らぬ彼女は。


「……」

 よく分からない。

 歪んだこの視界のせいで、なにも分からない。


 その後、時間が経過して。

 ふと我に帰る頃には、彼女は退室(ログアウト)していた。

 ────意味が、分からない。


「……は、っ。なんだったんだ、今のは」


 疲れた。

 俺も、退室(ログアウト)しよう。

 ……俺も部屋から退室するとロビーに戻ってきたので、ゲームをタッチパネルからシャッドダウンさせた。

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