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二十二話【学校にて】

 いつもの死神の丘を越えて、校門をくぐる。


「はあ……くそ、やっぱり。かなり、疲れる……な」


 元気な時でさえ、ここを越えるのは辛いというのに。腹の怪我が完治していない状態で登るというのは、やはり無理があったか。

 荒れた息を整えながら、俺は駐輪場に自転車を止めた。


 呼吸は波長に合わず、でこは微かな熱を帯びる。


「─────疲れた。だけど、この怪我を負った状態で遅刻せずに登校出来たんだし、及第点だろ」

 そう自分に暗唱して、校舎に入り自分の所属しているクラス、一年三組へ向かった。


 ◇◇◇


 扉を開けて、教室の中に足を運ぶ。

 中はいつもの様に騒がしい……いいや、いつもより。

 かなりの賑わい具合であった。


「─────」


 俺は静かに、自分の席へ座る。

 少しだけクラスメイト達からの視線を感じたが、極力無視。……ま、俺が今視線を浴びるのも無理はないだろう。

 なにせ、遅刻して学校に来た挙句、その場で吐血してまた帰ったのだから。

 普通なら殿堂入りレベルだ。


「ようよう血だらけクン、元気にやっているか?」

「ん……ああ、(まなぶ)か。うん、怪我も治まってきたし比較的……元気かな」

「あんまり、無理をするんじゃないぞ。最近は更に、或間町(ここ)は物騒になってきたからな」


 俺を見かけるや否や、その男は走ってきて俺に話しかけてきた。

 青髪で筋肉質なその男の名前は─────土佐学。俺の竹馬の友ってヤツである。


 ……どうやら、コイツは俺のことを心配してくれているらしい。

 珍しいな、と思う。コイツはそんなの柄じゃないというか、そういう性格ではなかった気がするんだけども。

 何かあったんだろうか。


 というか、更に物騒な事て……溺死。あの怪奇事件以上の物騒な事でも起きたのか? 俺の疑念は増幅するばかり。

 だから、聞こう。


「なぁ、学。更に物騒て、どういうことだ? もしかして、あの怪奇事件よりもヤバイ事件でも起きたのか?」

「あーー、もしかしてワタル。お前、今朝は急いでいたりしてテレビは見てなかったのか?」

「え? 別に特段急いでいたわけじゃないけど。テレビは見なかったな……」

 彼の声色が曇った。


 自分(オレ)の疑問に、彼は率直に言わない。

 なんだ。そんなにヤバイ何かが起きたのか? 妄想は膨らむ、ヤバイ事件となると……放火事件とか、大爆発とか。その他諸々と。……邪推が。


「そうか……」

「ん、どうしたんだよ学。顔色が曇ってるぞ」


 だが、俺の指摘なんか気にしないように彼は一度辺りを見渡して─────。その一秒後、耳打ちしてきた。微かに、極小に囁かれる。


「コレはあまり大きな声ではいえないが……あの怪奇事件があるだろ?」

「あ、ああ」


 変な前置きに俺は困惑するも。次の瞬間、それは必要だったと理解した。

 学は呟く─────。



「昨夜。或間町駅裏にある森林公園で溺死体が十三人分見つかった、らしいぞ……」

 その、あまりにも恐ろしい事実に。



「─────」


 思わず、俺は言葉を失った。

 そして、同時に色々な事を今更に認知する。


 コイツがあまり大きな声で言えないと言った理由を。

 教室がやけにいつもより騒がしかった理由を。

 学が変な前置きを置く理由を。


 全て、この話のヤバさが関係していたのだ。

 今更になって、全てを理解した。


「……そんなの、残酷過ぎるだ、ろ」

「ああ、俺もそう思う。誰が犯人だか知らねえが、こんなにも大勢の人が亡くなったんだ。……学校では、この事件を危険視して学校を一時休校するんじゃないかって話題になってる」

「そう、か」

「そういえば、或間駅の方のショッピングモールでもいきなりみんなが消えるとかいう事件が起こったらしいけど。どっちも、犯人は不明らしい」


 ─────犯人。ソレを、俺は知っている。


 想起する悪魔の姿。

 ファクト・モロ・ディファイアン。


 ……ソレは、予想以上の害悪(ゴミ)だと今更過ぎる理解だった。

 そして、その話を今現在ただ傍観しているだけの己もゴミだと自虐する。


 右こぶしに力を込めて、現実に暴言を吐く。思い出す惨劇(したい)

 屍だけで構築された大地。思い出せば─────眩暈と吐き気が俺を襲う。

 どんだけ人を殺せば気が済むというのか? 

 正直、また今すぐにでも学校を飛び出してアイツを殺しに行きたい。


 ─────だけど、それはあまりにも無謀で、愚かな行動だ。


 今の俺では、アイツには勝てる筈がないし。

 アイツがどこにいるのかも分からないし。

 この学校の人達に、また迷惑を掛けることもできない。


 ……それに、約束したじゃないか。

 ”ソフィアに”協力すると。ならば、一人でやろうなんて愚行はしない。


 それが、第一だ。


「……ダメだな。あまり、そういう話はしない方が良いだろ」

「お。珍しく食いつかないんだな、ワタル」

「……まぁな、最近ぶっそうだしさ。言い方が悪いけど、慣れてきたかもしれない」

「ふーーん。ま、この話はしてて気持ちがいいものでもねぇし。話を変えるか」


 ああ、と俺は賛成する。

 こういう話はあまりしない方がいい気がする。なんたって、今のコチラ側の力ではどうこう出来る問題でもないし、こういう噂話をして広げていくのはただ不安を煽るだけの扇動的な行為になるだけだ。


「……そういえば、お前の兄。階段から落ちて、怪我をしたとかなんとかと聞いたけど……大丈夫そうなのか?」

「ん? 兄は別に平気だ。アイツはそんぐらいで折れるほど(やわ)な人間じゃあなに。なにせ、俺の兄貴だからな」

 学は腕を組み、他人事かのように口を走らす。


 なんだそりゃ。……もう少し心配してもいいんじゃないか、とも思う。

 まぁ、でもこれが兄弟の関係なるモノなのだろう、とも思う。

 ……だが自分は一人っ子で、そういう類の話には疎いから変に言うことはない。


「そんなもん、なんかね」

「そんなもんだよ、兄弟っのはな。……それより、お前の方こそ大丈夫なのか? その腹の怪我。全然、治ってねぇだろ」

「─────」


 すると、その攻撃(しんぱい)はコチラ側に投擲された。

 ……俺の怪我、か。そんなのは全然、大丈夫だと思っているんだけども。

 正直、分からない。


「んま、今ここに元気にお前と喋れてるぐらいだし。大丈夫だよ、ちとばかし痛いけれど。言い換えればその程度の怪我だから」

「……ワタルクンのその図太い根性は羨ましいな、実に!!!!」

「ははは、根性(あきらめなさ)には定評があるんだオレ」


 学は溜息を吐きながら、俺の机に乗り出して先にある窓を見た。

 どうやら、呆れている様子。


「俺もね、これぐらいムキムキだし。お前ぐらいの、そんな根性を持っていれば……今頃はハーレム帝国を築けていただろうな」

「そりゃ、そうかもな。でもこのクラスメイトの女子達はコエー奴らばっかだぜ? ……ま、それを差し置いてもお前クラスのイケメンだったら、やろうとすれば誰でもオトせるだろ? 別にそれ程、困ることじゃあないんじゃないか?」


 その言葉に、彼は自分を一瞥し萎える様に言った。


「それが出来たらどれだけ楽だかね⁉ ワタルさぁん、このクラスメイトの女子達はみんなお堅い人ばかりですわよ」

「あーーー、うん。そうだな」


 ……ま、恋ってのはそういうものではないしな。

 顔で決めて恋をするのもアリっちゃアリな話だが、それは紛れもなく体目当てだろう? 極論、全ての恋がそうかもしれないけど。


 なんか、それは、俺からすれば、良くない気がする。


「世界ってのはだな、そんなにも単純なもんではないだろう。俺も恋する相手……んーーや、狙っている相手は何人かいるが。俺みたいな厨二病(キチガイ)によるほど粋なヤツな訳でもないしな」

 彼は目を細め、遠き理想像(みらい)を見つめて呟いていた。


 話を聞く限り、学は随分な苦労人らしい。

 学も学なりに、疲れていたり苦労したり色々な体験をしているのだろう。……当たり前のことだけど、歩む人生が違うんだから。

 人それぞれ、違う苦労をするのだ。


「随分な苦労、ご苦労様です。学クン」

「はぁ…………吞気で良いですな、ワタルクンは。良いよな、お前には超美少女幼馴染(ヒロイン)がいるんだからな!!」

「はい? 何を言ってるんだよ学は…………」


 その時にふと、俺は隣にある空白の席を見た。

 ─────そこには、木伊崎(きいざき)日葵(ひまり)という女生徒の席がある。

 超美少女な幼馴染ヒロイン……。


 木伊崎日葵は、俺の幼馴染である。

 そして、ピンク色の派手な髪色が似合うその美少女。

 ……条件は、学の言葉と重なる。


 つまるところ、コイツが言うヒロインは日葵という事か。

 別に俺には、そんな気はないんだけどな。


「む。俺はな、別に日葵とはそういう関係でもないし……俺程度じゃ、彼女の横に立つのは不相応だよ。日葵はみんなにモテモテだし」

 彼女を一言で表せば、天然。それがクラスどころか、学年中の男達を虜にしているのだ。


「ふーーん、そんなもんかね……」


 学はつまらなさそうに、横目で天気を伺う。

 それと同時刻。─────朝のHRを告げるチャイムが鳴り、担任の柳沢(やなぎさわ)哲馬(てつば)がクラスに入ってきた。


「よーーし、お前ら時間だぞ。席につけー」

 学はそそくさと、自分の席へと戻っていった。


 ◇◇◇


 四時限目の授業が終わり、昼休みになる

 辺りは授業中の静寂から解放されて、朝と同じ様な騒ぎの渦が広がっていた。

 さて……と。俺はどうしようか。


「ん……そうだ、な。学食で腹を満たすか」


 そうした。だから俺はそそくさと食堂に向かい少ないへそくりから支払い『カツ丼』を頬張った。

 安定のカツ丼て感じで、劇的ではないが普通に美味しかった。

 因みに、食堂も馬鹿みたいに賑やかだったが、話す相手がいなかったので俺は端っこで一人で飯を食べましたとさ。


 ……と、思いたかった。だけどしかし、それは叶わない。

「な、ワタルよ。……お前はさ、アレか? もしかしてボッチなのか?」

 隣には、何故か学が座っていた。


 だが、それならばまだ良い……ッ!!!

 だがしかし、その学の対面には。学校一の才女と名高い『秋葉澪』が同席していたのだ。意味が全く分からない、状況がつかめない。


「えーーと、あの……」

「いえ、そのままで結構です。……そのまま、私なんか気にせずにカツ丼をお食べ下さい」

「は、はい……」


 対面にいる彼女に理由を問いても、聞く耳を持たれない。

 何か事情でもあるのだろうか。

 隣に座る学は学で、傍観しているだけだ。


「─────はむ、はむっ、はむっ」


 気まずい最悪な空気の中、俺は独りで食事を摂る。

 なんで、こんな状況に俺は立っている。陥っているんだ。……どこかで、選択肢を間違えたかと不安になる。


 カツ丼を食べながら、俺は対面に座る彼女を見た。見るな、気にするな。などと言われても、そりゃ気になる。

 でも仕方がないので、俺は静かにカツ丼を食べ進めていると……。


「志摩弥。貴方の腹部にあった怪我の調子はどうですか?」

 退屈そうな眼光で彼女は俺に聞いてきた。


「……澪先輩の家で医者に診てもらったおかげで、治ってきてますよ。本当に感謝しかないです」

「ふむ。それは良かったです、……もう十分に動ける感じですか?」

「え? まぁ、そうですね。無理はしませんが、もう動けるとは思います」


 意外だな、と思う。

 前に見た時。駐輪場で出会った時と昨日の彼女の印象はかなり違っていたから、不安ばかりがあったけども。

 彼女は彼女なりに、心配してくれていたのだ。


「分かりました、それは良かったです。でも、無理はしないでくださいね。最近はここら辺物騒ですから」

「……ええ、分かってます。それぐらいは。俺もこんな大怪我しちまったんだし、今はそんなことならないようにと管理は慎重にしてるつもりです」

「そうですか」


 彼女は、その自慢の黒髪をひらひらと吹かす。

 随分と心配してくれている。ありがたい、といえば、ありがたい。……こんな他人の俺をこれほどまでに心配してくれるとは、やはり彼女は優しい少女なのだろう。


「弥クンは、父様や教頭から話に聞く限り……平凡な成績で、乱雑なお方と聞いています。そして、突発的な暴走がある人だと、いう情報も……」


 彼女はクスりと笑いながら、奇妙に俺をからかう。

 だが、それは事実。俺はただ苦笑した。……あまり、この人についてはよく分からない性格。


「ははは……俺はですね、気が動転しやすいんですよ。ま、それが俺の長所でもあって短所てな感じなんですが」

「ふむ。面白い解釈ですね、弥クンのは。気が動転しやすいのが長所です、か」

「ええ。まぁ、言い訳にしか聞こえないですよね……」

「いやまぁ、確かに言い訳にしか取れませんが。それでも……奇形な長所で面白い。とは思いましたよ」


 ……面白い、だと?

 更に意味が分からなくなる。

 俺の言い訳は聞いてて、面白いのか。

 疑問が浮かぶ。


「面白い─────です、か」

「……おっと、これはおいたが過ぎたかもしれません。なにせ私も最近は多忙な身でして、これぐらいの狂いは許してくださいね?」

「は、はぁ…………別に怒ってはないですけども」


 ……だけど。

 少し、変わった人なんだな。とは思ってしまった。


「……ま、志摩弥クンの怪我が大丈夫そうなら、別に問題はないです。私はただ、ちょっと気になって確認しただけですから。では、また」

 すると、彼女は立ち上がりそのまま立ち去っていった。


 一体、あの人は何が目的だったのだろうか。

 釈然としないまま、彼女は消えていってしまう。

 そんな俺を横目に、青髪の男は呟く。


「はー、全く……なんなんだ。澪先輩とやらは」


 あまりにも落胆したような声に、俺は思わず驚いた。


「お、学。どうしたんだ、そんな病んでるヤツ見たいな声だしてさ」

「あの、だな。……実の話をすると、澪先輩がだな。俺とワタルと一緒にランチをしたいから、ワタル君の所に連れてって下さいな♡ みたいな事を言われてだな。俺も彼女を狙っていたから、その提案に乗ったんだが─────」

「─────このざま、ということか」


 うんうん、と冷たく息を吐きながら彼はまたもや落胆を見せる。

 どうやら、随分と予想していたイメージとは異なったらしい。

 涙目なのか、トホホと仏面になっているのか、曖昧な学は口にする。


「いやチクショー、ですよ本当に。……何が狙っている彼女とのスクールランチだ⁉ ……それは、あまりにも馬鹿てる!!! あーーあ、もう落胆だ。澪先輩はワタルにしか話しかけないしよ」


 ……随分とした期待は、無惨にも容易く崩れ去った。というワケ。

 学は学で可哀想だな。でも、入ろうとすれば自分で話の中に介入出来ただろうにとも思う。学はコミュニケーションが苦手な訳でもないし、やろうとすれば出来たはずだ。


「話したかったんなら、お前も話に入ってくれば良かったじゃないか」

「いやですね⁉ ワタルよ、話つってもお前の怪我の話ばかりしかしてなかったじゃん⁉ それじゃあ、女子の恋のキューピットは掴めねぇつーか」

「うーーん。そりゃ、残念だったな。でも俺もあまり彼女の意図は分からなかったぞ? 俺だって、自分自身で腹の怪我の話をしたかった訳じゃないんだ」


 ふーーん、と鼻息を荒げながら学はプンプン状態。

 そして、その間に俺はカツ丼を平らげた。いつになっても到達(りかい)しない、彼女の意図。本当に、……ただ気になっただけなのか?


 いや、そんなのは考えてもムダだ。それに疑心暗鬼とはどれ程愚かな事なのか、人を信じずに誰が俺を信じる……的な?

 重要な時になった時に、そういうのは関わってくるのがこの世の摂理。

 だから、俺は彼女の良心に賭けてみた。


「ごちそうさまでした」


 ─────食器を片付けて、俺は学と共に教室へと戻る。

 そして、昼休みが終わるチャイムが学校中に響いた。


 ◇◇◇


 ……。

 授業が全て終わり、皆が下校の準備をし始めた。


「いやぁ、疲れたわ今日の授業も。どうする、家帰ったらハイパーハンターやる?」

「俺はいいかな。今日はね、新しく買ったVRゲームしなきゃだからな!」

「まじ学校たるいんですけどー。あー家帰ったら風呂入って、おねんねしよ」

「家に帰ったら? そりゃ、筋トレだろ馬鹿野郎!!!」


 皆が帰り支度をする教室には、様々な声が飛び交っている。

 ”ダルい”授業からの解放。それは生徒たちにとっては、昇天するに同意義といっても過言ではない。

 みんながみんな、今日についての罵倒を言い合っていた。


 その最中、俺は独りで帰り支度を進める。

 ……と言っても、学校用のカバンに教科書と参考書などを詰め込むだけであるが。


「あーー、今日の授業も疲れたな」


 クラスを俯瞰すると、眠そうに欠伸を垂れている青髪男の姿があった。……どうやら、もう帰りの支度が終わり今にも深い眠りにつこうとしているらしい。

 こういう事の行為に関しては、何故かアイツは他のヤツらの一線を画す。


 ……なんて、他人事を傍観していないで。俺も早く帰り支度を済まさなければ。そう想起して、急ぎ気味にコチラのやるべき事をした。

 帰り支度も終わり、下校の準備が完了した。


「よいしょ、と。……行くかな」

「よう、ワタルーー。俺も一緒に帰ってやる」

 自席から立ち上がり帰ろうとすると、学はいきなり俺に肩を並べて、笑いながらそんな事をかます。

 先程見えた、生死の垣根を彷徨う睡魔の魔人は瞳に映らない。


 先刻の彼の姿は果たして─────逢魔が誘う幻覚か。


 教室を出て、外に向かいながら俺は学と話す。

「学……さっきの超眠そうな雰囲気はどうしたんだよ」

「んあ? いや、まだ全然眠いぞ。ただ帰らなきゃいけないし、それぐらいの余力は残っていてだな」


 昔から学は、やるときはやる男で定評だった。

 ちゃんとメリハリが付く性格なのだ。紛れもなく、優秀。

 ……厨二病言葉を発する事を除く時の話に、それは限るが。


「そうなんだな。……俺は学みたいな、そういうスイッチの切り替えが楽な性格に憧れるよ」

「ま、性格に貴賤(きせん)なんてないし。憧れる様なもんでもないけどな」

「そう、か?」


 そうだろうか。

 ……いやまぁ、そうかもしれない。

 性格とは人それぞれ、十人十色という言葉が存在するぐらいだし。人にはそれぞれの性格があり、それぞれに良い悪いがある。

 その性格という渦に、上下差はない。


 その理論は、言われてみれば……と肯定出来るモノだ。


「……ま、確かに。よくよく考えてみれば、俺もそう思うかもな」

「そうだろうワタル? 人にはそれぞれ良さと悪さがある。……だから、他人の性格に憧れるのもいいが。自分自身の性格を磨いた方が、良いだろ?

 ……なんて、俺。今、めっちゃ名言ぽい事言ったよな⁉」

「─────最後の言葉がなきゃな」

「揚げ足取りサンですか、バットボタンだなこの事案は」


 そんな最終的に結論がよく分からない話し合いを続けていると。気がつけば、俺たちは校舎を出ていた。その傍ら、視界の先。……校門に、何か人だかりが出来ているのを目睹(もくと)する。


 何の集まりだろうか。

 目を細めて、俺はソレを見つめた。だがそれは遠くで、鮮明には見えなかった。……すると、学が提案を提示した。


「ん、なんだろうな。……アレ」

「行ってみるか、ワタル?」

「ああ、そうしよう」

 賛成する。


 それが良いと思って、俺は学と共に人だかりへと近づいた。

 そこには、十人。……二十人ぐらい集まっていて、かなりの賑わいであった。それを見ると、余計なんなのか興味をそそられる。


「ん……?」


 だが─────そのナニカを見た時だ。

 全てが停滞し、脳は酔いしれて、それを正視して、悪寒が背中を駆け登ってきた。

 加速する予測。そのナニカ。


 白髪の─────絶世の美少女、それは。

 紛れもなく、ソフィアリード・グローリーだった。


「─────」

 ……思わず、俺は足を止めて。思考放棄、現実逃避の法を探した。だが、それは永遠と見つからない。


「ん、どうしたんだワタル?」


 隣からは学が疑問の声を上げる。

 だが、そんなのが耳に入らない。いいや、小さくなってゆくほど……俺は困惑し、焦って、驚愕していた。


 ─────アイツ、こんな所で何をしてやがる⁉ ……とな。


 急ぐ、誰よりも疾く─────。己の自身のない脚力を頼って人混みの中を泳いで、彼女へと。俺はソフィア目掛けて、飛び込むかの様に走った。


「ソ……フィア─────ッ!!!!!!!」

 例え喉が枯れようと、この怒号は竜巻の世に遍く龍にと拡散す。


「あ、やっほーワタル。約束、待ちきれなくて来ちゃった!」

「来ちゃった! ……じゃないわ、馬鹿! 白い悪魔!!!」


 だがそんな必死な俺に対し、非常に吞気な彼女は微笑んだ。……だから俺も、そんな悪魔同然の天使に再びの怒号を浴びせた。


「白い悪魔じゃないって……ワタル、何度言えば分かるのよ!」


 だがしかし、彼女はそれにはひるまずに。

 俺に対して、彼女も怒号を吹き飛ばしてきた。


 ……人混みにかき回さる中、俺は思う。

 ……ああ、畜生。

 ……ああ、くそう。


 ─────俺は、どこで未来への選択を間違ったかなぁ。

 古い記憶に、感傷的に。俺はそう思うのだった。

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