ぎゅるぶぢゅる
宇宙で遭難してしまった。
私の乗っている宇宙船が故障した事が原因だ。宇宙船に積んでいる食料とエネルギーには限りがある。
仕方がないので、近くの惑星に降りることにした。
かろうじて着陸に成功した宇宙船は、私が降りると木っ端微塵に爆発した。
食料を全て失ってしまった。
なかなかショックである。
でも失くなったものはどうしようもない。
私は気持ちを切り替える。
この惑星は、真っ白な地面にピンクのヒトデがちらほらいるくらいで平和そうだ。
しかしあのヒトデは食べれるのだろうか。
焼けばなんとか耐えれそうだが、ヒトデなのにピンクの立髪が生えていてあまり食欲がそそられない見た目である。
私がどうしたものかと悩んでいると、何かが地中から現れた。視界いっぱいに広がるのは青色から淡い桜色にグラデーションのように色が変化するような美しい蝶の羽。
透き通るような巨大な羽をもつその生き物には尾鰭と背鰭がついていて、青々しく、地球上でいう鮫のような生き物だった。
その生き物が羽を羽ばたかせると、パイナップルが現れた。私に食べてと言うようにパイナップルを近づける。
パイナップルは甘くて美味しかった。
私がありがとうと言うと、その生き物は嬉しそうに「ぎゅるぶぢゅる」と笑った。
私はその生き物をぎゅるぶぢゅると呼ぶ。
ぎゅるぶぢゅるは私がこの星で生きていくために欠かせないパートナーとなる。
ぎゅるぶぢゅるは私にお湯の湧き出る場所を教えてくれ、パイナップルを毎日与えてくれ、私の話し相手となってくれた。私はぎゅるぶぢゅるのおかげで楽しい遭難生活を送っている。
私がこの惑星でぎゅるぶぢゅると暮らして1ヶ月がたった頃。ぎゅるぶぢゅるが私を始めて頼ってくれた。
「へる、へるぷ、ぷみ」
蝶の羽をぶるぶる震わせながら、ぎゅるぶぢゅるは拙い言葉で私に助けを求めた。
その日から、私はぎゅるぶぢゅるがどこからか持ってきたレーザー銃と手榴弾で、ぎゅるぶぢゅるの敵であるピンクのヒトデを殲滅することになった。
ピンクのヒトデは倒しても倒してもキリがなかった。ぎゅるぶぢゅるによると何十億匹もいるらしい。私は毎日毎日、ぎゅるぶぢゅると頑張ってピンクのヒトデを倒し続けた。
数年がたち、ようやくピンクのヒトデを滅せた。その時、私の視界は変わる。
真っ白な地面は、茶色い土や、黒いアスファルトなど見慣れた地球の地面だ。
緑色の空は、水色で、紫色の雲は、白色だ。
ここは、私の住む母星地球なのだ。
私が殲滅した敵はピンクのヒトデなどではなく、私と同じ人類だった。
私は地球から出ていない。
私は宇宙になど行ったことがない。
全ては、宇宙から現れたぎゅるぶぢゅるが見せた幻覚だ。
美しい蝶の羽を持つ鮫など居なかった。
ぎゅるぶぢゅるは、本来の姿である醜悪なぬめぬめした巨体を現し、楽しそうに「ぎゅるぶぢゅる」と笑った。
「ぎゅるぶぢゅる、ピンクのヒトデは滅んだよ。もう大丈夫」
私はぎゅるぶぢゅるに近づく。
同胞たる人類が滅亡したのは悲しいが、亡くなったものは仕方ない。
私はぎゅるぶぢゅると生きていこう。
ぎゅるぶぢゅるに伸ばした手はぎゅるぶぢゅるに噛みちぎられた。
視界が真っ暗になる。
頭の骨がぎゅるぶぢゅるの歯で砕かれる音がした。
「ぎゅるぶぢゅる」おわり