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夜明け前 ~婚約破棄から始まる運命の恋~  作者: 冴條玲
第三章 たとえ、光の神を敵に回しても。
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第15話 夜の庭園で

 その日を境に、グレイスは光の使徒からの評価を取り戻すことに躍起(やっき)になって、私の方には、まったく関心を払わなくなった。


「ガゼル様、もし、よかったら――」


 エトランジュが白い頬を桜色に染めて言う。


「あの、今夜、庭園でお会いできますか?」

「いいけど、それって、抱いてもいいの?」


 熱くなったエトランジュの横顔に手をかけて、耳元に(ささや)いたら、その耳もすぐ真っ赤になった。


「…んっ……」


 指導の後、抱き寄せてキスをするくらいは当たり前になっていて、たまに忘れたフリをすれば、エトランジュの方から遠慮がちに、私の袖を引いたりしてねだってくれたから。

 好きにするのも、ねだらせるのも、どちらにしても、すごく可愛い。



  **――*――**



「してあげるから、愛していますって言ってごらん?」


 約束した、夜の庭園で。


「がぜ、る様、あ、い、し、て、い、ま、……す」


 緊張のあまり、一文字ずつしか言えないエトランジュがおかしくて、クスクス笑いながら、髪に、額に、少しだけ開いた唇に、優しいキスを降らせた。

 涙目になったエトランジュが、ふるっと身を震わせる。

 甘くて切ない吐息に誘われて、このまま、襲ってしまいたくなるけど。

 そのつもりでの密会じゃない。――はず。


「……あっ…あ、……んんっ……!」


 そのはずだったんだけど。

 エトランジュが話を切り出すのを待つ間に、衣装の合わせから手をさし入れて、指先をエトランジュの滑らかな素肌に遊ばせたり、膨らみ始めたばかりのやわらかな胸に沈み込ませたりしていたら。

 抱き心地の優しさと、肌触りの心地好さ、エトランジュが懸命に抑える声の切なさに、どうしようもなく、誘われてしまって。


「契るよ、いい?」

「えっ……ぁや、…」


 いつもは冷たい白い肌を、初々しく紅潮させたエトランジュが、やめさせようとしたのか、私の腕に手をかけてきたけど。

 心に背くような儚い抵抗は、かえって、私をその気にさせた。

 苦しげな、浅くて速い息遣い。

 熱い肌。

 澄んだ翠の瞳から、(こぼ)れ落ちる涙がとても綺麗だった。

 

 ねぇ、エトランジュ。


 だいじな「す」が遅れた上にかすかだったよね?

 もっと、ちゃんと言えるようにおしおきしてあげようね?



  **――*――**



  **――*――**



 涙目で、エトランジュが私の胸元を叩いた。

 トン、トンって、可愛いばっかり。

 誰かに見られたら、エトランジュ、失格になるんじゃないかと思うんだけど。

 だって、公国に連れて帰りたいんだよ。

 失格させてしまいたいんだけど。


「ガ、ゼル様、闇巫女と契ったら……」

「知ってる、心配しないで」


 少しほっとしたみたいで、エトランジュが苦しそうに、私の胸に身をもたせた。

 乱れた息づかいも。

 指に遊ばせればすぐに、逃げるようにすり抜けてしまう、絹糸のような銀の髪も。

 滑らかな白い肌も。


「エトランジュのすべてを私だけのものにした気分って、すごくいいよ」

「ガ、ゼル様、お話があってお呼びしたのに……」

「『お誘いしたのに』って言ってみて?」

「えっ」


 首筋に唇を寄せて、可愛がりながら言ってあげたら、また、エトランジュがふるっと震えて、綺麗な白い肌を紅潮させた。


「あの……お、誘い、したのに」

「いい子だね。――ご褒美」


 何度も、愛してるって囁いてあげながら、心ゆくまで私の好きにした。

 そうして、もう、啼き声も立てられなくなったエトランジュの、私が乱した衣装を整えた後。


「話って?」

「……あ、……その、駆け落ちの、お返事……」


 つい、失笑しちゃった。

 ちょっとそれ、今さらなんだけど。


 もう――


 逃げたりしない。

 光の十二使徒のすべてを敵に回しても、君を手に入れるから。


「闇巫女が失踪したら、公国が困りませんか……? 母様がいるから、だいじょうぶ……?」

「私よりも、公国が大切?」


 エトランジュが困った顔で、口許に軽く握った手を当てた。


「公国より私を優先して欲しいわけじゃないから、エトランジュの素直な気持ちで答えて」


 エトランジュの翠の瞳が、不思議そうに私を見た。

 ただ、聞いてみたかっただけなんだ。

 愛してるって、エトランジュの声を聞きたいだけって伝わるように、胸に優しく抱き寄せて、耳の傍でささやいた。


「ねぇ、エトランジュが闇巫女じゃなかったら、エトランジュがいなくなっても誰も困らなかったら、私と駆け落ちしてくれた?」

「……エトランジュが闇巫女じゃなくても、父様と母様が悲しまれると思います……」


 エトランジュがいなくなっても誰も困らなかったら、は想像できないみたいだ。

 残念。

 ガゼル様となら公子様じゃなくてもって、言われてみたかったんだけどな。

 そこじゃない部分で引っかかって、聞きたいこと、聞けなかった。


「そうだね。じゃあ、サイファ様とデゼル様を悲しませないために、駆け落ちはやめて――」


 不敵に微笑むと、私はエトランジュの綺麗に澄んだ翠の瞳を見詰めた。


「光神殿の正門から、一緒に公国に帰ろうか」

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邪神に滅ぼされるはずだった公国を救った優しい少年の物語です。
※ 先代の公子様も素敵だったのですが、邪神キラーの少年と先代の闇巫女様を争奪して敗れました。ライバルが神の領域に天然すぎました。


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