第7話 君は最高嶺の花
エトランジュが聖サファイアに留学してしまった後。
母上が私を心配して、華やかな宴を催して下さったり、お見合いの話を持ってきて下さったり、私は望み通り、私にどんな可能性と選択肢があるのか、知ることはできた。
そうして、わかったことは。
最高嶺の花としての可能性と選択肢を知らないのは、グレイスとエトランジュも同じだったからこそ、私は身に過ぎた良縁を結べていたんだということ。
グレイスもエトランジュも傾国の美姫と名高い当代一の才媛で、それは地位ゆえの脚色抜きの、事実だったんだ。
グレイスとの婚約でさえ身に過ぎた良縁で、ましてや、エトランジュの他に、胸が高鳴るような出会いなんてなかった。
私を公子だと知らずに好きになってくれて、公子だと知っても変わらなかったエトランジュとのような出会いは、一生に一度、あるかないかの奇跡だったのに。
だから、わかったことは。
そのエトランジュを無為に傷つけて終わりにしてしまった、取り返しのつかない、私自身の愚かさだけだった。
**――*――**
「ガゼル、気は済んだのか」
エトランジュが留学して、半年ほどが経った頃。
父上に呼び出された。
あの日、『グレイス様がなさったように』と言われた時に、たぶん、答えは出ていたんだ。
何のために他の異性を知る必要があるのか、もっといい子がいたら乗り換えるつもりなのかと問われた時に、ほとんど、答えは出ていたんだ。
「父上、なぜ――私に知る必要のない他の異性を知る機会を与えたのですか」
「エトランジュが望んだから」
「え……?」
「エトランジュはおまえを慕っていると言いながら、おまえには望む女性と結ばれて欲しいと泣いていたよ」
「そんな!」
「格が違いすぎる。とても、婚約の申し入れなどもうできなかった。――その意味くらいは、わかるね?」
私が唇を噛んでうなずくと、父上が続けた。
「格が違いすぎるとして――今も、エトランジュがおまえのために泣いている『かも』しれないとしたら、どうしたい?」
「そんなことが、あるでしょうか」
ほろ苦く、父上が微笑んだ。
「どうかな。ガゼル、覚悟はしておいで。下界で半年――エトランジュが留学した天界では二か月が経った。あの子は他人にあまり多くを望まない。光の使徒との恋愛はご法度のはずだけれどね。エトランジュに本気になる光の使徒がいれば落とされるかもしれないし、光の使徒の誰一人としてエトランジュに恋心を抱かないなんて、それこそ、考えにくいな」
「――……」
そう――
エトランジュは私にも、多くを望まなかった。
恋愛はご法度だとして、エトランジュを前にしたら、あっさり理性のタガが外れた一人としては、そのご法度に意味があるとも考えにくい。
「――なら、それを確かめに。エトランジュが泣いていないことを」
彼女がもう、泣いていなければそれでいいんだ。
泣かせたのは私なんだから。
だけど、もしも。
彼女がまだ、私を慕ってくれていたら――
「いい答えだ、聖サファイアに行ってみなさい。入国できるよう、手配はしておいたから」
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少年と舞い降りた天使
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~今、勇者でも転生者でもない庶民Sが邪神と相対する~
邪神に滅ぼされるはずだった公国を救った優しい少年の物語です。
※ 先代の公子様も素敵だったのですが、邪神キラーの少年と先代の闇巫女様を争奪して敗れました。ライバルが神の領域に天然すぎました。






