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part11 別荘へ

「シークレット・フォーミュラ2」は「シークレット・フォーミュラ(https://ncode.syosetu.com/n0091gc/)」の続きです。


<登場人物>

・東京: 林愛良はやし あいら:武道家、スポーツインストラクター、蕭師匠を尊敬している。

・東京: 坂本崇高さかもと たかし:空手家、スポーツインストラクター、愛良と幼なじみ。


・香港: しゅう師匠:古く続く武道流派の師匠。息子たちが小さい頃に、難病の妻に先立たれている。

・香港: 蕭明龍しゅう めいりゅう:表向きには師匠の長男ということになっている。実際は師匠の甥(師匠の弟の長男)。

・香港: 蕭明陽しゅう めいよう:実際は師匠の長男だが、師匠の次男で明龍の弟ということになっている。


・台湾: 張忠誠ちょう ちゅうせい:武術ライター。


「シークレット・フォーミュラ」

https://ncode.syosetu.com/n0091gc/

 翌朝、トレーニング後の食事中に明龍は、今日の別荘への運転は愛良にしてもらおうかな、などと他の男たちと話をしている。

「え、私が運転するの?」

 愛良は驚いて、どうして私が運転するの?と明龍に聞く。

「君の運転が見てみたいんだ。大丈夫だよ。俺が隣に座って道案内をするから」

 みんな、愛良の運転見たいよね?と明龍が聞くと他の男たちは、見たい見たい、と答える。

「そう言えばお前、前に初めて香港に来た時はレンタカーで蕭家のお墓参りに行ったじゃん」崇高は愛良に言う。「今回は国際免許証持ってきた?」

「あの時は、香港に行くのはめったにない機会で是非ともお参りに行きたかったから、ホテルから寺院までの道をネットで何度も調べて、行き方をちゃんと覚えたの。でも標識の読み方だってもうあまり覚えてないし、知らない場所での運転なんて無理よ」

 兄貴は道案内とか言って、単に愛良の隣に座りたいだけだもんな、と明陽は言う。

「私、日本で旅行保険には入ってきたけど、車の運転の保険までは入ってこなかったわ」愛良は明龍に言う。

 国際免許証は持って来てるの?と明龍に聞かれて愛良は、スーツケースの中にあるけど、と答える。

「心配しなくていいよ。もし何かあったら、俺が君に変わって賠償金を支払うから」

「ぶつけたりしたら勿論、あなたに払ってもらうわよ。でも、他人を怪我させたらどうするのよ」

「君は注意深い人だから大丈夫だって」

「もし運転してみて難しそうなら、途中で兄貴に代わってもらったら?」

 明陽は愛良に聞く。

「だから何で私が運転すること前提で話を進めるのよ」

 俺、あの映画会社の社屋が今どうなってるか見たいから、あそこで車停めてもらって、それから兄貴が運転代わってやればいいじゃん、と明陽が提案し、明龍はそうだな、と同意する。

「兄貴が途中で代わってくれるって」明陽は愛良に言う。

「分かったわ。でも、その前にやっぱり無理だと思ったらその時点で交代してもらうわよ。いい?」

「いいよ」明龍は言う。

「おとといみんなに映画を見せてやっただろ?あれを制作した映画会社の前を通るんだ」明陽は愛良と男たちに説明する。「別荘に行く時はいつも横目で建物がまだ建ってるのを確認してたんだけど、今日はちょっと写真撮りたいからその前で停まってもらうわ」

 あの会社の昔の社屋がまだ建ってるってこと?と忠誠が聞き、明陽がそうだよ、と答える。

「そんなに難しい道じゃないよ。途中からほぼ一本道になるからずっとまっすぐ走ればいいだけさ」明龍は愛良に言う。

「簡単ならあなたが運転すればいいじゃない」

「だから、君の運転が見たいんだよ。せっかく香港に来たんだから、運転を楽しんでみようよ」

 俺あの会社の新しい社屋のほうを見に行ったことがあるんだ、と忠誠に言われて明陽は、ふーんと答えている。

「まあいいわ。良かった、師匠がいなくて。師匠にもしものことがあったら大変だもの」愛良は独り言のように言う。

 何だそれ、俺らは死んでもいいみたいな言い方だな、と言う明陽を愛良は無視して「あー師匠がいなくてよかったー」と繰り返している。

 あれ、愛良もしかして機嫌悪くなった?と明龍が小声で崇高に聞くと崇高は、大丈夫じゃない?と答える。

「そう言えば後発の使用人たちは何時に出発するんだっけ」明龍は明陽に聞く。

「は?兄貴だっさいなあ、親父のいないとこじゃ、愛良なんか俺らの前で本性出しまくりなんだから、簡単に怒らせて雰囲気悪くするなよ」

 弟にそう言われた明龍は、何だよお前だって愛良が運転するとこ見たいくせに、と怒り、本性出しまくりって何よ、と愛良も怒る。

 しかも愛良を怒らせておいて、怒ったかどうかを崇高に確認するところがまたださいわ、と明陽は小声で忠誠に言い、忠誠はうんうんうなずいている。

 ちょうどそこへ、女中が食後のティーセットとデザートを持って来たので、明龍は今日の使用人らの出発時間を自分たちに合わせてもらって車の先導もしてくれるように頼む。


 出発時刻になり、準備が整った明龍や愛良たちは車に乗り込んだ。

「さあ、安全運転で行こうかな」運転席に座りハンドルを握ってみて、椅子の位置を直す愛良。

 さっきは運転のことで機嫌が悪くなったように見えた愛良が、今は機嫌良さそうにしているので明龍はほっとする。

「師匠元気かしら?」

 愛良はシートベルトをしたりミラーを直しながら言うので、何だ、師匠に会えるから機嫌が良くなっただけか、と悟る明龍。

 半日会わなかっただけで、元気かしらだってさ、と明陽は笑い、ミラー越しに愛良に睨まれる。

「さっき出発することを連絡した時は嬉しそうにしてたから、師匠はきっと元気だよ」明龍は愛良に言う。

 さっきはあんなに元気にしてたのに、今はもう帰らぬ人になっているってのが人生なんだよ、と明陽は1人で言って納得し、周囲を白けさせている。

「ちゃんとシートベルトしてね、事故の衝撃で体が吹っ飛んでも知らないわよ」

 愛良は後部座席の崇高、明陽、忠誠を振り返る。

 乱暴な運転するから覚悟しろだってよ、と明陽は隣の忠誠に言う。

 明龍が、隣で待機している車の中の使用人に手で合図すると、使用人たちの車は先に発進した。続いて愛良も車を発進させる。

「彼らについていけば大丈夫だよ」

「分かったわ」

 愛良は問題なく運転を進める。

 前の車の後部座席にいる女中は、しばしば愛良を励ますように振り返って微笑みかける。

「先導があって良かった。街中まちなかはやっぱり戸惑うわ」

「そうだね。しばらくすると海沿いの道に入るから、景色が良くなって運転が楽しくなってくるよ」明龍は言う。

 街中を抜けて海に近い道に入ると明龍は、今日は車が少ないほうだな、と独り言を言う。

「この辺は、ずーっと道なりにまっすぐだからな」明陽は後ろから身を乗り出し、愛良に言う。

「え、ちょっと待って、この道なに?」

 もしかしてラウンドアバウトとかいうやつ?と愛良はパニックになっている。

 落ち着いて、スピードはそのままで大丈夫だ、曲がらないで真っ直ぐだよ、と明龍は前の車が入っていく道を指差す。

「私ラウンドアバウトの作法知らないんだけど、どうすればいいの?」

 愛良はそのままのスピードで交差点に入る。

「そのまま、そう!真っ直ぐ前、その道に入って」

 うまいうまい、と明龍は言う。

 今ので良かった?ウィンカーも出さなかったわ、と言いながら愛良は運転を続ける。

「このまま行くと、もうすぐ映画撮影所が見えてくるぞ。左折するけどその場所になったら俺が言うから」と明陽が言う。

 愛良がしばらく前の車の先導通りに走っていると、明陽が突然「左、左入って!」と大声を出す。

 明陽に言われて愛良はハンドルを左に切る。左折せず真っ直ぐ走る先導車の女中は、あとでね、というように手を振ってくれた。

「ちょっと、ミニバス以外は進入禁止って書いてあるじゃない!」

 愛良は標識を見て驚いてブレーキを踏む。

「馬鹿馬鹿、ここで停まるな。じゃ右入れ右!右のガスステに入る振りして。道迷っちゃいました、ちょっと停めますね、みたいな顔して停車しろ」

「お前、今スマホに気をとられてただろう」明龍が弟を叱る。

 愛良は言われた通りに小道に入り、ガスステーション入口のそばに車を停めた。

「おいおい、何だよ」明陽は隣の忠誠をどかして建物のほうを見ながら車を降りる。「工事始まってるみたいじゃん、建物壊すのか?」

 明陽は撮影所の門の方へ向かっていくので、愛良と男たちも降りて、明陽について行く。

「あーあ、看板も見えなくなってるよ」明陽は、工事用の防護壁で社名の看板が隠れてしまっているのを見て残念がる。「あのレトロな文字が好きだったのに」

 撮影所の門は、侵入者を阻止するように一部が既に板で覆われていて全体が見通せない状態になっており、その向こうにある小高い丘の上に映画会社の社屋が建っていた。

 明陽はしばらく写真を撮ったあと言った。「これじゃ写真を撮りに来た意味がないよ」

「面白いデザインの建物ね」愛良が明陽のそばに来て言う。

「あれいいだろ?俺が金持ちだったらあの建物買って修復するのにな。スタジオの中にはフィルムも残されてて、しかもここ数年は侵入者に荒らされてるらしいぜ。本当にもったいないよ。貴重な未公開フィルムだって絶対に残ってるはずなんだ」

 俺があの土地の権利を買って、建物の中に取り残されてるフィルムを片っ端から修復して貴重なシーンを探し出して、DVDにして売れば絶対に儲かるんだけどな、と明陽は独り言を言っている。

「昔のほんの一時期ブームになった映画の未公開シーンなんて、そんなに売れるかなあ?儲からないと思うよ」と忠誠は疑問を呈する。

 皆は車に戻り、ガスステーションで給油してから出発した。

「あ!あなたと交代するの忘れてた!」と愛良は発進してから明龍に言う。

 明龍は、いいよ、そのまま行きな、と言う。

 愛良はチラっとカーナビを見る。

「ちょっと、またランアバあるんじゃない?」

「大丈夫、さっきと同じように直進だよ。道がほぼ真っ直ぐだからウィンカーも出さなくていいくらいだよ」

 明陽は、日本ってランアバ珍しいの?と崇高に聞き、俺は見たことないけどどこか地方にはあるみたい、と崇高は答える。

「来たわよ。ちゃんと指示して」

 次の交差点に差し掛かると、明龍はそうそう、そのまま行って、と指示する。

「もうないわよね?」と愛良は確認する。

「ごめん、もう1個あるんだ。しかも今度は思いっきり右折する」

 右折って?つまりぐるっと回るってこと?と愛良は不安そうに聞く。

「小さいランアバだし君なら大丈夫だよ。そう、真ん中のマルを軸にして180度プラス90度曲がればいいだけさ」明龍は手振りも交えて説明する。

「変な言い方ね」

「変?分かりやすいだろ。270度のほうが馴染まない言い方だと思うけど」まあ、道に入りそこねたらそのまま一周すればいいだけだよ、心配しなくて大丈夫、と明龍は言う。

「その右折のあとで大きな駐車場があるから、そこで兄貴と運転代われば?最後は兄貴が運転したほうがいいだろ」明陽は言う。お前そこの駐車場でお参りする?うんするよ、と兄弟が話しているのを、崇高と忠誠は不思議そうに聞いている。

「ああ、昔その駐車場付近の道路で映画スターが事故死したんだよ」明陽が説明する。「だから、俺は別荘に行く時はいつも、事故現場のそばに建ってる石碑にお供え物の果物置いたり線香上げたりしてるんだ」

「あの俳優の石碑があるの?知らなかった」忠誠が言う。

「俺も詳しくは知らないんだけど、石碑は近辺の交通事故の犠牲者のために建ってるだけで、俳優だけのものではないみたいだけどね」俺も石碑の存在は知らなくて、たまたま古本屋で手に取った昔の芸能雑誌に載ってるのを見て知ったんだ、と明陽は付け加える。

 愛良は懸念していたラウンドアバウトをうまく通過し、しばらく走ったあとに見えてきた駐車場に車を停めた。

「石碑は?」皆が車を降り、愛良は辺りを見回す。

「道を渡ったあっちにあるよ。お前たちも来る?」

 俺はここで待ってるから行って来たら?と明龍は言い、運転席に乗り込む。

 明陽は用意していたリンゴを持って皆と道を渡る。

「これなの?小さい石碑ね」愛良は喃嘸阿爾なむあみと書いてある、小さい地味な石碑を見つめて言う。

「線香がもう挿してある」「今日は先に誰かが来たんだ」「あの事故現場ってこの辺りだったのか」と皆は口々に言う。

 明陽がリンゴを供えると、皆は手を合わせた。

「君はこの俳優知ってるの?」忠誠は崇高に聞くが、崇高は首を振り、そんなに有名な人なの?と愛良に聞く。

 方世玉ほうせいぎょくを演じたこともある人よ、と愛良は崇高に言うが、崇高はその役名がどういう人物なのかがそもそも分からなかった。

「架空のキャラクターなんだけど、歴代の俳優が何人も演じてる役だよ」忠誠は崇高に教える。

「道場でみんなが愛良と写真を撮った時、俺が愛良に扇子を渡して、方世玉みたいに構えろって言った、あの方世玉だよ」明陽も付け加える。

「お薦めのDVDを貸してやるよ。さっきの映画会社が70年代に製作した映画」

 そう言いながら、明陽は名場面のセリフを演技つきで言うが、マニアック過ぎて誰もついて行けなかった。

「ねえ、いつもどんな気持ちでこの人のお参りしてるの?」愛良は明陽に聞く。

「そりゃ勿論、映画の未来は俺に任せろ、ってな」

 それを聞いて崇高は滑って転びそうになり、忠誠は愛良に、そういうこと聞いちゃだめ、と小声で言う。

 近くでエンジンの音がして皆が見ると、車に乗った明龍が駐車場出口までやって来ていた。明龍は、おーいもう行くぞ、と呼び掛けてきたので、皆は車に戻って乗り込む。


 車が到着した音を聞きつけて、師匠が別荘から出て来た。

「やあみんな、よく来たね」師匠は明龍にも、運転ありがとう、と言う。

「最後に運転してたのは兄貴だけど、兄貴はこの近くまで愛良に運転させたんだぜ」明陽は父親に告げ口する。

 ええ?本当?と師匠は愛良に聞く。

「で、大丈夫だった?危険なことはなかった?」お前が一番、道に慣れてるのに何で愛良に運転なんかさせるんだ、と師匠は明龍を責めるように言う。

 明龍がそれに弁明しようとすると、私に任せて、と言うように目で明龍に合図しながら愛良はさっと師匠との間に入る。

「師匠聞いて下さる?明龍ったらひどいの」愛良は師匠に合わせるように言うので、師匠はうんうんどうしたんだい?怖かったかい?と愛良の言うことを聞きながら歩き始める。

「兄貴だっさ。愛良にかばってもらっちゃって」

 お前が余計なことを言わなければいいんだよ、と明龍に言われ、どうせすぐばれるじゃん、と明陽は怒る。

 愛良は女中たちと合流し、キッチンで彼女らに教えてもらいながら昼食のサンドイッチ作りに取りかかる。

「シークレット・フォーミュラ2」は「シークレット・フォーミュラ」の続きです。


「シークレット・フォーミュラ」

https://ncode.syosetu.com/n0091gc/


更新頻度:

なるべく1ヶ月に1度を目標に連載投稿していく予定です。

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