【Side】 エトランジュ ~小鳥~
公邸の庭園を探検していたら、巣から落ちてしまった小鳥を見つけたの。
木の上に、たぶん、この小鳥の巣みたいなのが見えるけど、届かない。
小鳥を持って、木登りできるかな……。
「なに、してるの?」
「小鳥が……落ちてるの」
振り向いて、びっくりしたの。
すごく綺麗な男の子。
お月様みたいな、サラサラのプラチナ・ブロンドが風に揺れてきらめいてた。
小鳥を差し出した手に、その人の指先が触れて、それだけで、ときめいた。
「届く?」
「うーん……私が君を抱き上げたら届くかな?」
わぁ。
小鳥を巣に帰してあげられるかもしれない。
嬉しくって微笑んだら、その人が驚いたみたいに私を見てた。
「お願い」
スマートな人なのに抱き上げるなんてできるのかなと思ったけど、軽々と抱き上げてくれて、いつもとは違う景色。
「届きそう。もう少し」
「気をつけて」
「――……帰せた!」
同じ小鳥のヒナたちが巣にいるのを確かめて、戻したの。
嬉しくて、その人にぎゅっと抱きついた。
「ありがとう」
この人、腕の中がとっても優しいの。
ルーカスとは全然違う。
「あっ……」
そう思ってたら、抱き締められて、驚いたけど。
心地好かったから、私もその人の肩に手を回して、頬をすり寄せた。
父様にだっこしてもらう時みたいに優しくて、安心するの。
「髪、綺麗ね。お月様みたい」
そう言ったら、急に、優しかった腕が冷えた気がした。
「どうしたの?」
「ううん」
丁寧に道に下ろしてくれた、その人の袖をぎゅっと握ったら、今度は私が聞かれたの。
「どうしたの?」
「あのね」
私はもう一度、前を見て、後ろを見て、その人を見た。
「迷子になったの」
たぶん、公邸のお庭だと思うんだけど、広くてわからなくなって、迷ってたら小鳥がいたの。
綺麗な男の子がクスクス笑った。
「闇神殿に帰りたいの。それか、公邸」
「名前を聞いてもいい? 私はガゼル」
「エトランジュ」
あれ?
ガゼルが少し、表情を硬くしたみたい。
「……公邸へは何をしに?」
「聖サファイアに行くから、出国手続きをしに」
そう答えたら、もとの優しい笑顔になった。ちょっと、寂しいな。
私、ガゼルの傍にいない方がいいのかな。
「公邸でいい?」
聞いてもらえたから、ほっとして微笑んだ後、そわそわしてガゼルを見たの。
「ガゼルは、道はわかる?」
「?」
「あのね、公邸に行ったら冒険はおしまいだから、公園に行ってみたい」
ずっと、ガゼルの袖をつかんだままだった手を、ガゼルがつないでくれた。
少し驚いたけど、嬉しくて笑ったの。
よかった。ガゼルの傍にいていいみたい。
「いいよ」
「ガゼルもどこかに行く?」
聞いてみたら、ガゼルがなんだか楽しそうな顔で私を見たの。
「そうだね、渓流を見に行きたい」
「わぁ、私も見たい!」
渓流だって!
なにかな、なにかな、見てみたい。






