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夜明け前 ~婚約破棄から始まる運命の恋~  作者: 冴條玲
第一章 もう一度、君と。
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【Side】 エトランジュ ~さようなら~

 今日の午後には、聖サファイアに向かうという日。

 ガゼルにもう一度、会えないかと思って、公邸を訪ねてみたの。

 綺麗な人だった。

 優しい人だった。

 もう二度と、会えないかもしれないから。


 大公陛下にお願いしたら、笑顔でご許可を下さって、中庭で待っていてくれますかと言われたの。


「エトランジュ?」


 私が訪ねて来たことに、ガゼルは驚いたみたいだった。


「ガゼル様」


 あの日と同じ。

 ガゼルのプラチナ・ブロンドがキラキラ、お日様の光にきらめいて、夢の中の人みたいに綺麗だった。

 ガゼルはね。

 オーラがすごく優しくて高貴で、だから、本当に綺麗な人に見えるの。


「どうしたの?」

「手を、つないでもいい?」


 くすっと笑ったガゼルからつないでくれた。

 ガゼルに好きになってもらえたら、すごく嬉しかったな。

 手をつないでもらえただけで、心が嬉しくなって、ずっと、こうしていられたらいいのにって思ったの。

 私、ガゼルがすごく好き。


「あの……」


 あの日、ガゼルに闇主になれますかって聞いたのは、答えてもらえなかった。

 そんなこと、もう、聞いたらいけないよね。

 ご迷惑だから、答えて下さらなかったんだもの。


「お慕いしています。ガゼル様のお妃様になれたら――よかっ……」


 涙がぽろぽろ零れて、最後まで言えなかった。

 とても素敵な人なの。

 私じゃ、駄目なの。


「エトランジュ?」


 少し、驚いた顔をしたガゼルが抱き寄せてくれて、キスしてくれた。

 すごく甘くて優しくて、ガゼルが私を選んでくれるなら、私、聖サファイアになんて行きたくなかった。

 だけど、どうしたらガゼルに私を選んでもらえるのか、わからない。


「あと少しだけ――」


 ガゼルが抱き締めてくれる腕が優しくて、心地好くて、あと少しだけって、お願いしたの。

 ごめんなさい。

 私のあと少しだけは、あんまり、少しだけじゃなかったかもしれない。

 最後だから、頑張って微笑んだ。


「ありがとう。さようなら、ガゼル様」

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