表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇夜に欲望は嗤う  作者: Asuka
ホロウ編
5/6

蒼炎の死神

青き炎は豪炎となり、煉獄を作り出す


煉獄はやがて全てを包む


来たる黙示録の刻、最果てにはひとり


その体は、蒼に炎に燃え盛る



影に向かい、青き炎の拳を放つ。当たれば炎となり、影を焼き尽くす。その力は悪魔の如し。迫り来る者らは全て、炎により滅されていく。


「ぐっ…!セァっ!」


敵の攻撃を受け、拳を打ち返す。私の本領は足技ではあるが、これでも十分だった。むしろ、本気にならずとも影が死んでいくためつまらないほどだった。死神の力とはこうも強いものなのか…


「…つまらない。もっと!私を楽しませてみろ!」


私は激怒する。それに呼応するように、炎もより熱くなっていく。影たちはまたしても迫り来るが、その動きには計算がない。まるで操り人形のようにぎこちなく、拙い動きだ。そんな動きでまともに戦闘ができるはずもなかった。


「ぐっ…ふざけるなぁ!」


そのだらだらとした動きにしびれを切らし、炎を纏った蹴りで影の頭を粉砕する。怒りで燃え上がる炎。その場はら煉獄と称するにふさわしい光景となっていた。


「雑魚が…」


ただ、それでも私は満足できなかった…まだ楽しめない。奴らには意思も力もない。ただの傀儡に過ぎない。そんな雑魚に、用はなかった。


「期待はずれだったか…まあ、所詮奴らはそんなものさ。」


戦闘をずっと見ていたヴァドスは言った。彼自身も一切手助けをしなかった。無論、そんなものは一切いらないのだが、彼から見ても私はまだ力を持て余していることがわかるようだ。


「ああ、期待してみればこのような雑魚の集まりだった。とんだ茶番だ。」


「まあ、そう焦るな。人間の欲望を隠れて貪った奴が時期に現れるだろう。今夜はもう気配を感じない。貴様の家に帰るべきだ。」


「満足させる奴もいないとは…つくづく愚か者ばかりだな。」


舌打ちをして、私は力を封じ込めた。少しばかり体が熱い。周りの炎も力を沈めると、それに呼応して消えていった。戦後処理はしなくても良いということか。


「明日は、もっと強い奴が現れるんだろうな?」


「わからん…それは運次第だ。退屈しのぎになる奴が現れるといいな。」


ヴァドスは無責任に言った。不満を残しながらも私は、自宅へと帰った。明日こそは、強者と戦いたいものだ。私を楽しませてくれる強者と。



目覚めの悪い朝だった。今日は休日だから別に睡眠を貪ってもいいのだが、そういうわけにもいかない。私はしばしば起きると下着姿のまま洗面所に向かう。

目覚めの顔はあまり良くないものだったが、最近はさらにひどい。目つきは凶暴な獣のそれであり、自分がいかに戦闘に飢えているかを物語っている。乱雑な髪がまたそれを強調してしまう。心なしか身長も伸びた気がする。死神の力には体格の向上も含まれるのだろうか。このような人物がいれば、たしかに避けるのも当然か。大学での自分のありようの原因が何となくわかった気がした。


顔を洗って、適当にパンを焼いてコーヒーを入れ、朝食にする。テレビをつけてニュースを見ると、最近の政治家の不祥事が大々的に報道されていた。人間というのはつまらぬもので、目先の利益に踊らされていとも簡単にその力を失う。要は自滅だ。そんな馬鹿が周りにうじゃうじゃといるから、この世界はつまらない。ただの乏しめあいでしかないこの世界は。

そんな時、ニュースが切り替わる。すると最近の連続不審死のニュースが流れた。東京都にて相次いで発生する不審死。全て無惨な状態の変死体。凶器も手口も不明だそうだ。警察も手がかりのまったくわからないこの事件に手を焼いているようだ。


そんなもの、《《奴らのせい以外の何ものでもないくせに》》。



夜になるまで、どのみち狩りはできない。昼間はくだらない人間の生活を送らなくてはならない。外に出るのも退屈だから、私は家にある神話書に手を伸ばした。ギリシャ神話、私のお気に入りの話の一つだ。ヨーロッパ文化の礎を築いた神々の物語は私を退屈から少しばかり解放してくれる。夜までとはいかないがしばらくの間、暇つぶしはできそうだ。

私はコーヒーを片手に、続きのページからそれを読み始めた。


いつの間にか昼になっていた。そろそろ空腹を覚え始めていた私は、冷蔵庫の中を確かめる。焼きそばくらいなら作れそうだ。私は適当に具材を用意して、調理を始める。自炊はしているため、このくらいならすぐにできてしまう。もっと豪勢なものも作っていいのかもしれないが、そんなやる気が起きるほど気力が残っていなかった。手早く調理を済ませ完成させる。一人暮らしは長く、料理もそれなりにはできる。腕に自信があるわけではないが不味いものを作ったことはなかった。バイトでも時々厨房に立つためそれなりに役には立つようだ。


昼食を終え、あまりに余暇を持て余している私はまた寝ることにした。たまには自堕落に身をまかせるのも悪くはない。夜に戦闘をするのはそれなりに体力を消費してしまう。休めるときには休んでおくべきだ。ベッドに戻り、私はもう一度目を閉じた。


目を開けると、すでに町は夕暮れ時だった。どことなく不穏な気配も感じられてくる。おそらく、奴らが目を覚まし出した。いよいよ狩の時間だ。私は適当に夕食を済ませ、出立の準備をする。この力にはまだ慣れきってはおらず時々体が熱くなる。ただ、その熱さも私にとっては心地よいものだった。


今日は北のほうから気配を感じる。駅があり、人通りの多い北側に現れたか…人名に危険が訪れる可能性も考慮し、急いで向かう。人間より遥かに速く走ることができるため、北側の駅にはすぐに着いた。気配は大きくなっている。やはりこのあたりにいるようだ。

何処だ…


「うわぁぁぁぁぁ!」


当然、男の悲鳴が上がった。すると近くの人間がすぐに改札付近を立ち去って行く。そちらを向くと、そこには《《若い女性を襲う男がいた》》。しかし、その男からは影と同じ気配を感じた。奴らは人間に取り憑くこともできるのか…襲われている女性はすでに死んでいた。腹に穴が開いている。凄惨な光景がそこには広がっていた。


「キサマ…コロス!」


男に取り憑いた影が、襲いかかってくる。私は能力を解放し、炎て攻撃する。この力は拳に炎を纏うだけでなく、炎を飛ばす遠距離攻撃も可能だということを最近知った。もう少し慣れなくてはいけないが、この方法は使えれば非常に便利である。

私の放った炎は一直線に奴の元に向かい、命中した。炎をくらい、燃える男。すでに絶命した後に影が憑依したのか、あっけなく倒れ体から黒い靄が出る。その靄は人型を作り、私の知る影となった。


「なるほど、厄介な奴らだな…」


人間に憑依する能力…日常に溶け込むとなるとこちらも面倒だ。気配で察知できないこともないが、それが本当に影かどうかは断定できない。こうして堂々と現れればいいものをどうして厄介にするのだろうか…


「グ…アアァア!」


奴が襲いかかってくる。流石に遠距離攻撃に持ち込む暇がないため、炎をまとい格闘に持ち込む。やはり、遅い。すぐに攻撃を避けて反撃する。こちらの素早い攻撃に奴も付いてくることができず、終始こちらが圧倒的に有利な状態だ。またしてもつまらない戦闘になるのだろうか。落胆を覚え始めながら、奴を蹴り飛ばす。全く…つまらん奴ばかりだ…

とどめを刺そうとしたその時、


「グ…グアッ…オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


奴の様子が変わった。悶えているようだが、奴の体が大きくなっている。そして奴から感じられる気配もどんどん大きくなっていっている。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


奴の体は瞬く間に成長し、すでに駅の天井にさしかかっていた。そのまま奴は外に出ようとする。まだ人間がいる以上、そうさせるわけにはいかない。私は奴に近づき蹴りを食らわせる。しかし、奴には一切効かず、そのまま飛ばされてしまう。


「ぐっ…面倒だな…ただ、少しは楽しめそうだ…」


木偶の坊で終わることはどうやらないようだ。私は未知の領域に踏み入る愉悦を覚えていた。奴との戦闘がこのままどうなるか。血が騒いでいる。

奴は外に出て尚、成長を続ける。体格の向上は終わり、駅舎ほどの大きさにとどまったが奴の気配は以前、大きくなり続けている。どうやら私たちで言うところの、ホロウが成長しているようだ。奴が固有にもつ能力が強くなるならば、面白い戦闘も期待できそうだ。


「さて…そろそろか。」


奴の成長が止まり始めた。奴は私の数倍大きな体に黒いオーラを纏っている。ここまで強くなるか…いいだろう。私は炎を纏う。蒼く燃え上がるそれは、熱さを増していった。



私が奴に遠距離攻撃を放ったことで、戦闘が再開された。奴は先ほどまでダメージを受けていたはずのそれを受けても余裕で立っており、同じような攻撃を放った。それを躱す。それは駅舎に命中すると、跡形もなく消し去っていた。恐ろしい攻撃だ…私は炎を放ちながら奴に近づく。近接戦闘に持ち込みたいところだが、奴に攻撃が当たって効くかどうかだ。あそこまで成長してしまうと、遠距離攻撃を当てる方がいい気もする。


「グオオオオオオオオオオオオオ!」


奴が咆哮を上げ、腕を振り下ろす。それも避けたが、地面が大きく損壊した。遅いが、破壊力は抜群なようだ。その腕に乗り、一気に奴の顔面付近まで走る。こちらに頭を向けた奴に向かい蹴りを食らわせる。


「効いたか…?」


着地した奴を見る。よろけてはいるが倒れなかった。大きなダメージにはなっていないようだ…

奴が反撃する。私に向かい次々と腕を振り下ろす。反動でよろめいてしまうがどうにか攻撃はかわし続けた。


「セアッ!」


地面に叩きつけられた腕を殴る。しかし奴には効いていない。二階建ての住宅ほどの大きさにもなる奴に、なかなか有効打が出ない。

やはり、近接戦闘は無理なようだ。

一度、奴から距離を取る。そのまま炎を奴にいくらか飛ばす。命中し、多少奴がよろめくが、依然決定打にはならない。


「打たれ強いな…このままじゃ埒があかない…」


苦戦を強いられてしまった。疲れと熱が出始め、私は体力を消耗していた。体が硬直する。決定打を模索する私に奴が迫る。


「ふっ…ここまで成長させてしまうか…好奇心はいいが、苦戦しているようだな。」


奴が腕を私に振り下ろした瞬間、私は何者かに引っ張られた。


「ヴァドス…」


私を連れたのはヴァドスだった。少しばかり間の空いた再会だ。


「あれほど成長したなら、貴様の得意とする近接戦は不向きだ。遠距離攻撃もできるようだが、奴に効くほどの強さにはならんようだな。」


「ああ…決定的な攻撃ができない…そのせいで、だんだんと熱が…」


頭痛を覚え始め、私はしゃがみこんでしまう。


「ホロウの代償か…このままではやられてしまうな…仕方がない。貴様に力を引き出す方法を教えよう。その状態には少し応えるが、構わんな?」


ヴァドスが直接手を下してもいいかもしれない。ただ、《《私は直接奴らに手を下したい。》》目の前にいる奴らを私の手で直接倒したい。こいつに獲物を取られるわけにはいかない。きっとそれを察して、ヴァドスは私にこう持ちかけたのだろう。体は熱いが、私はその提案をのむことにした。


「いいだろう。教えてくれ…」


「よし、成立だ。おっと、一度避けるぞ。」


巨大化した影がまたしても腕を振り下ろす。それを避け、ヴァドスは私を抱えて距離をとった。


「早速だが、この力を使う間、貴様はより死神に近くなる。人間である貴様の体にかかる負担も大きくなる。ただし、引き出される力はその対価に見合う。では、始めるぞ。」


体の負担など知ったことではない。どんな目に遭おうと受け入れよう。取引の時から、《《人間であることなどとうに捨てた》》。


「貴様の熱を心臓にこめるつもりで、体に力を入れてみろ。容量は胸筋に力を入れるイメージだ。」


言われた通りにしてみる。すると身体中の熱が心臓付近に近づいた。想像を絶する熱さに体が悲鳴を上げる。

しかし、体からは徐々に力が湧き上がってきた。まるで熱を力に変える蒸気機関のように心臓部に熱が貯まる度に、体の力は増していった。


そして、その力を解き放つーー


「ハアッ!」


力を解放すると、周りの建物のガラスが割れて、いや、私の発した熱で溶けていた。周りの木々も蒼炎で燃え、辺りは煉獄と化した。

影もまた、エネルギーを受けて吹き飛ばされる。その場で平然を保ったのは、ヴァドスだけだった。


「…成功だ。天才だな。貴様は。」


ヴァドスは不敵に笑って私に言う。

私は、碧がかった髪に鍛え抜かれた体躯、そして蒼く燃え盛る炎を纏った、死神のような姿になっていた。自分の変化を見て、成功したことを察する。


煉獄に佇む私は、未知の領域に歓喜した。

どうも!Asukaです!

やっとの事で、連載していたシリーズに手をつけられました!春休みの課題を片付けているうちに、ネタがカツカツになり、一時やばいなと思っておりました…どうにか書けた。よかったです!

この話にて、麻衣は一つ上のグレードに達しましたね。ただ、最後に出てきた姿が今後のスタンダードになります。つまり、ここまででようやく麻衣は死神の戦闘のスタートラインに立ったわけです。これからの彼女の戦いに乞うご期待!

最後に、いつもご愛読ありがとうございます!連載が遅れたことを深くお詫びいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ