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part02 愛良と明龍対決

「シークレット・フォーミュラ2」は「シークレット・フォーミュラ(https://ncode.syosetu.com/n0091gc/)」の続きです。


<登場人物>

・東京: 林愛良はやし あいら:武道家、スポーツインストラクター、蕭師匠を尊敬している。

・東京: 坂本崇高さかもと たかし:空手家、スポーツインストラクター、愛良と幼なじみ。


・香港: しゅう師匠:古く続く武道流派の師匠。息子たちが小さい頃に、難病の妻に先立たれている。

・香港: 蕭明龍しゅう めいりゅう:表向きには師匠の長男ということになっている。実際は師匠の甥(師匠の弟の長男)。

・香港: 蕭明陽しゅう めいよう:実際は師匠の長男だが、師匠の次男で明龍の弟ということになっている。


・台湾: 張忠誠ちょう ちゅうせい:武術ライター。


「シークレット・フォーミュラ」

https://ncode.syosetu.com/n0091gc/

 翌朝、明龍がトレーニングを始めるとすぐに、トレーニングウェアを着た愛良が姿を現した。

「外が気持ちいいから、外に行こうよ。日陰なら日焼けしないからいいだろ?」

 明龍は愛良を外に連れ出した。

「一緒にストレッチする?」

「ええ、しましょう」

 愛良がそう返事をするかしないかのうちに明龍は愛良の両手を取る。

「じゃあこうして。脚は開いて。こういうの、知ってるだろ」

「ええ、引っ張るんでしょ。強くしないでね」

「嬉しいなあ。君と朝から一緒にウォーミングアップできるなんて」

「私もよ」

 愛良と明龍が仲良くストレッチをしていると、柄にもなく早起きした明陽と忠誠が、2人を探して外にやって来た。

「何だあの2人は、いやらしいな。修行にかこつけていちゃいちゃしてやがる」明陽が言う。

「本当だ」忠誠が言う。「明龍め、また愛良にデレっとした表情しちゃって。見張ってやろうぜ、そのうちお互いの体に触り始めそうな勢いだ」

 明陽が、おーい俺たちはここにいるぞ、と愛良と明龍に声をかけると、愛良は楽しそうに手を振り返す。

「愛良は無邪気だな、兄貴のどす黒い魂胆にも気づかないで、にこにこ笑っちゃって」

「案外気づいてるかもよ。でも、愛良はやっぱり明龍が好きなんだろうな。だから許してるんだろ。ひょっとして、触られてもいいくらいに思ってるのかも。じゃなかったらストレッチであんなに体を密着したりしないよ」

「ってことは、愛良も兄貴を誘ってるってことか」

「誘ってるかどうかは分からないけど、ちょっとくらいのことは許してもいいって思ってるんじゃない?」明龍はそれだけいい男だからさ、と忠誠は言う。

「日本からわざわざ元彼氏を連れて来たと思ったら、朝から兄貴といちゃいちゃするとか、愛良も相当な遊び女だな。あいつは俺たちの心をもてあそんで喜んでる悪魔だぜ。女は自分1人だから、ちやほやされて当然だと思ってやがる」男はみんな自分のもので、いつでも選び放題、好き放題できると思ってるんだ、と明陽は勝手に憤慨している。

「ここを拳で突いてみて」明龍は愛良に、彼の胸の中心を突くように言う。

 愛良はゆっくりと拳を押し出し、明龍の胸の中心を押す。「こう?」

「そう。それを普段のスピードでやってみて」

「ええ、いくわよ」

 愛良がパンチをお見舞いすると、明龍はそれを止める。続けて愛良が明龍に蹴りを入れると、明龍はそれをよけながらかがみ、立ちあがって突きで攻撃するが、愛良はそれをかわす。

「凄いね」明龍が愛良を褒める。

「今回は、あなたと戦うことを想定して、ちゃんと準備してきたのよ」愛良は両腕と脚を動かしてから、構える。

「嬉しいな。その心意気に、ねぎらいの気持ちも込めて、今度こそ君を倒してあげるよ」明龍も構える。

「そんなことできると思ってるの?」無理無理、と愛良は笑う。

 明龍が一二三!と攻撃するが、愛良はその全てを止める。

「君を倒すつもりで練習してきたんだ」

 愛良は明龍の蹴りをよけて身を翻しながら明龍の後ろを取り、首に腕を回すがすぐに背負い投げられ、地面で一回転して立ちあがる。

 お互い構えながら睨み合う。

「今の蹴りはうまくなかったわよ。最初だから手加減した?」

「するわけないだろ?本気なんだから」

 明龍が入れてきた蹴りを、すんでの所でよける愛良。

「ちょっと待って。髪をちゃんと結ぶのを忘れてたわ」

 愛良は後ろで結わえているゴムがゆるくなっていることに気づき、硬く縛り直す。

「俺があげたやつだ」

 明陽は気づいて忠誠に言う。「やっぱり女にアクセサリーをプレゼントするっていいもんだな。俺の女になったって感じで」

「プレゼント?あれ、弁償だろ?君が愛良の髪留めを壊したんだから」

 明陽は忠誠を小突く。「俺が選んだ品を愛良にくれてやったんだから、プレゼントなんだよ!」

「明陽」

 動きを止めた明龍が弟を呼ぶ。

「水とタオル」

 持ってこい、と顎で指図する。

 明陽はおとなしく、はいよ、と言って建物の中に入っていく。

 愛良は攻撃を続け、明龍は後退する。

 そして最後の攻撃を明龍が遮り、笑顔で愛良を見る。

「本当に嬉しいな。君がまた俺に向かってきてくれるなんて。しかも、強くなってる」

「強さは同じよ。前回は、準備期間が全くなかったのよ。あなたったら、いきなり挑戦してくるんですもの」

「君がもう帰ってしまうと思ったら、無理にでも戦いたくなったんだ。君を負かしたら、君が香港にとどまってくれるんじゃないかという期待もあった」

「あなたも明陽と同じくらい、相当な駄々っ子さんね」

 呆れたような嬉しそうな笑顔を見せる愛良。お互いの腕と腕が交差する。

「君が日本でも、俺のことを考えて修行してくれてたのが嬉しいよ」

「そうよ、あなたに勝つためよ。でも、勝つことがどういうことなのか分からなくなってしまった」

 愛良はスピンキックを食らわし、明龍を後退させる。

「あなたに参った、と言わせればそれで勝ったことになるのかしら」

「なるよ」

 後退していた明龍は、いきなり素早い突きで反撃に出る。連続した突きをよけながら後退する愛良。

 愛良の背中が木に当たったところで攻撃をやめる明龍。

「だって、俺が君に参ったと言わせれば、それで俺が勝ったことになるだろ?」

 タオルとミネラルウォーターを籠にいれて持ってきた明陽に、明龍は「椅子も持ってこい」と言う。

「何を迷ってるの?」明龍は愛良に聞く。

「迷っているんじゃなくて、ふと疑問に思うの。私は師匠である祖父の言っていたことを100パーセント理解していたわけじゃないから」

「誰も自分の師匠の言うことを、100パーセント理解なんかできないよ」

 愛良は、さっと身を翻して木の後ろに隠れた。そして顔を出す。

「そうね」隠れた愛良は、構えながら明龍の前に出てきた。「求道者は自分で究極の答えを見つけていかなければならないんだから」

「修行してて、疑問が出て来るとするだろう?」明龍が蹴りを入れると、愛良はよけた。

「求道者はそれに対する答えを自分で見つける。自分はその答えを見つけたと思ってるんだ。だけど、修行を進めて行くうちにそれが本当の答えではなかったと気づく。答えなんかないんだ」

 さあ来て、と愛良に合図する明龍。

 愛良は連続で突きと蹴りを入れ、そのうちのいくつかが明龍に入る。

「そうね。そもそも疑問だって幻よ。疑問があるから答えが現れるけど、疑問がなければ答えも出現しないわ」

 愛良はそのまま前進して突きを入れるが、明龍に腕を掴まれそうになり、すんでのところでかわした。

「相変わらず動きが素早いね」明龍が言う。

「今のはちょっと危なかったけど、かわせてよかったわ。あなたに捕まったら、何をされるか分からないんだもの」

 明龍が愛良の腕を掴みたがっているのが分かり、愛良は後退する。

 明龍は勢いをつけて前進しながら攻撃を続け、木の下に愛良を追い詰める。

 愛良が明龍の突きを払った時、明龍は愛良の手首を掴もうとして失敗し木の向こうに逃げられる。

「怖くないから、こっちへおいで」

「逃げてないわよ」

「じゃ何?」

「距離を取ってるだけ。あなたの作戦、ばれてるわよ。あなたは以前もそうやって途中から意地悪な表情になったわ。また私のこと、しつこくいじめるつもりでしょ」

「君に近づきたいんだよ。それに君は」

 明龍が愛良に近づいて、髪に触れようとした瞬間、愛良はさっと逃げた。

「本当は俺にいじめられたいんじゃないの?」

 明陽は、愛良!兄貴なんかに負けるなよ!と掛け声を入れる。

 負けないわよ、と愛良は明陽を見ずに答える。

「まあ、負けたら俺が慰めてやるけどな」と明陽はにやにやしながら忠誠を見るので忠誠は、はいはい、と答える。

 愛良は呼吸を整えてから明龍に近づいていき、突きと蹴りで攻撃を仕掛ける。

 対面の位置では危ないと考え、愛良が明龍の背中を取ろうとした時、明龍がすばやく動いて愛良の腕に突きを入れ、愛良がひるんだ瞬間に片方の手首を掴む。

 明龍は笑う。

「捕まえた」

 明龍は勝ち誇った顔で愛良を引き寄せようとするが、愛良は踏みとどまった。

「俺も幻かな?」明龍はそのまま愛良の手を開かせて握る。

 腕を掴まれたならまだ振り払うことができるが、指を絡ませて握られたら、力が出にくくなる。

「君が幻じゃないって確かめたいんだ」

 明龍がもう片方の手を伸ばしてきたので、愛良はそれを避ける。

「幻を相手に戦っているのは、ある意味正解よ。私を捕まえていると思っているのも、あなたがそう思っているだけなのよ」

「君は今、俺に捕まってるんじゃないの?」

 明龍は、愛良のてのひらを握る手に力を込める。

「俺の力、感じるだろ?」

「ええ、でも、そう見えてるだけよ」愛良は明龍を睨みながら言う。「あなたは私を捕まえたと思っているだけ」

 明龍はもう一度、愛良を引き寄せようと引っ張る。今度は踏みとどまることができず、明龍に抱きすくめられてしまう。

「さあ、もう離さないよ。今のは、どう?」明龍が愛良に聞く。「どんな気分?」

「そうね、嬉しいわ。こんな素敵な人に捕まっちゃって、どうしたらいいの」愛良は笑ったついでに明龍の脇を突き、腕から逃れる。

 しかし、片手は掴まれたままだった。

「おやおや、しつこい男は嫌いだったかな?」

「あなたほど優れた武道家で、しかも香港一いい男なら、多少しつこくされても悪い気はしないわ」

 愛良の足技が入る一瞬の隙に、明龍はもう片方の手首も掴んだ。

「それ、本心?」

 しまった、と思う愛良。

 明龍が余裕の笑顔を見せる。「急に俺のことなんか褒めて、油断させたつもりだろ。だから俺も意地悪な気分になっちゃうんだ。そんな君を、何とかして負かしたくなってしまうから」

 愛良は敢えて掴まれた手を振り払うようなことはせず、表情も変えずにいた。

「君の作戦はお見通しだから、抵抗しても無駄だよ」明龍は手首を掴んでいる手をずらし、また愛良の手を開かせて握る。

「俺から逃げてみる?参ったと言ってもいいんだよ。それとも、このままじわじわ攻められたい?」

「私の両手を掴むのはいいけど、あなたの両手もふさがってるわよ」

「じゃ、今、お互いがお互いを映してるってことだね」

 明龍の足技を愛良がかわす。両手を取られたこの体勢では、腕力のある明龍のほうが有利だった。

「俺にじわじわ攻められるほうを選ぶんだね」

「そうよ。満足させてくれるんでしょう?」

「そりゃもう」

「じゃあもっと攻めてみなさいよ」愛良は睨むような目つきで言う。「いらっしゃい」

 明龍は愛良を引っ張って引き寄せようと試みるが、愛良は踏ん張る。

「両手を取られてもまだ抵抗するのかい?」

「だって、まだ負けてないもの。あなたはもう私が負けたと思ってるの?単に両手を取られたくらいで、あなたの言いなりになるわけないでしょ」

 ヒュー、と口笛を吹く明陽。

「そういう態度が俺をぞくぞくさせるんだよ」

 何か自分を有利にするための道具はないか、と愛良は目だけでチラっと周囲を見たが、それが明龍にばれてしまう。

「何もないよ。俺にいじめられたくないなら、もう参ったって言っちゃったら?言ったらやめるよ。言わないなら続けるまでだ」明龍は愛良に笑いかける。それから険しい視線で、手に力を込める。

「今の俺、どう?凄いだろ?」

「凄いわ」愛良は負けずに挑戦的な目で明龍を睨む。「隙がないもの。それに、普段から攻め方をとても練ってるみたい」

「君を攻めることなんて、いつも考えてるよ。君を喜ばせる攻め方をね。君はきっと俺に夢中になる。今だって喜んでくれてるだろ?」

「ええ、とても。あなたって本当に素敵。強い男ね」

 愛良は明龍の足を踏みつけようとしたが、かわされる。

「おや、本当は喜んでくれていないのかな?」

 明龍は強引に腕を引き、愛良の立ち位置を横に移動させて、力の差を思い知らせてやる。

 明龍はまた、どう?という表情で顔を傾けて愛良を見る。

「素敵よ明龍。あなたの魅力にくらっときたわ。もっと続けて」

 そんな怖い顔で言わないでくれよ、と明龍は笑う。

「さあ、君がそんなに続けてほしいなら、ご要望にお答えして続けてあげよう。どうしたら満足かな?この状態のまま、俺に引き寄せられたい?」明龍は引き寄せようとするが愛良は抵抗する。「それとも、押し倒されたい?」明龍の力に負けて、愛良は一歩後退する。

「そうね、どっちもいいけど」愛良が怒った顔つきになる。「今はどっちも遠慮しておくわ。たとえあなたが香港一いい男でもね」

「君から迫ってくれてもいいんだよ」

「あらそう?」

 今度は愛良が明龍を押し戻そうとするが、びくともしなかった。

「君の思い通りにはいかなかったね」

「なかなか思い通りにならないあなたも可愛いわよ、明龍」

「怒らないでよ」明龍は言う。「前にも言ったけど、俺は君の、一番素敵な姿が見たいだけなんだから。この分だと、もうすぐ見られそうかな」

「私、これでも十分だと思うけど。まだ魅力を出し切れてないかしら」

「まだだよ。もっと君の魅力を引き出してあげる」

 このままでは埒が明かないことは愛良も分かっていた。こんな力勝負を続けていても、すぐに限界が来る。

「それとも君は、本当は俺にとどめを刺してほしいのかな?君が失神するくらいのやつ」

 明陽は、出たよ兄貴の変態発言、と忠誠に耳打ちし、忠誠はうんうんうなずきながら、けしからん男だ、と怒っている。

「できるなら、やってごらんなさい。見てみたいわ」

 どう見ても愛良のほうに体力の限界が来ていた。

「早く私を夢中にさせて」

「本当は焦ってるんだろう?」明龍が聞く。

 愛良は答えないまま明龍を見る。「私が劣勢だと思ってる割には、これ以上攻撃してこないのね」

「君は負けも同然なのに、俺がこれ以上攻撃してもいいんだ?」

 愛良は明陽と忠誠に向かって、今の聞いた?すごく意地悪な言い方!と言うと、明陽は、倒せ!とばかりに腕を振り上げる。

 明龍は力任せに一歩前進すると、愛良は力で負けて一歩下がった。さっきより抵抗力がかなり弱まっているのが分かる。

「そろそろ限界かな」

「これで勝ったと思っているなんて早計ね。遠慮しないで攻撃なさい。これくらいじゃやられないわ」

「本当?そんなに俺に攻められたいのか。ずいぶん正直だね。やっぱり君、俺にいじめられたいんじゃないか」

 明龍はふっと笑う。

「君が反撃できるのかどうか見てみたいな。とどめを刺すよ」

 後ろには木がある。

 明龍が木を見た一瞬の隙に、愛良は彼の太ももめがけて足で攻撃するが、それを見越していた明龍は愛良が片足立ちになった瞬間、力任せに彼女を木に押し付けた。

 衝撃で悲鳴を上げそうになったのを必死で押し殺して、大きく息をする愛良。

「今のは失敗だね」

 愛良は呼吸を早めながら、明龍を見上げる。まだ闘争心を失っていない。

「失敗かどうか、やってみなきゃ分からないでしょ」やっとのことで言い返す愛良。

「今ので力はほとんど使い果たしたね。君の望み通りとどめを刺そうか。それとも、もうちょっとじらされるのが好き?」

 明龍は笑う。

「どうされたら嬉しいの?」

「まだ限界ではないわ」愛良はそう言うが、呼吸が乱れ始めていることに彼女自身も気づいていた。

「まだ参ったとは言わないわよ。勝った気にならないで」

「強がるね。決して負けを信じないのが君のいい所だ。じゃ、攻撃してもいい?」明龍は愛良に顔を近づけた。

「そんなこと、敵に聞きながらするもんじゃないわ」愛良は嫌そうな表情で顔をそらすようにして、明龍を睨む。

「だって、力勝負じゃ君、負けちゃうじゃないか。気力だけじゃ俺に勝てないよ」

 明龍が次の行動を起こそうとして両手に力を込めてきたその時、愛良は思い切り、その両手を内側に交差し明龍を引き寄せたかと思うと、彼の体に力強い蹴りを入れた。

 思わずうわっと声を上げて明龍が後方に倒れる。

「凄い。今、明龍がふんばっていた力のせいで、余計に彼女の蹴りの衝撃が強く入ったね」

「ああ。兄貴の腕力が逆に、利用されたんだ」

 蹴られて吹っ飛ばされた明龍のそばまで来る愛良。

「ごめんなさい、痛かったでしょ」

「ああ、痛かったけど今のは仕方がない」呼吸を荒げて答える明龍。「君はやっぱり凄いよ」

 明龍は息をしながら蹴られた腹を押さえていた。

「休んで」愛良は言い、自分も用意された椅子に腰かけると、明陽がタオルと水を持ってきた。

「ありがとう」

「今の、計算してやってたのか?」

「とっさの判断よ。あの状態で手をほどくのは無理だったから、彼の力を利用する方向で反撃するしかないと思ったの」

「相手の力を利用するって、よく合気道で言われるやつだよね」忠誠が言うと明陽は、愛良の作戦なのにパクリだって言うのかよお前?と忠誠に詰め寄る。

「やめなさいよ」愛良は言う。「合気道以外にも、同じような考え方を取り入れてる武術はあるし、以前、あなたと戦った時だって、あなたも似たようなことやってたわよ」

 あれ、そうだっけ?と明陽は聞き、愛良は、あなた無自覚でやってたの?と聞き返す。

「俺、天才だからきっと無自覚でやってたんだ」と満足げにうなずく明陽。

 愛良は、さっきの力勝負がこたえたようで、両腕を振ったりして筋肉をほぐしている。そしてまだ倒れている明龍に、大丈夫?と声をかける。

 明龍はやっと起き上がると、勝ったと思ったんだけどなあ、と言いながら椅子に座った。

 忠誠は明龍の肩にタオルをかけてやり、水を渡した。

「今の俺の失敗は、蹴られた時に君の手を離してしまったことかな?」明龍は愛良に聞く。

「そうね。でもあのまま両手を掴んでいたとしても、やっぱり倒れた拍子に離してしまうんじゃない?私も一緒に倒れるけど、攻撃を受けたわけではないからすぐに起き上がれるわ」

「君の失敗は、愛良に夢中になりすぎたことだよ」と忠誠は面白そうに言う。

 その時、誰かが拍手する音がしたので皆が見ると、師匠が崇高と歩いて来る所だった。

「師匠、おはようございます」

 愛良が挨拶すると、師匠はみんなおはよう、と微笑みながら言う。

「今、途中からだけど、崇高と一緒に窓から見ていたよ。明龍が優勢だと思っていたが、素晴らしかった」

「ありがとうございます」

「意外に早く勝負がついちゃったな」

 明龍はばつが悪そうに笑う。

「腕、大丈夫か?」崇高が愛良に聞く。

「大丈夫じゃないわ。使い物にならなくなっちゃった」愛良は笑って腕を振る。

「ごめん」明龍が言うと、愛良は首を振りながら、手加減してほしくなかったからいいのよ、と答える。

「結局力勝負になってしまって、俺、卑怯だったかな」

「そんなことないわ。あなたのほうが上手だから、私の手が取られたのよ。それに、あなたに参ったと言いたくなくて続けるほうを選んだのは私よ」

 あなたったら、すごく意地悪な顔して迫ってくるから、絶対に勝たなきゃ気が済まなかったのよ、と愛良は笑う。

「お詫びに、マッサージしようか?」明龍が聞くが、それを遮るように師匠が「いや、私が」と前に出る。

 明陽は、親父は愛良にさわるなって、と威嚇する。

「愛良、親父に体をさわらせるなよ。親父はスケベなんだからな。やるならこの3人の中で一番、心が清らかな俺にやらせろ」

「崇高、あなたにやってもらってもいい?」

「俺が?いいよ」

「マッサージ用のオイルある?」愛良が聞くと、明龍は持ってくるよ、と建物の中に入って行った。

「次は明陽と忠誠が戦うところが見たいわ。どう?」愛良が聞く。

 明陽と忠誠はお互いを見合う。

「俺たちが戦うの?」明陽が愛良に聞く。「そうよ。だって、元は同じ流派でしょ?」見応えがありそうだわ、と愛良は言う。

「ああ、いいよ」忠誠が立ち上がり、嫌なの?と明陽に聞く。

「お前、強そうだからな。手加減するなら付き合うぞ」

 明龍はマッサージオイルを2本持って戻ってくる。

「香りが違うから、好きなほうを使って」

「ありがとう」

 愛良は崇高に、手が届くところは自分でやるけど、まずここを指でこうやってね、とマッサージの仕方を教える。

「何だよあいつ」明陽は忠誠に言う。「昔の彼氏に腕なんか撫でさせやがって。見せつけてるな」

「あれでいいんだよ。他の男にやらせたら君、絶対に怒るだろ」

「おい、あの2人、できてると思うか?」

「できてるって、やっちゃったかってこと?」

 明陽は忠誠を叩く。「そうだよ。やっちゃったかって意味だよ」

「でも、愛良の信条から言うと、やらないってことになってるんだろ?男作ると修行に影響が出るから」

「そのはずだけど、仲いいじゃん」

「仲がいいのは友人だからだと信じたいね」

 愛良は、まだ始めないの?と明陽と忠誠に聞く。

「よし、じゃいくぞ」明陽が構えると、忠誠も構える。

 がんばってー、と愛良に応援されて、2人とも顔がにやけてしまう。そしてお互いに敬意を表したあと、戦い始める。

 2人が戦っている最中、師匠が「愛良、さっき背中を木にぶつけたけど、それは大丈夫だった?」と愛良に聞いていると、いきなり明陽が試合を中断して師匠と愛良の間に割って入るかのように師匠に飛び蹴りを食らわせようとした。

「親父!うまいこと言って愛良の背中を撫で回すつもりだろう!」

「お前は全く、いい加減にしなさい。本当に馬鹿な子だね、何でもかんでも言いがかりをつけて」

 明龍も出て来て、弟にやめろ、と言っている。

「愛良、背中が何だって?」明陽が聞く。「背中が痛いなら俺があとでくまなく調べてやるから、親父の前で脱ぐようなことは絶対にするなよ」

「脱ぐって、何言ってるの、そんなことしないわよ」

「親父、人が戦ってる最中に愛良にちょっかい出しやがって、思い知らせてやる!」

 明龍は弟に、お前何を興奮してるんだよ、と怒る。

「明龍」師匠は言った。「どきなさい」

 明龍は躊躇した。

「何だよ、兄貴だって!」明陽は兄を睨む。

「いいかお前ら。愛良は俺が苦労して見つけてきた女だぞ。兄貴だって俺が分派の継承者を探して崇高とやり合ってた時、さんざん俺の邪魔したくせに」

 それから父親を見る。

「親父だって何だよ、愛良に会ったのは一番後のくせに、まるで愛良を自分のものみたいに思ってるだろ。兄貴も親父も、俺を仲間外れにして自分たちだけ空港に迎えに行ってさ!」

 明陽は師匠の前で構える。

 馬鹿ね、やめなさいよ、と愛良も止めようとする。

「愛良に触りたかったら俺の許可を得ろよ」

 師匠は息子を険しい表情で見て、うなずいた。

「明陽、お前と手を合わせるのは10年振りくらいかな。かかって来なさい」


「シークレット・フォーミュラ2」は「シークレット・フォーミュラ(https://ncode.syosetu.com/n0091gc/)」の続きです。


更新頻度:

なるべく1ヶ月に1度を目標に連載投稿していく予定です。


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