第10話 もう一つの再会【後編】
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鮮やかな朱色の長髪を頭の高い位置で束ねた光の使徒が口笛を吹いた。
確か、――彩朱。
「エトランジュ、大事な話があるって言ったじゃないか。まだ、オレをさけるの」
「あ、違っ……ごめんなさい、彩朱様。今から、うかがいます……」
こんなのって。
エトランジュに彼女の可能性と選択肢を知って欲しいとは思った。
だけど、こんなのはフェアじゃない。
公国の平穏を人質に取られたような状態で――
ああ、もう。
聖サファイアに来る前だったら。
エトランジュがお慕いしていますと言ってくれた時に、迷わず応えていたら。
グレイスの邪魔だって入らなかったのに!
だから、父上はあんなに必死になって下さっていたんだ。
千載一遇のチャンスだったんだ。
私の気持ちや覚悟だけの問題じゃない。
兄がいるとはいえ公子という立場上、どうしても政治的な事情にからめ取られてしまう私が、私の望むパートナーを選べる条件が、ほんのひと時、奇跡のように揃っていたのに。
チャンスは何度もない。
巡ってきたその時につかまなければ、もう二度と手に入らない愛しい少女の手を、どうして、取らなかったんだ。
「ガゼル様ったら相変わらずね。好きでもない女の子にまで優しくするのは、かえって残酷よ? ガゼル様に失恋したエトランジュが泣いていて、胸が痛むのでしょうけど。あなたのスペックでそんなの気にしていたら、キリがないわ」
「――失恋?」
「あきれた。あのエトランジュを見てわからない? 私への愛情表現がイマイチなのも仕方ないかなぁ。ガゼル様って容姿は完璧な王子様なのに、恋愛方面、うといんだから。彩朱様との約束があったようなのに、ガゼル様に会いに来るのを優先するなんて、光の使徒様にとても失礼だし、エトランジュは聖女として失格よね。その上、ガゼル様にも失恋。可哀相だとは私も思うけど、仕方がないわ? やるべきことはきちんとやらなくちゃ。私達、遊びでここにいるんじゃないんだから」
「――ええ、遊びでここにいるわけじゃない」
なんだろう。
生まれて初めてくらいの怒りが胸に満ちてくるにつれて、ひどく、心が冷えた。
私は怒ると冷徹になるタイプなのか。
「グレイス様、私を訪ねたからには礼儀作法を修めにいらしたのですね? ――あなたが光の聖女にふさわしい振る舞いと思いやりを身につけられるよう、誠心誠意、指導させて頂きます」
「え……」
グレイスが大きく目を見開いた。
「やだ、ガゼル様かっこいい! そんな怜悧な表情ができたなんて! ああ、ガゼル様、そこまで私を想って下さっていたのね。婚約を破棄されて、強さを伴わない優しさだけじゃ私を満足させられないと悟って、違う魅力を磨いて私を追ってきて下さるなんて……!」
いろいろ、覚悟はしてきたつもりだったけど。
想定が甘かったにも程があった。
初日から、ここまでの試練に遭遇するなんてね。
忍耐とか、強烈な一時の感情を制御する自律とか、そういうものの一切を試されているみたいだ。
これは訓練じゃなく、本番環境。
失敗すれば、大帝国を敵に回すことになって、守るべき私とエトランジュの公国がどうなるか、わからない――
エトランジュのことは気がかりだったけど、いきなり、間違えば公国を危機に陥れかねない選択の連続を突きつけられて、それどころじゃなくなった。