第10話 もう一つの再会【前編】
翌日。
光の聖女の候補生としてのグレイスとエトランジュに紹介された後、教官室に戻って。
天界での仕事は多くなく、ほとんどは空き時間。
グレイスとエトランジュが私の指導に価値を見出さない場合、まったく相手にされないことさえあるということだった。
まさか、その空き時間を無為に過ごすわけにはいかない。
指導を充実させるために時間を使うか、公国に戻った後のために時間を使うか。
先々のことを考えながら、窓の外に目をやって、すぐ。
ノックがあって驚いた。
教官として着任した私を、真っ先に、エトランジュが訪ねてくれたんだとしたら。
――浮ついてる場合じゃないんだけど。
まずは、教官としての務めをきちんと果たさないといけない。
そんなことを考えながら扉を開けて、私は絶句した。
訪ねてきたのは、エトランジュだけじゃなかったんだ。
「久しぶりね、ガゼル様。まさか、私を追って天界までいらして下さるなんて!」
「グレイス様……?」
優越感たっぷりの満足そうな表情で、グレイスがエトランジュに言った。
「ガゼル様は私の元婚約者なの。もうひとつ情熱を感じなくて、婚約は破棄させて頂いたのだけど。ガゼル様、失って初めて気がついて下さったのね。私がいないと駄目だって! それで、天界まで追ってきて下さるなんて!」
エトランジュの翠の瞳が見る間に、悲しげに翳った。
「そういうわけだから、ここは遠慮して下さる? エトランジュ」
「…はい……」
「ごめんなさいね、エトランジュ。ガゼル様は私一筋なの。あなたのものにはならないわ」
「いえ……お邪魔して、ごめんなさい……」
「待っ……」
エトランジュを引きとめようとして、政治的な意味で、そうしていいのか迷った。
グレイスの不興を買って、公国に迷惑をかけないだろうか。
個人的な都合や感情よりも、公家に連なる者なら、公務を優先するよう育てられてきて、グレイスとの婚約だって、だから承諾したんだ。
まさか、今もう一度、七歳のあの日と同じ選択を迫られるなんて。
私の声に、目の端に涙をためたエトランジュが振り向いた。
グレイスじゃない、エトランジュを追ってきたんだって、言ってしまえたら――
だけど、それを言ってしまったら、私一人の満足のために、父は、兄は、公国は、どうなってしまうんだ。
「ヒュゥ、お熱いねぇ。聖女サマとの恋愛はご法度ですよ、教官サマ?」






