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二十四話【略奪構築】

 ……目の前に広がる景色は、まるで別世界だ。斜陽はまだらんらんと輝いているが、それは鬱蒼と生える木々に遮られ。森林公園は薄暗い。


 入口は、ちょっとした石造りのアーチ。

 そこを通過して道を歩むと、道の両端に木々が左右対称に並ぶのが見えてくる。……昼にいけば、何の変哲もない場所だ。

 だがしかし、今は─────例の怪奇事件の所為だろうか、入口は警察の貼る黄色の「立ち入り禁止」を勧告するテープがびっしりとあって実に奇妙。


「なんか……空気が違うな」

「ええ、そうね」

「……というか、今の森林公園は立ち入り禁止らしいが。どうするんだ?」

「? こんなのただのテープでしょ。どうするもなにも、ただちょっと飛び越えればいいだけ」


 ……特に言葉はない。驚くことでもない。コイツが常識外れだというのは、初対面の時から分かっていた。

 だから、静かに俺は頷く。


 幸い、周りに警備員などはいない。


「はいこれ、先に持っていた方がいいでしょ」

「ああ、そうだな。ありがとう」


 俺は長細い袋を彼女から受け取った。

 左手でそれを掴めば、ずっしりとした重さが伝わってくる。流石は刀だ。と思いながら、俺はただ背負う。視界は、森林公園の先の先。


「準備も整っただろ。行こう」

 俺は合図する。だが、彼女は動かない。


「少し待っててね。一応、危ないところに入るんだから─────。一般人には見えないように結界式魔術を張っておくわ」

「結界式……魔術?」


 俺の疑問なんて、差し置いて。彼女は厳かに森林公園の先へと手を突き出し、呟く様に詠唱を開始した。


「生は循環し、死と成れ。又を死は循環し、灰と成れ。それは再び、元来に循環し。

 ─────汝、恐れよ。我を避け、死を避け、事象を裂け。故に我姿顕現せず至り。眼光は嘲笑(わら)い、姿を無に帰せ。

 闇を正視し、姿は逆光に。世界干渉に我が(ことわり)よ!



 ──『無影の姿に錯覚せよ(アビス・リフレイン)』────!!!!」


 そんな彼女の声は虚空を絶ち、大空を舞う。同時刻、彼女を中点として淡い白と黒が混じり合った光が広がった。

 世界は天使の声に震え、鼓動を繰り返す。


 ……世界が、変わった。


 果たして。今の一瞬で何が起きたのかは、具体的な何かは分からなかったのだが。ただそれだけは観測出来た事象であった。


「えーーと、ソフィア。これ、なんだ?」

「ん、簡単に言えば人除けの魔術よ。結界式魔術っていわれるヤツ。結界とかは、人間の文化にも考えとか概念、存在としてあるはずよ」

「ま、まぁ……なんとなくは分かるけどさ」


 結界と言われたら、まぁ分かる。

 だが。聞きたいのは、そんな名前じゃなくて。今起こった事象で、世界がどういう風に変化したということなのだ。


「なんていうんだろうな。その、ソフィアが今使った結界はどういう効果なんだって? ……俺は気になったんだ」

「あ、そういう事? えーーとね、今使った結界式魔術はね、そのジャンルの中ではトップクラスに基礎的なモノで。魔術を扱う者には簡単に見破れるけど、ただの一般人には見破れないというもので。その結果を破れない一般人は、不思議とその結界の辺りから離れてゆく。という効果があるわ」


 ─────つまるところ、そうか。


「……つまり、結界を発動しているにもかかわらず。この結界内の中に、範囲にいる俺たち以外のヤツらがいたら。少なからず、ソイツらは魔術師共か……」

「悪魔達、ってところね」


 合点がいく。成程、これで敵と一般人の見分けが、先程よりはしやすくなったというワケか。……ま、元々ここは昨夜の事件で人は少なくなっていたが。

 なにせ、自分が死ぬかもしれないという可能性を孕んだ所には、どんな馬鹿でも行きたがるはずがないのだから。


「よし、準備も整ったし。行くわよ、ワタル」

「おーけー……うん、ああ。問題ない」


 俺とソフィアは二人で、黄色の(テープ)を飛び越えて。

 森林公園の中へと足を運んだ。


 ◇◇◇


 公園の中は、斜陽を木々で覆い防いでいるために暗い。まだ太陽は沈んでいないというのにも関わらず、まるで夜だ。

 空気は予想通り─────最悪。色々なモノが腐った匂いがする。


 森林公園とは、空気が良い所ではなかったか。それは、俺の勘違いだろうか? 俺の視た幻想だろうか? 答えは、否。いいや、最早前提から間違っているだろう。

 もうここは、森林公園なんて生温い場所ではなく、ただの死地だ。


 もし。そうだとするならば、ああ確かにと思う。

 戦時中のセカイも、こんな感じに腐ったモンだったのだろうか。……ああ、それならばこの世界は本当に─────。

 言いかけて、やめた。それは自分に対する侮辱にもなるから。


「……どうだ、ソフィア。ここ、何か。お前の追っている敵の手掛かりになる感じはあるのか?」

「どうだろ……。ま、どっちにしろ残り香り的なモノはどうしても隠蔽することは出来ないのだし。そこから地道に辿っていけば、最終的には芋づる式に見つかるわ」

「そんなもんなんだな……」


 思っていたより、作業は地味で、地道なものだ。

 この広い森林を手探りで捜索し、何か手掛かりになるモノを探す……という。ま、なんとも非効率。だが、改善案は思いつかないし俺は黙って手伝う。


 それから。ただ探し続けて─────。


「むぅ。やっぱりもう、すっからかんね」

「探しても……なんもないな」


 探し始めて、数十分が経過した。残念ながら、もう日はかなり沈んでしまっていて。かなり危ない状態に俺たちはいる。

 喉も渇いてきて、汗は冷や汗に。体は熱を忘れて、冷たくなってきた。


「ソフィアは。後、どれぐらい探すんだ?」

「んん、そうね。……なんか今日はやっぱりダメっぽいし、帰ろうかな?」

「……それには賛成だな、俺も。なんかこれ以上ここを探しても、進展なさそうだし」


 俺はゆっくりと、辺りを見渡す。

 もう辺りは暗くなっていて、正直ほぼ何も見えない。……んま、ここでお手上げという感じだ。


「じゃ、帰りましょう。別にそこまで急がなくていいし……」

「あ。そういえば、気になっていたんだけど。……その、ソフィアは人除けの魔術を使っただろ? 俺は魔術なんて全然分からないし、解除の方法も知らない。なのに、なんで俺はその結界の効果を受けていないんだ?」

 そういえば、と。先程のことに関しての疑問点をソフィアに言う。


「そりゃ、発動する時に。対象にしない相手を設定出来るからね」

「ほ、ほう? ……それで、俺をその効果の対象から外したと?」

「ええ、そう。元々は範囲内にいる全員にその効果が発動するけど、発動前に指定しておけば仲間に効果が発動することはないっていう仕組みよ」

「そりゃあ、便利だな」


 疑問はすぐさま解決してしまった。

 ……ま、帰るか。空を見上げてと、もうすでに月が登ってきている。

 ああ、もう夜か。


「……よし、行こうか」

 俺は、彼女を一瞥してそう言った。



 ───────────────違う。

 俺は彼女が先程まで居た場所を一瞥し、そう言った。そう。気が付けば、その場所には、その場所にいたはずの彼女が居なかったのだ。


「……は?」


 空気がどよめく。重く、苦しく。

 刹那。……空を見上げた一秒間。その間に、彼女は何処かへと消えていた。一瞬だけに困惑し、後に。更なる困惑が俺を襲った。

 先程のあのまばゆい天明(てんし)がいない。


「……え、は? ……おい、ソフィア??」


 もう一度。俺は辺り、三百六十度を見渡しながらも叫んだ。

 ……だが、反応はない。視界は深淵に、鬱蒼とした森林の木々達は歌う。……酷くつまらない『びゅうびゅう』と靡く歌声に苛立ちを覚えながら。

 闇は俺の心の中を浸透するように。


 恐怖(オビ)える。


「─────なーーんてねワタル! 驚いた、もしかして驚いた⁉ いえーーーい!! ドッキリ大成功てね!」

「……はい?」


 だが、そんな恐怖もつかの間。何故か、上から白い悪魔が降ってきた。

 そして、ニヤニヤと気味が悪く笑いながらそんな事を暴露してくる。


「私はねーー、実は木の上にジャンプして。急に私がいなくなったら、ワタルはどんな反応するのかなぁって観察してたんだ! アーハッハッハッハッ!!!」

「お前……本当に、白い悪魔……だよ」


 俺の喉からは、安堵混じる間抜けな声しか出てこない。

 くそう。自分は、こんな悪魔に惑わされしまうぐらい弱いヤツだったのか。……情けない。……弱いのは事実なのだが。


「いやぁ、面白かったよ? やった甲斐があったもん」

「─────お前さ、本当に。悪魔じゃないのか?」

「え? 全然っ、そんな事ないんですけど⁉」


 もうワタルったら酷い、と頬を彼女は膨らませた。

 ふざけるな、馬鹿が! ……こっちがどんだけ心配したのか、わかっているのか。そんな独りよがりなセリフはどこまでも思いつく。

 だけど、そういう事をいう性格は俺には似合わない。


「ま、良い。……お前がそういうヤツだってのは、最初から分かってたしな」

「むむ。それはもしかして……私のこと、馬鹿に……してる?」

「ああ、そうだよ。ああっ!!!」

「あーーー! もうっ、ワタルは意地悪ね!」


 意地悪な事をされたら、意地悪な事をし返す。そんなことは当たり前の、この世の中における摂理だ。俺はただ、当たり前の事をしただけだ。


「……こんなの、当たり前の事さ」


 そんな事を呟きながら、眼前にいる彼女を嘲笑していると。


「あ……ソ、フィア?」

「え? どうしたの、急に。眼を点にしちゃって」



 ─────目の前には、見覚えのあるバケモノが映り込んだ。



 彼女の隣にだけ注視する。……俺は思わず、絶句した。

 ソフィアの隣にいたのが、隣にいたのは、見覚えのある黒塊だったから。……ダレダ、オマエハ。脳は硬直する。

 幽霊のように、闇の中から、深淵の中から、ゆらりとそれは現れた。


『ガァ”””””? ””””””!?』


 それは、酷く醜い存在。黒塊は蛆が湧いた灰色の手を、ソフィアへと伸ばす。

 それはあまりにも一瞬の事で、彼女は動けなかった。否、気付く暇すらなかったのだろう。だが、それに対して気付いていた俺も動けない。

 ……意味が、分からない。ただ、命ずる。

 動け、動け、動け、動け、俺の脚と。


 一歩。前に出て、彼女へと手を伸ばした。


「え……?」

『ガァ”””””””』

「ま、て─────」


 だが、届くワケがない。三つの声は輪廻する。

 ……間に合わない。


 終わる。彼女が呆然と呟いた直後。己の視界は赤色に染まった。

 ……彼女からの声は、もう聞こえてこない。代わりに、血しぶきが滴る音だけが。ぶしゃり、そんな音を立てて彼女の腹を、黒塊の腕が貫通する。

 鼓膜を通過して、その音を視た。


「─────あ?」


 意味が、分からない。

 己の視界の先には、赤色の液体を吐きながら崩れ落ちてゆく女の姿だけが映る。……朦朧(もうろう)とした意識下で、俺はただソレだけを直視。

 右腕が、ぎしりと痛む。


「……あ、ァ?」


 喉が震えて。渇いて。傷んで。

 己の右腕が、世界を侵食する。食らいついて、うるさいぐらいの静寂だけを吐き出した。月はこんな世界でも、未だらんらんと輝き続けている。


 ……アタマが、イタイ。

 ─────視界は更にアカク。右腕は更に、イタむ。

 オマエハ、ナニヲシテイル。心から発せられる、死の宣告。言うなれば、困惑と絶望。


 困惑は、こんな事をしている自分に。

 絶望は、こんな事をしている存在(あくま)に。


 目の前に存在する事象は、直視出来ぬ程に醜いモノだ。


「あ。お前……何、して……ル?」


 視線が眼下に向かう。そこには、ただ赤色の液体まみれになって倒れる白鳥の様な、白髪の美しいオンナの姿がある。

 ただ、それだけだ。だというのに、脳は。理性(しこう)は理解を阻んだ。


 ─────何が、起きている?


 ただの現実を、俺は視ない。

 何故だろうか。ただ、この目の前にいる女が─んだ。それだけなのに。

 俺は何故、理解を拒んでいるのだろうか。それは、単純明快なコトだった。……理解すれば、俺は気が済むまでに暴走するからだ。


 それを、本能が、抑止している。

 ただ、それだけの話。


 だというのにも関わらず、何故。俺は、動かない?


 ……この程度のコトが起きる可能性など、最初から示唆されていただろう。


 ……この程度のコトが起きる可能性など、最初から知っていっただろう。


 ……この程度のコトが起きる可能性など、最初から認めていただろう。


 だというのにも関わらず、何故。俺は、動かない?


 虚空に乞える絶望と懇願。現実への理解拒否。それはとうに叶わない。……それはただの一般的な男子高校生である志摩弥(じぶん)も分かっている。

 だけど、なんで、こんなにも、俺は─────動揺。しているんだ?


 ああ。ああ。ああ。

 ああ。ああ。ああ。

 ああ。ああ。ああ。


 もう、何も分からない。

 ……視界が、気が付けば真っ暗闇に堕ちた。


 ◇◇◇


 蘇る過去の記憶。即ち、走馬灯。

 俺はただ、跪いてソレを視た。


 ─────古い和風の屋敷で。

 俺が。ダレかに、剣術を教えてもらっている過去。

 ……今まで思い出した事も、体験も、身に覚えもない過去。

 そこで俺はただ、ダレかに剣術を教えてもらっていた。


「弥。……俺はだなお前が嫌いだよ」



 優しい男の声が、記憶の彼方を通過する。



「なんでかって? そりゃ、お前が俺なんかよりもずっと優秀でさ。お前は一度死んでるっていうのにさ……大きくなれば、すげえヤツになれるからだろう。

 ま。そんなのは建前で。俺は───として、嫉妬しているって話だ」



 優しい男の声が、記憶の俺に話しかける。



「まぁ、お前が大きくなる頃には、こんな話忘れてるんだろうけど。お前の力はな、すげぇんだよ。……なんでも”奪える”」

『奪える……って、どういう事?』



 優しい男の声に混じり、記憶の俺は話しかけた。



「さぁな。そりゃ、俺にも分からない。……だけど、これだけは覚えておけ。お前は忘れちまっているかもしれないが。その力は一般人を遥かに凌駕した、特異的な特別な力だ。それをお前が使いこなせるようになった時、使える様になった時……それは、お前が本当に使いたいと思った時だけに使え」

『……使いたい、時?』

「そうだな。……例えば、だが。”人の為”に、とかな」


 “人の為”に。

 ……。……。……。


 ─────記憶(かこ)が断絶する。

 過去への接続(いしき)消失(ショート)して。意識が歪み、必然的に現実へと巻き戻された。


 人の為に。”奪う”……力?


 ◇◇◇


 心底響く頭痛で目が覚めた。なんだろう。何故、自分はまだ生きている。

 俺はもう一度、ゆっくりと立ち上がって、目の前にいる─────悪魔を視た。右腕はズキズキと、狂う程に痛い。

 雰囲気は今の最悪だ。気を抜けば、その一瞬だけでも死にそうなぐらいに。

 眼下を覗けば、彼女(てんし)が倒れている。

 チマミレで。


「は、ァ─────ァあ」

「ア””””””?」


 だが、焦りはない。不思議と、やるべき事は見えていた。

 それこそが自分が生きている理由だと。


 息を吸って、吐き出す。

 右腕に力を込めて、無意識下で解放させる。記憶は未だに、脳裏に焼き付いていた。

 事実だけを、真実だけを、嚥下(えんげ)する。

 右腕の、服の袖をたくし上げて。



「─────ただ一つ始動せよ(シー・ワン)



 (つか)え。乖離(うしな)った記憶(かこ)の向こうへと。

 呼び覚まされる記憶に、自然と口は開いた。


 さぁ、開け。開け。開け。

 もっと。先へ─────奥へ。深みへと。

 埋め尽くせ。己の記憶の最後尾(いま)へと。


 呼び覚まされる記憶に、自然と体は動いた。


 右腕全体が、充血した様に赤く染まりつくす。

 それに同期するように、世界もまた赤く染まって。赤色の空と大地が生まれた。

 地平線なんてもう、存在しない。


 静かなる世界は鼓動して、嘲笑する奴らは全て。



「─────又に呪える対象を(ワー・セカンド)



 本能はただ、詠唱する。意味の分からない状況で笑いを堪えながら。

 自分は闇を正視して、俺の大切な存在を汚したゴミに対して長細い背負っていた袋から日本刀を取り出して、向けた。


 力は流動し、日本刀に流れ着く。

 赤色の世界だけを見据えながらも、俺はただ。

 眼前に立つ、俺の大切なモノを奪ったヤツの命を、存在を、概念を。



「”略奪構築(ロスト・マギア)”─────ッ!!!」



 奪う。”その力”を構築する。

 ぐらんと揺らぐ視界で、見据える未来に。

 又、息を吹き返す様に俺は眼前の対象に向かって、走り出した─────!

 目的簡単。目の前の(ゴミ)は幸い鈍い。


「ァ”””””””?」

「─────お前が俺のモンを奪ったんだから、お前も命ぐらい奪われる覚悟はあるよな?」


 銀の影が、目の前までに迫る黒塊(あくま)を一閃した。

 だが。カキン、と音を立ててそれは弾かれた。……だけど、そんなのは無意味すぎる抵抗だ。

 腕に力を集中させて、力を行使する。


「─────」


 一瞬だけ。その一瞬の後、再び振り翳された刀は黒塊にめり込む。


 悪魔とは、魔力の塊だ。魔力とは又の名を生命力。

 ……それを奪えば、コイツらは消滅する。ああ、成程。俺は今まで対峙してきた相手(あくま)共はこうやってコロシテきたのか。


 完全なる理解。


 俺はただ、悪魔に触れた日本刀に能力を伝播させこの悪魔に宿る魔力を略奪し─────。最大級に憎悪を込めた神撃にて、斬り込む。


「─────ハ」


 繰り出される斬撃。

 それは音もなく眼前に立つ悪魔を切り裂いた。

 そして。己の生命力(まりょく)志摩弥(おれ)に奪われた事により、黒塊はそのまま光の粒となって深い闇の中へと消えっていったのだった。


 この戦いは、俺の勝利であっけなく終わった。


 それと同時刻。

 ぽつり、ぽつりと天から水は零れ落ちてきて。


「……ぁ、ああ」


 倒れる少女の前に歩いて、崩れ落ちる様に座り込んだ。

 倒れる美少女を、優しく抱き上げて抱擁する。

 彼女の肌は、体は…………暖かい⁉


「……あれ」

「ん、どうしたのワタル? そんな辛そうな顔して」

 ─────どういう事だ。


 抱き上げた彼女の瞳は、未だ衰えず。キラキラと輝いた黄金。

 綺麗な白髪からは生命力がぐんぐん感じる。

 ……あれ、全然コイツ生きているんだが。


 彼女の腹部を見てみれば、貫かれた筈の怪我はいつの間にか消えていた。

 ただ彼女の着ていた服が、少し赤く染まっているだけ。

 ……あれ、全然コイツの怪我が見当たらないんだが。


「……お、おい。ソフィア、お前……さっきの、傷は?」

「んんーー?? ああ、あんなのちょちょいのちょいで治っちゃうよー? ちょこっと痛かったけどね」

 ……あれ。……あれ。……あれれ?????


 彼女は笑う。

「私は全然平気なのに。ワタルがすっっっごい頑張ってくれたから、私……思わず見惚れちゃって起き上がるの忘れてたわ!! あははーーーー」

「─────は、はぁ…………なんだよ、そりゃあ」


 ……どうやら。心配した俺が馬鹿だったらしい。

 呆れと安堵してため息が出て、頭痛と眩暈が俺を襲った。


 それが腕の力を酷使した所為か、それとも人外的なコイツに理性が疲れたのか。

 ─────それは、分からない。

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