【Side】 グレイス ~ここまで来て~
「蒼紫様、水蓮様、いったい、エトランジュのどこが私より優れていると仰るのですか!」
蒼紫様はわずらわしそうに、冷たい目で私を見たばかり。
水蓮様の方は静かな口調で、私をたしなめた。
「グレイス、そのように人と比べるものではありません。エトランジュの方が優れているなどと申し上げたつもりはありませんよ。候補二人のカリキュラムの達成度を、それぞれ絶対評価したまでのこと」
「まだ、夜影月華の連携すらできないで、どこが、とは片腹痛い。おまえには闇の力の引き出し方を知る気があるのか。闇の聖女であるエトランジュはすでに闇のすべてのカリキュラムを修了している。私よりも、金華からさえ、エトランジュより高い評価を得られなかったことを気にしたらどうだ」
金華様が司るのは光で、エトランジュにとっては不得手なカリキュラムなの。
だから、油断したのよ。
そんなに頑張らなくても、金華様のカリキュラムでなら負けるはずがないと思ってしまって。
「私が本気を出せば――」
「最初から出していれば、な」
蒼紫様は一言多いのよ!
光の聖女がやる気を出そうとしているのに水を差さないでよ!
「蒼紫様と水蓮様はご存知なのですか? エトランジュはガゼル公子に恋愛感情を持っているわ。聖サファイアの聖女は、光の使徒にも教官にも、恋愛感情を持って接してはならないのに」
何かしら、水蓮様が少し、厳しいお顔をなさったわ。
「グレイス、あなたの方は持っていないとでも? エトランジュが寂しげに、ガゼル公子をいつも見詰めていたことくらい、皆、気がついていますよ。あなたがそれを承知で、エトランジュからガゼル公子を取り上げたことにも」
「違うわ! そんなこと――私、ガゼル公子とは何にもありません!」
「何かあったかどうかは、この際、たいした問題ではないのですよ、グレイス。ガゼル公子にかまけて、私達のカリキュラムを怠った。違うと言うなら、あなたの履修はなぜ、遅れたのです」
「っ……!」
なんてこと!
ここまで来て、ガゼル公子に足を引っ張られるなんて!
「ああもう、私ったら、どうしてガゼル公子に情けをかけようなんて……!」
「情け、ね」
蒼紫様が感じ悪く言ったわ。
エトランジュは蒼紫様のどこがいいのよ。
蒼紫様の部屋は落ち着くとか、話していて安心するとか、理解できないわ。
蒼紫様の部屋ときたら、藍色と黒の布が張られていて、とても雰囲気が暗くて冷たいのよ。
そこに水晶だのカードだの、エトランジュに言わせれば神秘的なものを置いていらっしゃるけど、あんなもの、何の役にも立たないガラクタじゃないの。
何より、ご本人が冷たいのよ。物静かと言えば聞こえはいいけど、客をもてなそうという気持ちのかけらもなくて、こちらから言わないと、飲み物さえ出てこないんだから。
「――気分が悪いので、今日は帰ります」






