【Side】 エトランジュ ~さようなら~
今日の午後には、聖サファイアに向かうという日。
ガゼルにもう一度、会えないかと思って、公邸を訪ねてみたの。
綺麗な人だった。
優しい人だった。
もう二度と、会えないかもしれないから。
大公陛下にお願いしたら、笑顔でご許可を下さって、中庭で待っていてくれますかと言われたの。
「エトランジュ?」
私が訪ねて来たことに、ガゼルは驚いたみたいだった。
「ガゼル様」
あの日と同じ。
ガゼルのプラチナ・ブロンドがキラキラ、お日様の光にきらめいて、夢の中の人みたいに綺麗だった。
ガゼルはね。
オーラがすごく優しくて高貴で、だから、本当に綺麗な人に見えるの。
「どうしたの?」
「手を、つないでもいい?」
くすっと笑ったガゼルからつないでくれた。
ガゼルに好きになってもらえたら、すごく嬉しかったな。
手をつないでもらえただけで、心が嬉しくなって、ずっと、こうしていられたらいいのにって思ったの。
私、ガゼルがすごく好き。
「あの……」
あの日、ガゼルに闇主になれますかって聞いたのは、答えてもらえなかった。
そんなこと、もう、聞いたらいけないよね。
ご迷惑だから、答えて下さらなかったんだもの。
「お慕いしています。ガゼル様のお妃様になれたら――よかっ……」
涙がぽろぽろ零れて、最後まで言えなかった。
とても素敵な人なの。
私じゃ、駄目なの。
「エトランジュ?」
少し、驚いた顔をしたガゼルが抱き寄せてくれて、キスしてくれた。
すごく甘くて優しくて、ガゼルが私を選んでくれるなら、私、聖サファイアになんて行きたくなかった。
だけど、どうしたらガゼルに私を選んでもらえるのか、わからない。
「あと少しだけ――」
ガゼルが抱き締めてくれる腕が優しくて、心地好くて、あと少しだけって、お願いしたの。
ごめんなさい。
私のあと少しだけは、あんまり、少しだけじゃなかったかもしれない。
最後だから、頑張って微笑んだ。
「ありがとう。さようなら、ガゼル様」






