第8話 再会
聖サファイアに到着してすぐ。
「ガゼル様!」
「エトランジュ!」
拒否されるかもしれない。
その恐怖を隠して、寄宿舎から出て来てくれたエトランジュに、笑顔で手を差し伸べた。
エトランジュが困惑したように表情を暗くした時には、会いたくなかった様子に見えて、正直、ショックだったのだけど。
「エトランジュ、会いたかった!」
私を押しのけて、艶やかな黒髪の青年が割り込んできたんだ。
「ルーカス様……」
エトランジュが一歩、後退った。
――あれ?
私じゃなく、彼に会いたくなかったのかな。
エトランジュの腕を強引につかもうとしたルーカスを、私が止めるより早く。
さらに、胡桃色の髪の少年が割り込んで、エトランジュを背中に庇った。
「エトランジュが怖がっているのがわからないの」
「光の使徒様が、恋人同士の熱い抱擁の邪魔立てか?」
少し、驚いた顔をした少年がエトランジュを振り向いた。
エトランジュが泣きそうな顔をして、首を横に振る。
どうやら、彼が勝手に言っているだけみたいだ。
「だって、そうだろう。いつもなら、ほとんど挨拶代わりに闇魔法を撃ってくるのに、撃ってこないのは、オレに会いたかったからだろう?」
――……。
エトランジュのことなら何でも知っているという口ぶりだけど、何でも知っているというよりは、何でも誤解しているように聞こえて仕方ないのは、私がそう望んでいるから?
エトランジュが私を見て、彼を見て、嘆息した。
「翡翠様、お部屋に戻りましょう」
「……彼はいいの?」
エトランジュが何か言いたげに私を見たような気がしたのだけど、拒絶されているのか、歓迎されているのかは察せなかった。
「今日は、まだ。明日、正式なご紹介を頂いてからうかがいます」
**――*――**
「おい、おまえ」
エトランジュが私達に背を向けてすぐ。
彼女にルーカスと呼ばれた青年が私に言った。
「それをオレの部屋に運んでおけ。帝王学の教官室だ」
「……は?」
行きかけたエトランジュの足が止まった。
――あれっ!?
わ、エトランジュがすごく怒ってる。
「冥夜の悪夢!」
――えぇえッ!!
「そうこなくてはッ!」
魔法障壁を張って、エトランジュの闇魔法を嬉々としてガードしたルーカスが言った。
「はーはははッ! なまっているぞ、エトランジュ!」
「翡翠様、援護お願いします!」
――連携魔法!?
何だろう、何が起きているんだろう。
すごく下らないことから大事になってる気がするんだけど、エトランジュが問答無用で人に攻撃魔法を撃ったりするなんて、夢にも思わなかった。
「茨城!」
「くッ、二対一とは卑怯な…! そこのおまえ、援護しろッ!」
――……。
「夜灯幻想」
私はもちろん、エトランジュを援護した。
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