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二十六話【お前にソレがお似合いだ】

「ほら、突っ立ってないで。台所に行くぞ」

「え、ええ? 本当に、料理するの?」


 彼女の腕を多少強引に掴んで、台所へ向かう。

 台所の隅に置いてある冷蔵庫から、前に母さんが買い溜めしていた豚カツ、玉ねぎ、卵を取り出す。

 ─────今夜作る料理はカツ丼でやす。


「確か、カツ丼を作るんだよね? ……私、こんな難しいの出来る気がしないんだけど」

「大丈夫だ。出来ないんじゃないんです、やるのです」

「は?」

 深夜テンション気味で俺は返事する。


 カツ丼の卵をトロトロにするなら、先に卵を常温においておくのが良かったんだが。欲は言えない、なんたって急遽作ろうと作戦を立てたのだから。そればかりは仕方がないというものがある。

 動揺しおどおどする彼女を横目に、俺はまず作業する。


「まず、だ」


 買ってきた豚カツの塊を、食べやすい形へと切る。

 台所の引き出しにしまっいる包丁を取り出して、まな板に豚カツを並べて─────。


「豚カツを食べやすいサイズに切ってから、オーブントースター等で温める」

「ほ、ほう?」

「取り出すこれは俺がやるから、少し待っててくれ」

「う……うん」


 サクサクと軽快に包丁を落とし、肉を断つ。

 食べやすいサイズにそれぞれ豚カツを分けられたら、オーブントースターに入れてスイッチを押す。

 ……と。


 その間にお米をソフィアに炊いといてもらう。快速、約二十分程。


「次に玉ねぎを薄く切る。これぐらいなら、ソフィアにでも出来るだろ?」

 玉ねぎをまな板において、言う。


 だが彼女は絶望の眼差し。……それを窺うに、どうやら出来ない気しかしないようだ。だが、やらなければ出来るものも出来るようにはならない。

 世の中ってのは、そんなもん。


 だから─────。


「じゃあ、まず俺がお手本を見せるから。それをじっくりと観察した後にやってみてくれ」


 今回はま、二人分作るから。玉ねぎ半分程度だろうか。

 俺はまず玉ねぎを半分にカットして、その更に半分。四分の一の玉ねぎを、スラスラと薄くスライス。所謂、薄切りというやつ。


 薄く、薄く……火を通しやすくなるように、と。

 ストン、ストンと包丁に力を込めて。


「おおおーー」

「ほら、簡単に出来るから。きっと、ソフィアにも出来るさ」


 そう言って、俺は彼女に包丁を台所に置いて、彼女に握る様に指示する。まな板に聳え立つ玉ねぎを切ってみなと。


「わわ、私にも……本当に出来る?」

「ああ、出来るさ。あ。だからってだな別に、今出来なくても心配するなよ? 最終的に出来るように何回も特訓して、時間を重ねて頑張れば、それ相応の技術ってのは自然と身につくもんだから」

「─────うん、わかった。頑張る」


 彼女は包丁を持って、玉ねぎを注視した。

 ……思ったが、少し怖いな。急に出来ないじゃんとか喚いて、そのまま包丁を振り回して俺に攻撃とかしてこないよな?

 包丁で刺されたら……俺は、ひとたまりもないんだが。


「─────」


 彼女は慎重に、包丁で玉ねぎを薄くスライスする。

 形は曖昧バラバラ、だがモノにはなっていた。

 ……不完全。だが、それでいい。最初にしては上出来過ぎないか?


「お、おお。……なんだソフィア、結構出来てるじゃないか」

「そう? ……私、全然不器用だから分からないや」

「うん、結構出来てるよ。まさか、あんな真っ黒焼の目玉焼きを作るもんだから。実はもっとゲテモノになるんじゃないかと思ってた」

「そんな事ないんですけどーー。一応だけど、私にとってアレはかなりの大失敗で、平常運転ではなかったんだからね!」


 指差され、そう指摘された。

 成程。どうやら、彼女はちゃんとした状態ならちゃんとした料理は作れるらしい。……でも、それならばこんな自信なさげにならなくてもいいだろうに。


「ふーーん。そうなのか……ま、俺でも変な料理を作る時はあるし。そんなものか」

「ええ、そう。そんなもんよ!」

「でもじゃあ、なんでそんなにも自信なさげなんだ?」

「そりゃあもう、平常運転でもそんなに料理が下手だから……」


 彼女の声が落ちる。あ、やってしまったと少し思った。


「……なんか、ごめん」

「─────いや、いいよ別に。事実だしさ」

 彼女の声があからさまに曇る。あ、それはダメだ。


 ……今のは完全に失言だったと思う。

 自らこんな地雷に踏み込んでどうする、バカ野郎。

 焦燥。彼女は俯くが、俺もそんな気持ち。

 ……悪い。


 ただ、志摩弥(オレ)は謝罪する。

 いいや、ダメだ。ダメだ、俺は言ったはずだろ。

 彼女に協力すると。だというのにも関わらず、こんなところで彼女自身を傷つけてどうするというのだ。


 俺には、言うべき事がある。

 俺には、彼女を励ます権利がある。

 俺には、言わなければいけない事がある。

 俺には、彼女にソレを気付かせる義務がある。


 だからこそ─────。

「ま、白い悪魔にはだな。それがお似合いだ」

「は? ……そうだよね、私にはそれがお似合いだよね」

 彼女に告げる。


 目の前に立つソフィアは、ただ口をぽかーーんと開いた。だがまた一秒後、彼女はまた俯いた。確かに、お前には、ソフィアリード・グローリーには。

 君にはそれがお似合いだよ。


 だからこそ、俺は言葉を続ける。


「だが。気付いてないなら教えてやる、お前はだな。可愛くて、強くて、健気で、美しくて、天使だし、萌え! って感じだし、優しいし、お茶目だし、天然バカだし、それでいて……白い悪魔って呼ぶと怒る。そう、お前は超スゲー完璧超人なんだよ。

 誰もが憧れる存在だ。だがそんな完璧な存在にだって、一つぐらい欠点があっても不思議じゃない。いいや、あるべきだ。じゃなきゃ、俺が嫉妬するね」

「─────ぁっ」


 彼女の黄金の瞳を見据える。

 彼女のミルク寄り白髪の髪は靡く。

 ああ、なにもかもが素晴らしくて、完璧な存在に。


 だからこそ、だと気付かせる。


「だから、お前みたいな完璧超人天使が料理が下手なのはお似合いだ。……む、いやそれは逆にギャップ萌え的な感じでアルかもしれない」

「なに、それ……」


 彼女の頬が心なしか赤く染まった。さぞかし理解したか? お前はそれぐらいできなくても─────。十分すぎるんだから。


「だからだな、お前はただ料理が出来ないぐらいで負い目を感じるな! 完璧超人な白い悪魔には、それがお似合いだ。……その代わり、俺が手伝ってやる。言っただろ? お前に協力するってさ。

 ああ、完璧超人の欠点を補う助手ってのも悪くないしだな」


 彼女に右手を差し伸べて、俺は微笑む。

 彼女の口はまだ空いたまま、だけど。微動だにせずワケでもなく、少し動いて。彼女はナニかを納得した後に俺の右手に触れた。


「……あはは、まさか。ワタルがそんな豪胆だとは、少し見直したかも!」

 彼女は微笑んで、俺の手を取る。


 さぁ、カツ丼を作るのを再開しよう。


 ◇◇◇


 それから先は淡々と俺たちは料理をこなした。

 常温に心少しだけおいておいた卵を割り、白身を切るように軽く混ぜておく。フライパンを用意して、玉ねぎと水、醬油、みりん、酒、砂糖、美味(びみ)の素を適量入れる。


 火をつけて、水がぶくぶくと泡を立て始めたら弱火強程度の火加減に変えて、三分程度煮る。

 この時に味見するのが、ワンポイント。


「ん、少し水が足りないな」

「そうなの?」

「ああ。そういう時は……少しだけ、水を足す」


 そして水分が飛び過ぎていたと感じたら水を入れて、調節してもよい。

 調節し終えたら、出来上がったホクホクのご飯を丼に乗せるのだ。ほくほくと真っ白な蒸気が上がってゆく。


「おお、美味しそうだね。ご飯!」

「……そうだな」


 ゴクリ。思わず、唾をのみたくなる美味なる光景。米はつぶらな光を放ち、適量な水分量。べちゃつきもなく、硬すぎず。


「さぁ、最後の仕上げに移るぞ」


 熱々のフライパンにカツを入れて、卵を周りから少しだけ残して回しかけて。たまにフライパンを揺らして、時間経過を待つ。

 卵が固まってきたら、先程残したやつを回しかける。

 フライパンを揺らして今入れた黄身たちが半熟少し早め程度の状態になったら─────完成だ。


 俺はそれぞれ用意した米を入れた二つの丼に、完成したカツ達をかき分けて詰め込む。卵も上からのせると、ふんわりとした食欲をそそる匂いが漂ってきた。


「おお、おお、おおおおおおおおお!! ワタル、これ凄い美味しそうだね!!」

「うん。ソフィアと協力して作った料理だ、不味くなるわけないだろ」


 俺たちはカツ丼をそれぞれで持って、居間に移動する。

 思ったよりも美味しい感じに作れた事に、かなりの満足感が己を制した。

 ああ、作ってよかった。


 ◇◇◇


 居間の床に座布団をしいて、座る。

 彼女も対面する位置に同じように座った。


 目の前には、ホクホクと擬音語が鳴るカツ丼。

 これを見るだけで食欲は増して、腹はぐぅと音を鳴らす。

 (よだれ)が零れ落ちてしまいそう。


「いただきます」


 台所から事前に持って来た竹箸をテーブルに置いて、手と手を合わした。いただきます。それは食前の儀式と言ってもいい程の伝統的なもので、この食べ物を食べれるのはこの世に存在するあらゆる物のおかげだと、感謝の意を表すものである。


「い、いただきます……」

 彼女も真似して、俺の言葉に続いた。


 一口。竹箸で丼にのるカツをつまんで、口へと。頬張(ほおば)る。

 ……とろり。最初に感じた食感はソレだった。

 口の中で溶けるかのようなまろやかさと、次に噛めば流れてくる肉と卵がマインドされた旨味が濃縮された汁。


「う、美味い……」


 それは、人類が食するには早すぎた。

 なにせ美味し過ぎて、廃人になってしまいそうだったから。その一歩手前、俺はただただ目の前にある料理の美味しさにひれ伏す。


 カツ丼は一瞬にして胃の中に堕ちた。


 ◇◇◇


「ふへぁ、美味かったな」

「ええ、凄く美味しかったわ! これもワタルのおかげで、きっと」

「いいや。ソフィアも凄い頑張ってくれたから出来た味だよ、俺一人じゃ作れなかっただろうさ」

「そうなのかな?」


 首を縦に振り、肯定する。

 そうだ。きっと、これはソフィアと共に作ったカツ丼だからこそとても美味しく感じたのだろう。自分はそう思う。

 そんな事を思っているのは、コチラ側だけかもしれないという不安はよぎるが。


 食後の後は何故か畳の匂いが強く感じた。

 さて、と。


「じゃあ、俺は明日も学校だし。風呂に入って寝ようとするかな」

「そうだね。もう夜も深くなってきたし」


 時刻は十時ごろ。

 まぁ、まだ起きてても明日学校に遅刻することはないだろうが。念には念を、だ。……俺は立ち上がり、居間を出て風呂へ向かおうとして足を止めた。


 そういえば─────。

「急に、なんだけどさ。気になったことがあってだな」

 疑問を追求する。


「ん? どうしたの?」

「あのだな、ソフィアってさ。普段、悪魔と戦う時ってどういう風にやるんだ? 俺はまだ、お前の戦う姿を見たことがない」


 正確には、ショッピングモールで彼女が悪魔と対峙しているところに乱入して少しだけ見たはずだから。見たことないというよりは、くっきりと視ていないといったところだが。

 そこが、気になった。戦いに相性は重要だろう? 

 ゲームとかで培った知識が果たして役に立つのかは知らないが、俺は実戦においても相性というのは重要だと思ったのだ。


 俺の腕の力と彼女の戦闘スタイルが相性良くハマるのか、ないしは悪魔に対しての相性はどうなのか─────。いずれ知らなければいけない事だろうし、俺は聞いた。


「私の戦う姿……戦闘スタイル的なこと?」

「ご名答。ただ、好奇心的なモノが働いて気になっただけだから、凄く深い意味とかは特にないよ」

「ふーん。ま、別に隠すことじゃないし。これからいずれ知らなければいけないことだろうし! 教えてあげるわ」


 彼女はニッコリと笑って。俺に教えてくれた。


「私、ソフィアリード・グローリーはね。……銃を使って、戦うわ」

 そして。気が付けば、俺は彼女に何処からともなく出てきたハンドガンの銃口を頭に向けられていて。


「─────ッ⁉ なんの、つもりだ」

「え? ……あ、勿論これ。実銃じゃないよ」

「……いや、そういう意味じゃなくてだな─────」


 ─────ずどん。


 言いかけて、一秒満たない一瞬。音が頭を貫通した。

 奏でられた竜巻の如き轟音は、己の体を突き破る。

 ずっしりとした重さと眩暈が自分の体内で響いて、ナニカが崩壊した。


 彼女の持つハンドガンから放たれた銃弾は志摩弥の頭を貫いた……はずだった。

 だが、それは錯覚に等しい現実。唾を呑み、生きている実感を味わうと共に未だ銃口を向ける彼女を正視する。


 俺は撃たれた筈なのに、全くの無事だった。

 その事実に。困惑し、安堵する。


「……え? 今の、なんだ。俺……撃たれた、よな?」

「ええ。撃ったわ、私のこのハンドガンに込められた特別製の弾……絶弾(ぜつだん)でね。これは普通の弾と違って、魔力だけに損傷を与えるわ」

「は、はぁ」


 ─────どういうことだ。

 分からなくて、溜息だけが喉から零れる。


「ま、出来るだけ簡単に教えてあげるけど。魔力とは生命力を変換したモノ。普通の人間はこの弾丸を受けても少しチクッとするだけ、魔術師は魔術を行使していてる時にだけ損傷を与える。そして─────悪魔というのは常に魔力、魔力の塊だからね、そりゃあ悪魔には滅茶苦茶ダメージが入るの。ワタルは今、腕の力を使っていなかったからダメージはあまりなかったでしょう? つまり、そういうことよ。

 言わば私の戦闘スタイルは、悪魔殺し特化型というべきかしらね、祓魔血師(エクソシスト)みたいなものね」


 ……簡単に、か。

 頑張って俺はそれを飲み込む。

 成程、なるほど、ナルホド。つまりだ、悪魔殺し特化の戦闘スタイルというわけか。じゃあ他の魔術師とか相手には弱いんだろうか?


「もしさ、魔術師とか。人間レベルのやつが敵だったらどうするんだ? 少し弾でダメージが入る程度じゃダメだろうに」

「一応、私だって魔術ぐらい使えるのよ。ただ制御が下手だから使ったら大惨事になるだけで。だからね、本当に魔術師とかに殺されかけたら躊躇いなく魔術で応戦するから。特に問題はないわ」

「そうなんだな」


 ─────ならば、次に。

 聞くことがある。


「じゃあ、もう一つ。ソフィア……そのハンドガン、何処から出した?」

「え? 出したっていうか、今作ったんだけど」

「はい? 頭大丈夫ですか、ソフィアさん?」

「むっ、それ凄く失礼。私だって今ちゃんと考えてるんだけど……確か、昔覚えた創生魔術とかいう技術で魔力を元に作ったはず」


 確か、って……。

 多分コイツは感覚的に動くタイプ、所謂、ミュージシャン的な性格なんだろう。自分の戦い方の理論(ロジック)を忘れるヤツとか。ゲームでも見たことないぞ。


「なんでそんな事を忘れるんだよ……」

「え? だってこの銃を作ったのは凄く昔だもん」

「どういう意味だよそりゃ、まるで─────昔、一回だけ作ったみたいな言い草だが」

「うーーん、半分正解で半分不正解かな。今は昔作った銃を、要らない時は分解して。必要に応じて、分解した時の魔力を使って体に染み付いた設計図? 的なモノを使って作ってるもの」


 ふむと頷く。そんなもんなのだろうか。

 ああ、そんなもんなのだろう。取り敢えず、色々な事を教えってもらったのだから。


「なるほどな、少しばかしだけど理解したよ。また色々教えてくれてありがとうな、ソフィア」

「ええ、そりゃ勿論」

「じゃあ、俺は風呂に入ってから寝るよ」

「うん! おやすみ!」


 後に俺は風呂に入って、そのまま汚れた制服を洗濯機にぶち込み。又、ジャージに着替えて歯磨きをこなし、二階の自室へと向かって眠りについた。

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