【Side】 彩朱 ~なんで、使命の犠牲に~
「なぁ、聖サファイアのこれって、どーにかならねーもん?」
公園の噴水あたりで、ヒマそーに竪琴を奏でてた水蓮に、ガゼル公子の教官室で見たことを話して聞いてみた。
「それは……」
「エトランジュとガゼル、あれ、好き合ってるんだろうに。――なんか、可哀相な感じでさ」
ホントのとこ、グレイスなんて、たいした問題じゃないんだ。
いや、逆か。
グレイスが光の聖女にふさわしくないから、たいした問題なのかもしれない。
グレイスはエトランジュから何もかも取り上げようと躍起だけど、それはただの対抗意識で、別に、エトランジュを嫌ってのことじゃない。
だけど、グレイスの思惑とは裏腹に、ルーカス皇子は言わずもがな、ガゼル公子も光の使徒も、エトランジュの方を評価してるんだよな。
ま、それは当然だろう?
グレイスみたいな、あんな幼稚な聖女様に仕えたくないって。
「このままいけば、エトランジュが光の聖女じゃんか」
ポロロンと、水蓮が竪琴をつま弾く。
「――光の聖女は結婚できない。そのこと、あの二人、知ってんのかな」
「先代の京奈様が裏切って、異国に嫁がれましたからね。ご存知ないやも」
「その意味でも、今さらグレイス様なんて――使命に縛られて結婚できないのは光の使徒も同じだってのに、京奈様はよくも、平然とオレ達を捨てたもんだぜ」
「前世の縁、世界の平和のためだと伺いましたが」
「水蓮は、そんなの信じられるのかよ。オレは納得行かない。――オレが見続けた悪夢は、京奈様のせいだったんじゃないのか? 誰も覚えてはいないけど、他に考えられないじゃんか。京奈様もみんなもいた。オレが悪魔のような真似をしようとするのを、誰も止めなかったのは、京奈様の命令だったからなんじゃないのか……?」
ポロン、ポロロンと、水蓮が竪琴をつま弾く。
「邪神の仕業だとデゼル様から説明があったことを忘れたのですか」
フンと、オレは足元の小石を蹴飛ばした。
「京奈様がオレ達を裏切って、帝国に嫁いだのも邪神の仕業かよ」
「――私に絡むのはやめて頂けませんか、コトの真相がどうあれ、純粋にグレイスとエトランジュを比較して、光の聖女にふさわしいのはエトランジュだと判断しているのは私も同じなのだから」
「だから! それが、可哀相なんじゃんか! なんで――オレ達の幸せは、なんで、使命の犠牲にされてるんだ。聖サファイアは本当に、光の聖女と光の使徒がいないと滅亡すんのかよ!?」
ふだん、おとなしいやつほど怒らせると怖いって言うけど。
いつだって穏やかな水蓮が、邪悪に見えるくらい怜悧な瞳をしてオレを見た。
「試してみますか? 聖サファイアの百万人の人命を懸けて」
――くそッ!