【Side】 エトランジュ ~一羽の小鳥~
「俺はトランスサタニアン帝国の第一皇子だぞ? なぜ、それくらいのことができないと思う」
「――それは、その代わりにエトランジュを諦めろということですか」
私、すごくハラハラしながら聞いていたのに。
ルーカスったらウグッとなって、爆笑したの。
「あほうかおまえ。不幸づらをしてエトランジュの同情を引くなと言っているんだ。不幸づらをしていないおまえと俺なら、エトランジュが俺を選ばぬわけがない!」
ううん、私、ルーカスは選ばない。
「おまえの立場などわかりたくもないがな。おまえこそ、俺の立場がわかるのか? 第一皇子なのに、妾腹だからと愚弟に皇太子をもっていかれ、男なら自分で稼げと小遣いはなし。だが、母上はこの俺に最高の容姿とスペックと地位を与えたもうた。母上の仰る通り、男なら自分で稼げばいいことだ。ルーカス様ファンクラブの二万人の女どもから、月に銀貨数枚の会費を集めて抽選で握手会でもしてやるだけで、チンケな公国の公子様よりは高収入だろう」
高笑うルーカスを、あっけに取られて見たガゼル様が私に小声で聞いたの。
「彼、そんなことやってるの?」って。
うん、やってるの。
「月に金貨一枚の会費を支払う特別会員なら、握手会でルーカスの気に入った一人、ルーカスにキスしてもらえるんだよ。先月は壁ドンサービスもつけたみたい」
「特別会員になりたがる女性、いるの?」
「三千人いるって言ってた」
「……ふうん………」
すごいんだもの。
私、ルーカスはいやよ?
ファンクラブの女の子たちに怨まれるもの。
「ルーカス様、そのお話……本当に、公国に帝国からの圧力がかからないように、グレイス様の興味を私から失わせることができるのですか? できるのであれば、どうか、お願いします」
言われた通りに頭を下げて頼んだガゼル様を、ルーカスが感心した顔で見たの。
「言っておくが、グレイスとの復縁は望めなくなるぞ? エトランジュにフラれたからといって、元の鞘に納まるつもりなら大間違いだ」
「私がエトランジュに望まれなかったとしても、グレイスとの復縁は望みません」
「よく言った、任せておけ」
ドンと胸を叩いて請け合ったルーカスが、直後、ガゼル様にビシっと指を突きつけた。
「そこ! 今すぐ、エトランジュから離れるように。勝負がつく前の手出しは許さん」
「あ」
私、もう少し、ガゼル様の腕の中にいたかったな。
でも――
「グレイスは俺も気に食わん。エトランジュの方が本命だったというなら、貴様もなかなかどうして、見る目はあるようだがな。この俺に敵わぬことに気づかぬあたり、身の程知らずめが」
私はつい小さく「ルーカス、それ、ブーメラン」って、つぶやいてた。
ルーカスって、ガゼル様にどんなところが勝ってるつもりなのかな?
たとえば、傲慢さとか、ナルシストさとか、傍若無人さとか、野蛮さとかかな。
よく考えたら、勝ってるところもたくさんあるのかもしれなかった。
十日もあれば十分だって、ルーカスは言ったの。
本当に、翌週にはグレイス様はガゼル様を構わなくなったの。
私、今度だけは、ルーカスに感謝したのよ。
ルーカスのこと、ほんとはね、そんなに嫌いじゃないの。
だけど、私はみんな好きで、私がルーカスのことを好きな気持ちは、ルーカスが望む『好き』じゃない。みんなを好きな気持ちと同じなの。
ガゼル様を好きな気持ちだけが違うの。
どうしてかな。
ガゼル様にだけは、私だけを見ていて欲しい。いつでも一緒にいたい。
ガゼル様を争ってた小鳥たちの気持ちがわかるの。
私、望めるならガゼル様に、私の闇主になって欲しかった。
ガゼル様は、きっと、覚えてないよね。
私はただの一羽の小鳥。
ガゼル様の肩にとまっていたい小鳥は、たくさんいるから。






